第201話 妄想
パメラ嬢からセンシティブな事を予備動作無くぶち込まれて焦っている俺、クルトンです。
ヤバいですよ、裁判になったら負け確定ですよ。
注意してくださいパリメーラ姫様。
「何を言っているか分からないわ」
とにかく注意してください。
二足歩行の黒いネズミと髭の配管工、赤いネクタイをしたゴリラにも要注意ですよ。
「ますます分からないわ。で、なんで駄目なのよ可愛いじゃない『たぬきc・・・』」
皆まで言わんでください、天罰が下ります。
「・・・まあいいわ、じゃあ次の候補なんだけど『オベラ』は?」
・・・急に雰囲気変わりましたね、何なんですかこのギャップは。
でも良いんじゃないですか・・・いや、念の為にこちらも意味を伺いましょうか。
「太古の大災害で人類へ狂乱の魔法を放った『夢の巨獣』の名前よ!」
どういうセンスしてんのこの人。
人類の敵ですよね、その巨獣。
「この巨獣の魔法を受けると同士討ちが始まって、1発放たれる毎に都市の市民が全滅したそうよ」
マジ勘弁して、あのラブリーモフモフにそんなカルマを背負わせないで。
「でもこれも太古の話よ、今はこの名前に特別な感情を抱くような人なんて居ないわ、考えすぎよ」
まあ、そうなんでしょうが何かのフラグになりそうで気になるんですよ。
「代替案が無ければこれに決定ね、シンシアともちゃんと相談して決めた名前だから大丈夫よ」
そうなんでしょうけどね。
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パメラ嬢も含め騎士さん達と青空の下で打ち合わせをしています。
俺が居れたお茶と茶菓子のラスクを摘まみながら。
スクエアバイソンのヴェルキーは騎士さん2名を背に乗せて、道を覚える為に街道を爆走しているそうなので今ここにはいません。
だいぶ騎士さん達と仲良くなって安心した。
「クルトンさん、色々仕事が有るのは承知しているのですがヴェルキー用の櫓も早急にお願いしたいのです。
安全性を優先して頂ければ外観はそれこそ素で構いません。
とにかくデデリ大隊長のグリフォンとの連携を直ぐにでも訓練したいのです」
そうですよね、魔獣の早期発見は人命救済に直結します。
そんなに複雑な付与をしなくても急所を守る鎧を装着すればあの巨体です、更にそれなりの速度で走れば魔獣も簡単に近寄れないでしょう。
単独行動している小型の魔獣からなら安全に逃げ切る事も出来そうですし。
「ええ、まさしく小型の要塞が走っている様なものです。大変頼もしい」
うん、要塞とはよく言ったものだ。
しかし櫓と言ったが鞍に乗せた台上の物、広い背中に合わせて馬車の客室の様な形状になるだろうから設計次第では仮眠用のベッドも置けそう。
専用荷車なんか作ったら前世の仮設住宅を引くような感じになるだろう。
・・・ヒヒイロカネで作ったバリスタなんか背中に装着して補充の矢を牽引する荷台に乗せれば、この世界で戦車みたいな運用できそうなんじゃね?
命中精度を出す為に事前に試射は必要だろうが、しっかり訓練した弓兵が操作すれば2km以上離れていても的を狙える。
人力では絶対に無理な弦を引く動作も、付与魔法を施したモーターの様な動力とギアを組み合わせたギミックを拵えれば何とでもなる。
ヤバい、単騎で城を落とせるぞ、コレは。
「デデリ大隊長からでも宰相閣下に報告してもらわないとまずいですね。」
1人の騎士さんが呟く。
交通インフラに対する悪影響を解消できればかなり有用な騎乗動物だとは感じてはいたが、思ったよりヤバい奴だったようだ。
「何れにせよヴェルキーの気性と拵えてもらった足輪のお陰で郊外であれば問題なく飼育する事が出来るでしょう。
専用厩舎と厩務員の手配も早急に進めています、時機を見て彼の番も捕獲お願いしたいですし・・・色々クルトンさんに頼ってばかりで申し訳ないのですがなにとぞよろしくお願い致します」
椅子から立ちあがった後腰を少し落として目を伏せる姿勢を見せます。
取りあえず順序良く仕事を熟していきます。
俺の方も色々気が回らないところもあると思いますので、その辺は逆にフォローお願いしますね。
「キュオォォォ」
お、この鳴き声はデデリさんのポポだ。
空からの哨戒業務をこなしてきたんだろう。
相変わらず精力的に働くなぁ、それなりの歳だろうに。
「知っての通り曾爺様は精霊の加護持ちよ、地に伏せるその時まで騎士であり続けるわ。
『二つ脚の魔獣』の称号は伊達じゃないのよ」
サンフォーム家でも精霊の加護持ちは特別な誉なのだろう。
特に『二つ脚の魔獣』、無敗のデデリは。
ほら、その証拠に自分の事でもないのにパメラ嬢も胸を張ってドヤ顔だ。
・・・その誇りが貴方の瞳を濁らせないように。
せめて・・・貴方が過ちを犯す前に立ちふさがる壁であり続けよう。
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7年後。
実際に人類同士の戦争が起こる事は無かった為に城壁を攻撃する機会は訪れなかったが、魔獣大来襲時にスクエアバイソンとバリスタの組み合わせは目覚ましい活躍を見せる。
長射程の利点を生かし、移動式バリスタとして接敵地点を押し上げ、緩衝地帯を広く確保したうえで一方的に攻撃できた事で白兵戦に突入する前に魔獣の個体数を大きく削ぐ効果を発揮した。
6頭投入されたスクエアバイソン、その中でも一際巨大なバリスタを背に乗せた『ヴェルキー』の戦果はすさまじく単騎で82体の魔獣を討伐したと公式に記録されている。
長大な城壁が迫ってくる様な魔獣の群れを、バリスタで蹴散らす彼らの活躍を間近で見ていた騎士や兵士たちは
ヴェルキーと騎乗していたコルネン駐屯騎士団を畏敬の念を込め『ウォールブレイカー(城壁落とし)』と呼び
それがライダー(騎手)の称号の一つとして、初めて史実に記録される事となる。
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