第203話 フェイク

精力的に仕事を熟している俺、クルトンです。


凡そ2ヶ月、言い方は何だがそれこそ馬車馬のように働いた。

それに比例するように仕事は進んでいき、随時アップデートが必要な腕輪以外はあらかた目途が付いた状態だ。




何度も言うがこの身体は頑丈でタフだ。


前世でプレイしていたMMORPGでも、時間の経過によって昼夜が繰り返しているのにプレイヤーはピンピンしながらクエストこなしていた事を考えると、「そんなところも再現されてるのかな」と妙に納得してしまう。


シングルプレイのオフラインゲームだと夜に寝ないとパフォーマンスが低下するデバフが掛かったりするが、MMOだとその辺の演算処理でサーバーに負荷がかかるのを嫌ったんだろう。

ただでさえチーター対策で負荷がかかっているから、そのゲームの本質を壊さない程度に削っていける処理は『快適さ』の免罪符を振りかざして目をつぶったんだろうな。



さて、仕事の進み具合だが、腕輪の量産の為の工作機械の試作は完了した。


チェルナー姫様の馬車も大方完成、あとはそれを引く騎乗動物に合わせて馬具を調整するのと諸々の機能検査だけだ。

ソフィー様の鏡台は出来上がった後、丁度コルネンに立ち寄ったポックリさんに王都までの運搬をお願いしたしデデリさんにも馬車を納品済み。


馬車についてはなかなかの出来だったと思う。

俺の馬車がGTカー寄りの高級セダンならデデリさんの馬車はラリーカーの様な感じ。

テストでムーシカ一頭立てで走らせたら俺の馬車より速度が出た位だ。


王笏もほぼ完成、セキュリティー確保の為に陛下の情報を読み込ませれば運用できる状態だ。

こっちの方は馬車と一緒に俺が直接納品に行かないと不味いだろうから騎士団の事務所に設置させてもらった金庫に一時保管してもらっている。


フンボルト将軍の武具、長剣になるだろうがこれは王都に行った時に仕様を決めて滞在中に仕立てよう。



現状簡易的に済ませていた鞍状の櫓の本格設計、製作も含めこれでスクエアバイソンの捕獲に向けて準備を進められる。


コルネン郊外では魔獣襲来時の緩衝地帯として確保された土地の一部が、スクエアバイソンの厩舎、放牧地としての利用申請手続きが正式に承認された事もあり、巨大な厩舎と事務所を含む管理棟を建設中だ。


一応、俺の騎乗動物繁殖事業の一環として認められ補助金が出たらしい。

王都外だったこともあって国庫ではなく王家の予算からの捻出だったが、それでも当初の予定より規模を広げて建設できるようになったので大変有難い。



この間、デデリさんは王都まで2回ほど行って陛下、宰相閣下、チェルナー姫様へ現状報告してきた。

新たにスクエアバイソンが騎乗動物に加わった事で陛下と宰相閣下は小躍りして喜んで、フンボルト将軍は「儂にも一頭おくれ」と無心してきたそうだ。





スクエアバイソンの厩舎は使用上の利便性も考え、街道へのアクセスのし易さを優先して放牧地の出入り口が街道にくっついている。


なのでヴェルキーを見学しに毎日結構な人が道すがら訪れて来る。

その為、正式運用は未だだが今時点で世間からのヴェルキーの認知度は高く、その穏やかな気性も相まって大変人気らしい。

コルネン在住の子供達なんかも親と一緒に見に来たりするそうだ。


ちょっとした動物園みたい。

有事が無い時の施設の活用方法としては有りなんじゃないかな。




こうして何事も無く進んでいたように感じていたが、デデリさんが2回目の王都から帰ってきた時にちょっと気になる情報を持ってきた。



今その件で騎士団詰め所に呼び出されている。


「王都にクルトン、お前の偽物が出ている(笑)」

・・・マジですか。


どこぞの天下の副将軍、偽物登場回の様な感じですかね。

俺の名前を悪用しようって感じの。


「噂では身長190cm程の赤髪の偉丈夫、革の軽装鎧に大剣を背負っているって事だった」

認識阻害を常時展開している俺と違って街ではかなり目立つんじゃないんですか?

簡単に下手人の裏取れそうですけど。


「言っとくが彼は犯罪者ではないからな。しかも本人がお前の名を騙ったわけでもない」


この国では平民が騎士を含む貴族の名を騙る事は犯罪です。

子供たちの『ごっご遊び』と演劇の中で役者さんが台詞として名乗る位しか例外はありません。



?事情が呑み込めませんね。

「お前ほどの身長の男自体が珍しいからな、あやふやなお前の噂から間違えられたらしい。

最初は間違いだと訂正してたそうだが、本人の意に添わずだんだんと尾ひれが付いて行って、終いには『インビジブルウルフ(偽)』って事になってしまったみたいだな」


「ほゞ毎日誰かしらから決闘を申し込まれてかなり大変そうだったぞ」


本人と会ってきたんですか?

「直接聞くのが一番早いだろう?、なかなか良い太刀筋だったぞ、見どころがある奴だった」

ああ、デデリさんに付き合わせれて、その人大変だったでしょうねー。



「ハハハハ、そう言うな。しかもだ、俺と立合うまで王都で受けた決闘では全勝だったと、尾びれがつくわけだな」

もう一度「ハハハハ」と笑ってから改めて俺に顔を向けてくる。


「でだ、齢も23歳と若い事もあって俺の大隊へスカウトした。騎士に成れるかは本人次第だがお前の事を話したらえらく恐縮してな、最初は辞退されて驚いたぞ。騎士団は結構良い待遇なのにな」


ああ、俺がコルネンに居るからちょっと気まずいんでしょうねー。


「支度金を渡したから2週間もしないうちにコルネンに到着するだろう、ここには以前立ち寄った事が有ると言ってたから迷う事もあるまいて。

その時は顔合わせさせるから宜しくな」


承知しました。

野良の決闘とはいえ王都で無敗となれば結構な手練れだろう、戦力としては放っておけないよな。

戦力補強の為にも有難い事ではある。


しかし今回の経緯を聞くに、なんだか俺が迷惑かけた様な気がするんだよな。

周りに勝手に勘違いされて巻き込まれたって事だろう?


お詫びに付与付き腕輪でも準備しようかな。

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