第343話 戯れ
イフとエフの甘い考えを改めさせる為にパメラ嬢に貴族の生活、心構えについてのアレコレをご教授いただいている俺、クルトンです。
「そもそも上に立つ者は領民の模範とならねばなりません。
日ごろの振る舞い一つ一つから我々貴族への信頼と信用を寄せてもらう事によって、『もしもの時』に下す我々の決断を領民に無条件で納得させる事が出来ます。
それを体現している典型が国王陛下と私の曾爺様のデデリ・サンフォーム侯爵です」
パメラ嬢がすんげえドヤ顔で語っていらっしゃる。
聞いた話だけど領民からのデデリさんの人気は凄いらしいからね。
騎士団の大隊長だから殆ど領に居なくて、領運営は代官(デデリさんの実子で次期当主)丸投げなのに騎士としての成果を上げる度に人気が高まって行くらしいから、これが『日ごろの振る舞い』ってやつなんだろう、実際騎士って命がけの仕事だからなあ。
「「ほっほー」」
と、感心しながらイフ、エフ以外にテホア達、母さんも聞いている。
父さんたち男衆は微笑みながら、いつ放たれるかも分からない流れ弾に被弾しない様に貝になり申して御座いますです。
「その妻となる者は夫を支えるのは勿論、母として、部下の相談役として幅広い役割を任せられます」
ん、そうなのか?
秘書と母親、妻の三役を熟さにゃならんって事か、かなり大変じゃね?
お産の時以外は命の危険はほぼ無いとはいえ結構仕事量ヘヴィーな気がする、想像だけど。
「それゆえ貴族の配偶者(女性)は一人にとどまりません。
弱者女性の救済の意味もありますが少なくとも2名、過去に一番多い方は50名以上の女性を養っていた記録も有ります」
「え?そんなにいるの!」
「一人くらい気が合わない人いるでしょうに、私には無理だわあ」
いや、なに貴族に嫁げる前提で感想仰っていらっしゃるの?
そもそもお貴族様へは嫁げない可能性の方が遥かに高いんだからね、君たち。
「さすがに現在では最高で9名だったと記憶していますが・・・そもそもそれだけの人数を養う事が出来るだけで国に貢献しているという証でもありますから、庶民、特に村出身の方とこの辺が大きく感覚が違うかもしれませんね。
魔獣の被害で夫を失った未亡人など、先にも言いましたが弱者女性の救済の意味合いが大きいので貴族社会の中ではごく当たり前の行いでもあるのですよ」
「まあ、その中で当然序列も有りますから大人数になればそれなりに大変そうではあります」と実情も話してくれた。
「へえー、じゃあ兄さんは?
騎士で魔獣殺しの英雄なんでしょう。お金もそれなりに稼いでるって言うし。
兄さんならお嫁さん何人位が妥当なのかしら?」
エフがセンシティブな話をぶち込んできた。
その話は勘弁してくれ、何気に俺の心のHPを削って来るんだから。
「私もクルt・・・、インビジブルウルフ卿の事業の財務状況を知っているわけではないのでハッキリ言えませんが、王家が直接後ろ盾となっている事業も有りますし宝飾職人としてあのチェルナー姫様からの信用、信頼も取り付けています。
この2年間だけで魔獣の『単独討伐数』は特殊個体認定されている物だけで5頭記録され、この他に複数人での討伐実績として3頭・・・これも特殊個体認定魔獣でしたか・・・国への届出がされていますが、騎士団内での資料では正しく情報を理解させる為に単独討伐として記録されています。
確か卿は現在二十歳でしたよね?
おそらく、この年齢でこれだけの成果を上げた者は騎士団、貴族、辺境伯の過去の記録を探してもインビジブルウルフ卿が初めてだと思います」
中二(笑)なのに加護持ちへの教育の賜物なんだろう、まるで演説の様に堂々としていて皆聞き入っている。
しかし、パメラ嬢がちゃんと俺をほめてくれている。
年下ではあるが上位貴族のお嬢様から、それに騎士団では情報は正しく伝えないと判断を誤り命を落とすという認識が定着しているから、(多分?)忖度なしに俺を評価してくれてるだろうから正直嬉しい。
晩御飯の唐揚げ頑張っちゃうよ。
「姫様、つまりどういう事なんでしょう?
兄さんは何人くらいのお嫁さんを貰うのが妥当なのでしょう」
イフ!そんな下世話な事を。
せっかくパメラ嬢が具体的な数字を出さずに事を収めようとしているのに!
「前例が無いので見当がつかないと言うのが正直な所ですが・・・一番間違いない回答はインビジブルウルフ卿が『望むだけ』でしょうか」
「「「・・・」」」
何ですか?
女子衆が俺を見てくる。
男衆は相変わらず微笑んだまま貝状態だ。
「・・・そう、こればっかりはめぐり合わせだからね、機会があれば自然と事は進んでいくと思うよ」
地雷を踏まない様に注意して言葉を選ぶ俺、前世でもそんな感じだったし。
「機会が有れば何人でも?」
踏み抜いちゃったか地雷?
いや、そう言う意味じゃありません!
ああ・・・パメラ嬢、イフ、エフからの視線が痛い。
「まあ、昔から流されやすそうに見えて頑固なところはあったから変な女性には引っかからないだろうけど、もう少し自分から動いてけじめをつけた方が良いんじゃないかしら。
私も早く孫の顔が見たいし」
「兄さんは誰にでも優しいから誰からも気にされないのよ」
「そうそう、良い人止まりなのよね。
もうちょっと強引でも良いと思うよ、英雄なんでしょう?」
君たち、なんか軽く言うね『英雄』って。
それはともかく、妹たちへの貴族の心得講習会のつもりが、何故か俺の嫁話になっていたでござる。
解せぬ。
「フフッ、自覚は有っても実感していないんでしょうから言ってあげる。
貴方は強すぎるのよ。今でも人の枠に収まっていないのに、このままだと誰も貴方と一緒に並び歩む女性は現れないわよ。
もう少し焦った方が良いと思うわ(笑)」
えぇー、ならベルニイスにお嫁さん探しに行こうかなぁ(切実)。
あそこは『戦士の国』だって言うから、ここより可能性ありそうな気がするし、俺に対しての忌諱感もなさそうだし。
「・・・多分それは無理だと思うわよ。
将来、貴方の子供の奪い合いが国同士で始まるでしょうから。
わざわざそんな火種を起すのは国として看過できないでしょう?いざと言う時は『貴方の為に』王家が動くわ。
そうなれば国に大きな借りが出来るのよ。
貴方はそういったの嫌がるじゃない、だからちゃんと自分で何とかしなさい」
急に真面目な顔で俺を諭すパメラ嬢。
いや、正論なんだろうけどもうちょっと優しく言ってほしい。
「ふふ、どうしようもないじゃない。英雄の宿命よ」
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