第344話 資産登録品
あれから昼食をとって午前中にやれなかった畑仕事をする。
今日は俺も居るので午前中の仕事も挽回して、なおかつ午後の分もかなり早く完了する。
いい汗かいたと水を飲んでいる俺、クルトンです。
「まて、まてぇ~ポムぅ」
「まてぇぇ」
テホア達は元気にポム、プルと鬼ごっこして遊んでいるが、身体能力が俺のイメージする子供のそれじゃない。
口調がのんびりしている女の子のイニマでさえ走るとき、地面を一蹴りする度に土煙が舞い”クンッ”っと加速が続いていく。
テホアなんかは周りの木を利用して立体機動顔負けの身軽さで走り回っている。
・・・前世だったらプロスポーツ選手にでもなって、早期引退で悠々自適の生活を満喫できるんだろうなぁ。
「兄さんが鍛えているだけあってあの歳でとんでもないね、末恐ろしいよ」
クレス、君も人の事言えないからね、自覚してる?
「?」
無自覚かよ?
厄介な!俺でも自分の力は把握しているつもりだよ。
「俺からしたらどっちもどっちだな。
さて、クルトンのお陰で仕事も片付いたからさっさと戻ろう。晩飯は唐揚げ作ってくれるんだろう?酒と一緒に期待してるからな(笑)」
そうだった、狩った大蛇を使った唐揚げ、ワインに付け込んでるから臭みも気にならなくなったんじゃないかな。
更にいろんなスパイスきかせて味に変化も付けるつもりだし。
けどその前に・・・。
向こうに見える我が家とその周りを眺める。
明後日の朝にはコルネンに出発するつもりだ。
次にここへ戻って来た時の為に厩舎を準備しておかなくては。
「父さん、馬とロバ、山羊と牛。まあなんでもいいけど、これからの事を考えると厩舎はどの位の大きさが有ればいいかな。
後で建て増しも出来るから今大体の希望を教えてほしいんだけど」
「お、今朝の話か。
そうだなぁ・・・馬2頭、ロバ1頭、山羊は良いとして牛は牡牛が1頭と乳牛が2頭あれば理想・・・。
大分欲張りすぎたかな(笑)」
確かに以前であれば夢の話しだったろうけど今は何ら問題無い。
それ以外にスレイプニルも2頭連れてくるからね。
「はは、有難い事だ。
孝行息子を持って幸せ者だよ」
「そうだね!」
クレスもミーシカを気に入っていたようだったから嬉しそうだ。
じゃあ、早速始めよう。
ハウジングが有れば直ぐだ、晩御飯の支度の前に終わらせてしまおう。
・
・
・
「ねえねえ、兄さん。
厩舎の場所は私たちにも相談してほしかったんだけど」
ん?なんで。
「風向きとか日当たりとか有るじゃない、冬は霜だって降りるんだから。
私たちには兄さんが建ててくれたこの快適な家が有るけど厩舎はそうじゃないのよ」
「そうそう、特に馬はデリケートなんだから。野生種のスレイプニルとはわけが違うのよ」
楽しい晩御飯の最中にイフとエフから厩舎の場所についてガン詰めされている。
それでも皆モッシャモッシャと唐揚げの消費は止まらない。
「主に世話をするのは私たちなんだから」
「え?僕もするよ」
「クレスは馬しか興味ないんでしょう?」
「それに今でも力が強すぎて山羊の方が乳しぼりを嫌がるのよ、クレスだと。
乳の出にも影響するんだからクレスに乳牛をダメにされたらかなわないわ」
そうそう、俺の事は「兄さん」と呼ぶイフとエフはクレスの事は最初から「クレス」と呼んでいる。
父さん、母さん、俺の皆がそう呼んでいたからそのまま定着してしまった感じだ。
はたから見るとクレスが軽んじられている様に聞こえるかもしれないがそんなことは無い、遠慮せずに本音を言える正しく良い家族。
ちゃんとクレスにも敬意をもって言葉を選んでいるし当然その本音も常識的な範囲に留める。
その塩梅加減を決める良識も両親の教育の賜物だ。
「ならどの辺に移した方が良い?」
「・・・今更だけど、その感じだとあれを移せるのよね?」
イフが呆れた感じで聞いてくる。
「まあな、そういう技能だし」
「なら明日私たちの立ち合いで決めましょう。エフ、それでいいわよね?」
「ええ、そうしましょう」そうエフが返事をすると、今の話が無かったかのように次の話題に移っていく。
女性のこの切り替えに付いて行けないのよね。
「そうそう、前に王都から鑑定士とか護衛の騎士さんとか来て大変だったのよ。
資産登録?だったかしら、あのネックレスを登録するとかで。
貴方(クルトン)がサインした書状が無かったら新手の強盗集団かと思って追い払っていたわ」
カラカラ笑っている母さん。
本当に強盗だったらクレスでも追い払えただろうけど、本物の騎士相手に対抗できる戦力ここには無いよ?
実は一線交えたとか無いよね?
「大丈夫、とっても強い騎士さんだったから直ぐに分かったよ」
クレスは冷静だったようだ、良かった。
本当にクレスが頼りだよ。
「・・・、・・・」
ん?
「・・・、・・・」
何でしょう?
パメラ嬢からの謎の圧が凄い、能面の様な表情のない顔なのに背後に立ち昇る湯気が部屋の温度を何度か上げている様だ。
そういや精霊の加護持ちの特性だっけか、この放熱処理能力。
「資産登録したネックレス?」
やっと口を開いたパメラ嬢。
「あら?パリメーラ姫様も宝石に興味があるのかしら。
ご覧になられます?」
「ぜひ!!」
「あらあら」と微笑んで席を立つと、保管してある部屋から箱を抱えて戻って来た。
「ふう、中身より箱が重いって言うのもどうなのかしら」
そう言いながらテーブルに持ってきた箱を乗せ、パメラ嬢の方に少し寄せてパカリと蓋を取る。
「お、おおぉぉ・・・、・・・言葉が・・・出ないです」
「そう?かなり派手じゃないかしら。とても使う事なんてできなくてね、そんな機会も無いし。
完全にタンスの肥やしよ」
俺の光の魔法で照らしているこの部屋で、更に明るい輝きがパメラ嬢の顔を下から炙る様に揺らめき上がっていた。
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