第345話 「何かゴメン」

節操ない位反射させた光でパメラ嬢の顔を照らすネックレスを覗き込み、

「うん、いい仕事したな」と自画自賛している俺、クルトンです。



「その時聞いたけど資産登録しなかったら・・・手続き間違ったりしたら破産してたかもしれないんですって?

本当に後先考えないで事を進めるから皆に迷惑かけるのよ」

母さんからお小言を頂戴している。


ゴメン、言い訳になるけど知らなかったんだよ。

いきなり騎士に成ったからこの辺教えてくれる人居なかったし。



「ねえねえ、クルトン。本当にこれ全部あなたが作ったの?」

パメラ嬢からの確認が有った。


ええ、そうですよ、その時の全力で拵えた逸品、ゴージャスでしょう?

「ネックレスにしては重すぎて付けてらんなかったわよ。完全に観賞用ね」

更に母さんからのお小言が続く。


あ、一応試してみたんだ。

「そりゃあねぇ、でも本当に無理ね。重さもあるけど私には似合わなかったわ。

パリメーラ姫様、一度お召しになってみますか?」


「え、宜しいのですか?」

侯爵令嬢が平民の母さんに敬語を使っているこの違和感。


そうこうしているうちにそそくさとネックレスを身に着けるパメラ嬢。

あんな笑う事あるんだな、意外。


「・・・どうかしら?」

そう俺を含む男衆に感想を求めるパメラ嬢。


いきなり難易度高いな、どう返事すればいいんだ?



「とてもお似合いですわ」

母さんのヨイショがナイスタイミングで入りますますパメラ嬢の機嫌が良くなる。



なんだろう、幾らパメラ嬢の美貌でもドレスと合わせないとネックレスが浮いてしまって違和感MAXだな。


「はあ、兄さん、なんて事言うのよ」

「褒めるだけで良いのに・・・こんな時に聞きたいのは感想じゃないのよ」


イフとエフからの話を受けて

「まあ、貴方には期待していないわよ」

と苦笑いのパメラ嬢。


何かゴメン。



その後、食事も終わり子供たち、パメラ嬢とイフとエフは順にお風呂に入りポム、プルを伴って就寝した。

今はクレス含む俺たち家族4人でワインを飲みながら談笑している。

因みにクレスはもう直ぐ17、つまりまだ未成年だがこの世界の人類はワイン程度では殆ど酔わないので一緒に飲んでいる。



俺は話そうと思っていた王都での事を、特に重要な事を伝える。


「そう言えば王都で伯父さん、ブラトル伯父さんに会ったよ。

今はバンペリシュカ伯爵家に養子に入って家督も譲ってもらっていたから・・・もうね、正直かなり驚いたよ、母さんも教えてくれればよかったのに。

親戚に伯爵様がいる事になるんだよ」


俺がそう言うと母さんは目をパチクリさせて、父さんは「えっ!」って顔で驚いた。

「兄さんそんなに偉くなっていたの、えぇぇ・・・」

「そんな、義兄さんが伯爵様だなんて知らなかった・・・。どうしよう、お祝いも贈ってないよ」

父さんがアタフタしだす。


両親のこの様子だと本当に知らなかったみたいだ。


クレスは伯父さんの存在も初耳だったみたいにキョトンとしている。

話しはしてたと思うからただ単に気にしていなかったから忘れていたんだろう。



「母さん、手紙とか来てたんじゃない?

仕送りとかブラトル伯父さんは結構マメに母さんに連絡してたみたいだよ」


「そうね・・・あまりにも長々とどうでも良い細かな事まで書いて来るもんだから・・・途中から面倒くさくて放っておいた分が有るわね、そう言えば。

ええ、流石に捨てては無いわよ、安心して」


落ち着きなよ、安心するのは母さんの方だよ。

「もしかしたら仕送りもその手紙に同封されてるんじゃない?早めに確認しておいた方が良いよ。

あと、かなり心配してたから母さんから直接手紙を出しておきなよ、兄妹なんだから」



「そうね・・・、兄妹ですものね」

そう笑う母さんは、俺を向いているのに何だか別の誰かに微笑んでいる様で、

あふれそうになっている涙をこらえているみたいだった。



さて明日は何をしよう。

俺はベッドに寝転がって予定を整理する。



厩舎は作った、けど明日イフたちが見立てたベストな場所への移動がある。


改めて父さんに家畜のリクエストも聞いてメモしておこう。俺的には猫もネズミ対策で飼った方が良いと思うんだよな。

癒されるし。


あ!テホア達、テヒニカさん一家の住居を準備しておかないといけない。厩舎に気を取られてて忘れていた。

危ない危ない、そうなると明日はこれにかかりっきりになるな。

でも良かった、思い出して。


そうすると厩舎の移動はササっと済ませるか、改めて帰ってきた時にしよう。

時間次第だな。



水面に浮かび、流れてくるように頭に浮かんでくる事柄を整理しているとコルネンからの道中の出来事に注意が向く。


今更だがあの大蛇は何だったんだろう。


どう考えてもデカすぎだよな。

全長だけならクジラに匹敵する大きさ、海ならともかく地上であれだけの質量を維持し続ける為の餌はどうしていたんだろう。

蛇だから1回の食事で数か月の断食にも耐えられるのかな。


しかもあれだけのデカさになるまで魔獣の脅威から逃れてきたって事なんだよな。

あの時点であれだけデカいのに魔獣に見つからなかった?なんでだ。


魔獣と大蛇、両者がタイマンで戦えば質量のハンデは有れど膨大な魔力を内包している魔獣が勝つのは間違いない。


魔獣の索敵能力からどうやって逃れてきたんだ?


駄目だ、分からない事が多すぎる。

でも、もしかしたら魔獣から安全に逃れる為のヒントがあの双頭の大蛇にあるんじゃないか・・・?。

俺の認識阻害程ではないにせよ、自らの魔力を魔獣から隠す何かしらの術が。



空振りになるかもしれないけど確認するのも良いかもしれない。

肉はもう村の財産になってしまっているが頭と肝、眼球に革(鞣し済み)は手元にある。


”一般人”が街道を行き来する際、魔獣の脅威から解放される何かしらの手段が見つけられれば、今のこの世界ではかなり画期的な事だ。


今より格段に物資の往来、物流の品質が安定する、すなわち国が栄える。

魔獣に襲われる頻度が下がるという事でもあるから人的損害も少なくなるだろう。



俺の思い込みかも知れないがコルネンに戻ったら色々聞いてみよう、学者さんへ研究をお願いしても良いし。




そんな事を考え、思考がグルグル回りとりとめのない状態のままいつしか俺は眠りについた。

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