第342話 開拓村での日常から

次の日の朝、家の外で鞣した大蛇の革を広げうっとりしている俺、クルトンです。


全長20mは有るだろうか、鞣した事で更に発色が良くなった真緑の鱗がエナメルのように光を反射してとても美しい。


馬車の屋根にまるめて積んできたが、こうして広げてみると思いのほかデカいな。


でもどうしようか。

本来なら高値で取引されるであろう美しい蛇革。

でも全体のスケール比で見たらかなり細かい鱗も実際の大きさで言えば1枚が前世で言うスマホ位ある為バッグやベルト、財布などへの加工は無理だ。


ここまでデカいと人が普段使いする革製品には使えない。

鱗を剥いで使えばいいが、わざわざ鱗を取ってしまうのは付加価値を落としてしまう様で躊躇してしまう。


かといってRPG定番の鱗鎧(スケイルアーマー)にするには強度が無さすぎる。

軽くはあるが明らかに金属製の方が丈夫で頑丈だし、なんなら木製にも劣るかも。


溶かしたり触媒にする事で武具の性能アップや得意な特性を付与したりする仕様のゲームも有るが、魔獣の素材(骨、牙等)意外で金属を上回る強度を持つ素材はめったにないからなあ。

日常品への流用もどうだろう?鱗を削り出してカフス、服のボタンにする位しか思いつかない。

美しい事には変わりないのでタイル状に削り出して宝石箱の外装へ張り付けるとか?

そうなると皮より鱗メインになるか。

繰り返しになるがそれだと革の価値が下がりそう、それはそれで仕方ないか。



何れにしても・・・結局は観賞用でしかないか?だとしたら希少価値は有れど売価に期待はそれ程できないか?

後は研究資料用。

欲しい人がいなければ実質無価値と同じだもんな。


こうなると薬の素材や、食材としても強力に滋養強壮に効く肝なんかの方がよっぽど高値で売れそうである。


「ホント、どうしようか。

何気にここまでデカいと使用用途が思い付かない」



テホアとイニマは

「でっけー!」

「デッケェ」

とか革の周りをグルグル走り回ってその大きさを実感している。



テントにするにも中途半端な幅だし、何より重く持ち運びし辛い。

テントにこのデメリットは致命的だ。

馬具にするにもこの美しい鱗が邪魔だし建設資材としても用途が思い浮かばない。



はく製にした方が良かった様にも思えてきたが、仕留めたあの状況下では無理だ。

ハウジングとスキルに任せればはく製には出来そうだが、解体せずに運ぶのに準備が足りなさすぎる。


俺がウンウン唸っていると後ろから近付いてきたパメラ嬢が口を挟んでくる。


「陛下に献上すれば良いじゃない。幸い貴方の技能で鞣したから品質には問題無いんでしょうし。

陛下なら貴族連中に自慢する為に喜んで受け取るわよ」


献上?って事は対価無しですか。

「まあ、建前上はそうなのだけど、通常はその後コッソリ色々便宜を図って頂けるのよ。

商人なら1年間の税率軽減とか、騎士や兵士なら定期昇給時に2階級上げたり勲章を叙勲したり。

なんなら貴方の今までの功績を考えれば領地の下賜を望んでも認められると思うわよ」


土地は王都内に頂戴したのが有りますのでこれ以上はなんだか怖い、俺が領地の運営を熟せるとはとても思えないし。



「まあ、その辺は良いとして珍しくて使い道無い物なら献上するのが一番無難よ」

パメラ嬢のアドバイスの通り献上した方が良さそうだ、そうなると今は死蔵するしかないか。


まあいい、使い道が無ければ元老院に送りつけてしまえばいい、そこから陛下に持って行ってもらおう、そうしよう。



午前中に氷漬けにしている大蛇の肉を、村長達村の役員が各家庭の割り当て分を配給する。


料理次第で結構おいしい肉ではあるが牛の方が柔らかくよっぽど美味い。

でも蛇肉は肝とまではいかないが、それでも滋養強壮に大変良く効くと言われており皆有難がってもらっていく。


だから、

「クルトン、有難うな」

俺と同年代で最近結婚した男性が俺に礼を言って去って行く。


さっきからもう4、5回だろうか、子供を欲しがっている夫婦たちから同様の礼を言われて俺もまんざらでもない。


子供が少ないこの世界で人類の繁栄の一助になれるなら誇らしくすら感じる。



そして俺も配給分を貰いに列に並ぶ。

俺の番になると村の役員の一人が「クルトン、いつも有難う。しかし本当に良いのか?これだけの量を」、そう聞いてきます。



村の狩人が共同で狩った獲物は村の共有財産になりますが個人で狩った者は基本狩った狩人の物です。


しかし以前の水牛の時のように村のバックアップを受けての運搬、解体を行ったので優先権は俺に有るけど肉については村に譲渡した。



それについての礼でしょう。

「今回の獲物は特にデカかったですからね、腐らせるのももったいないし。皆で頂きましょう」


そう伝えて俺たち家族の分の肉を貰うと家に戻って行く。

今から下拵えとしてワインに付け込み臭み消しをしておこう。

夜はこれを使って唐揚げモドキを作る、多分皆が美味しいと言ってくれるはずだ。



先に手紙で概要を伝えてはいたが、昼食の時に今回の帰省の目的について家族に説明をする。


シンシアの件でもう一度王都に行かなければならない事、迎え入れる使用人への養育期間が必要な事、この村へのテホア達一家の受け入れ準備をしておかなければならない事等々。


「なるほど、もう少し出稼ぎ期間が延びるんだな。残念だが大事な仕事を任されているんだ、仕方ないよ」


「そうね、寂しいけど仕方ないわね。

貴方は騎士に成ったんですからしっかりお勤めを果たしてきなさい」



とは言え、村に戻って来るのは間違いないので聞いておきたかったことを質問する。

「これから国から予算と人的資源を投入されて、この開拓村はさらにその目的に邁進する事になるんだ。

陛下から直接聞いた、これは決定事項だよ。

それで何か必要になるものはある?俺的には馬とロバ。乳牛も用意した方が良いと思うんだけどどうかな?」

家畜が多すぎても世話ができなければ弱らせるだけだから、かえって可哀そうだ。



何を言われたか分からない様な顔をしていた父さんだったがようやく理解して「全部あれば一番良いが大丈夫か?」と逆に聞いてくる。


問題無いよ。

それくらいの稼ぎは貯まっているんだ。


そうしたら明日の内に馬小屋も立てておこう。なあに、今となっては大した時間もかからず完成できる。



あと・・・、

「イフとエフの結婚資金も準備できてるんだ、こっちは何を準備したらいい?」


そう問いかけるとイフ、エフ二人は顔を見合わせ

「持参金が有れば取りあえずは問題無いんじゃない」

「私たち未だまだ14よ。

嫁ぎ先も決まって無いもの、お貴族様へ羊を連れて行っても無駄になりそうだし」

そう言ってくる。


貴族に嫁ぐ可能性有ると思ってんの?本気か。


「もしもの話よ、兄さんは騎士なんでしょ?」

「国王陛下や侯爵様とも伝手が有るそうじゃない、そんな話が来てもおかしくないでしょ」



まあ・・・話しだけならありえなくはないだろうが、お前たちに貴族は務まらんと思うぞ。

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