第202話 明日への道筋
もう店に戻らないといけないのにデデリさんに捕まっている俺、クルトンです。
昨日からポンデ石切り場の森に偵察行ってたそうで、ヴェルキー程の体躯ではないにしろ森の表層だけでスクエアバイソンを9体確認したそうです。
当然もっと奥に行けばもっとヴェルキー並みの個体が居るだろうとの事。
いや、この人いつ寝てんのかな。
「だからな、捕獲の為に騎士団を動かそうと思うんだがクルトンも一緒に来てくれまいか。
なんだかんだ言って獣はお前に良く懐くから」
計画を立てて腕輪と王笏の作業に支障が出なければ俺もぜひ同行したいです。
でもそんなにいるんですね、スクエアバイソンって。
あそこまでデカいと木々をかき分けて進むだけで、森を荒らしてしまうんじゃないかと思うんですけど。
結果個体数は少ないと思ってました。
「あの森は広いからな、ポポに乗って空から見ても終わりが確認できなんだ。
だから密度の高い木々をかき分け、倒して進むのも森の地面に適度に光を当てる為に必要な事だろうってのが学者たちの見解だ。
つまり森の活性を保つ為の一助を、スクエアバイソンが木々を間引きする事で担っているという事だな」
へーなるほど、そう言う事ならあの巨大な体躯にも意味がある事なんですね。
あの手の牛はサバンナを群れで移動している先入観があったものですから。
「森への役割ってのもあるのだろうが、あの森のスクエアバイソンは群れを作らない獣だ。
そういった意味ではかなり珍しい習性だな」
そう、この世界の獣は群れる。
前世では群れない虎ですら群れを作る。
陸上で実質的な生態系の頂点に君臨する魔獣、人を狩る為に生み出された最強のそれがそもそも群れる習性が有るので、群れる習性を手に入れられなかった獣は魔獣達に駆逐されていったんだろう。
「お前の付与ありきではあるが今回のヴェルキーのお陰でスクエアバイソンの有用性が確認できた。
さっき言ったように個体数もそこそこいるし、将来的には人工繁殖も出来るようになるだろう。
その為の最初の一歩、これは歴史に名を刻めるぞ」
俺の肩をバシバシ叩いて豪快に笑うデデリさん。
そして反対の肩を背伸びをしたベルケお爺さんが”ポフポフ”と叩き「すごい事だぞ、頑張れ」と俺を応援してくれる。
スクエアバイソンの騎馬隊か・・・質量は正義だな、負ける姿が想像できない。
取りあえず抱えている仕事を片付けていって時間を作らないと捕獲作業に同行できない。
明日からもっと頑張ろう。
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その日の晩、優先順位の高い後回しに出来ない仕事を書き出してみる。
あとそれ程重要ではないが仕事として必ず熟さないといけない事も。
いつの間にか優先順位変わったりするから都度確認する癖をつけないとな。
取りあえず補助具としての腕輪については次に王都へ行くまでの間に量産製作用の工作機械を作る予定。
試作ではあるんだけど。
これに目途が付けば後は箱庭を使用した検証を繰り返してそれをフィードバック、腕輪の完成度を地道に上げていくしかない。
ここが一番重要なところ、これにめどが付けば他の仕事にも注力できる。
次は王笏。
まだ希少金属は王都から届いていないがオリハルコン、アダマンタイトの加工機はカサンドラ宝飾工房に置いてあるので基本俺が品質のチェックと手直し、付与を行えば問題ないはずだ。
これは一番見通しが付く仕事だね。
姫様用の馬車。
俺の馬車の色違いを作ればいいからこれも問題ないだろう。
見通しが付きやすい。
デデリさんの馬車。
これは俺の馬車の小型化、機能の絞った仕様。
勘違いしちゃいけないのは俺の馬車の『廉価版』ではない事。
俺の馬車と比べればリーズナブルになるだろうが、これはこれで新たに設計図を引き直さないといけない。
同じ強度の材料を使えば小さくなる分空間に占める材料の割合が大きくなるので、強度的には有利に働くことが多いが、1頭立てになるし自動車で言う所のトレッド、ホイルベース、その比率など見直さないといけない事は多岐にわたる。
前世の自動車メーカーの様なノウハウを俺は持っていないのでこれの検証が結構重要で大変。
その他にはソフィー様の鏡台、フンボルト将軍の武具。
その他に忘れてる事ないかな・・・。
以上の件に見通しが付けばスクエアバイソンの捕獲作業に予定を割けるだろう。
ああ、そうだ。
捕獲した時の為に足輪、鼻輪を準備しておかないといけない。
厩舎も。
特に厩舎は特大サイズになるのでおいそれ出来上がらない。
俺が手伝えば大幅に後期短縮できるだろうが、それ以上に優先しないといけない事が有ることは先に書き出した通りだ。
俺以外でも問題なくできる仕事だから、そちらは任せた方が良い。
俺しか出来ない事を優先しよう。
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翌朝、いつも通り窯の火入れを行い諸々の店の準備を終わらせる。
ベルケお爺さんは昨日興奮してなかなか寝付けなかったみたいで、珍しく眠そうな顔で起きてきた。
なんでも家畜に限らず大きな獣を見るのが好きなようで、帰ってくる時も馬車内でワインを飲みながら始終ご機嫌だった。
山の様なスクエアバイソンだったと興奮しながら家族に話していた姿は、お祖母さんから「そんなにはしゃいでみっともない」とたしなめられる始末。
良いじゃないですか、男ってそんなもんですよ。
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