第200話 命名
コルネン郊外に向かい馬車を走らせている俺、クルトンです。
シンシアは午後も引き続き騎士団さん達の所で治癒魔法の練習をしています。
さっき寄ったら狸と狼もシンシアと一緒にお昼ご飯食べてました。
獣なのに何気に馴染んでるな。
野性の微塵も感じられない。
そんな姿を確認して「頑張ってね」と一声かけた後、厩舎に向かいスレイプニル2頭を馬車につなげ、店に戻ってベルケお爺さんを乗せて・・・ただいま爆走中です。
「ほおおおおおおお!!!」
爆走する馬車に普段無口なベルケお爺さんのテンションMAXです。
関所を超えるとすぐにあの巨体が見え、それを目印に馬車の方向を変えます。
どうやら遊びに合わせて騎士さん達が調教しているようだ。
「あれが、あれがスクエアバイソンか!デカい、デカいなぁ!!」
ベルケお爺さん、テンションが下がる兆しが見えません。
あの巨体が軽々飛び跳ね急旋回するのに合わせて、背にしがみついている騎士さんが3名ほどグワングワン揺さ振られています。
・・・そのうち一人はパメラ嬢だ、良いのか?遊んでて。
けどみんな笑ってて楽しそう。
「ヒャッハー!!」
とか声も聞こえてくる。
俺が馬車から降りて近づいて行くとスクエアバイソンが気が付いた様で、さっきの荒ぶり様もスッと消え静かに近づいてくる。
ヨーシヨシヨシヨシ・・・。
俺のガタイでもこの巨大なスクエアバイソンにムツ〇ロウさんプレイは出来ないが、近づけてくる鼻先をワシャワシャ撫でると目を細めて「ブモブモ」言ってる。
中々可愛いじゃないか。
ギャップ萌えってやつか?
「いやークルトンさん、この子は掘り出し物ですよ!調教に全然手間が掛からない。周りも良く見えてて全然俺たちにぶつからないんですよ。
しかもすでに遊ぶ事の意味も理解してますよ、この子は」
近付いてきた騎士さんが俺にそう話す。
どうやら調教の為の合図は今日の朝から昼頃まででほゞ理解したらしい。
教える事が無くなったから「チョット一緒に遊ぼうか」となって今に至る。
ほう・・・イイネ。
という事は早く馬具、背に装着させる櫓を作らねばならないという事ですな。
既に実務訓練に移行しても問題ないと。
「そうですね、早くコイツと一緒に山野を駆け巡りたいですよ」
哨戒の仕事は?
「ついでですね(笑)」
はは、普段はその位緩い方が良いのかもしれませんね。
臨戦態勢時は文字通り死と隣り合わせですから。
「クルトン、クルトン。シンシアとこの子の名前考えたんだけど」
パメラ嬢がそう言いながら駆け寄って来ました。
ほう、聞かせてもらいましょう。
「この子はねぇ、今まで出会った子の中で一番大きいから『ヴェルキー』にしようと思うの」
因みに意味は有ったりします?
「太古の大災害で世界を蹂躙した『鉄の巨人』の名前よ」
縁起悪りいなオイ!!
そんなの居たのかよ。
「何よ!20年間誰も止める事が出来ずに暴れまわった最強の巨人の名前よ!
彼を倒す為に16人の来訪者が各々8回以上死んだんだから!」
・・・ゲームのレイドじゃねぇのか、ソレ?
どうなってんだよこの世界は。
「因みに神を超える者を表す『ベルク』の語源でもあるわ」
胸をそらせて自慢げに話すパメラ嬢。
日本でいう所の『鬼』って感じかな。
しかし、後々問題になりませんか?
悪魔的な名前だったりしたら皆から石投げられたりしませんかね。
「大丈夫よ。言ったでしょ、神以上の名前なのよ、この子に相応しいじゃない」
皆から愛される名前なら特に拘りは無いのですけどちょっと心配で。
「大丈夫って言ったでしょ、ほら」
ん?
騎士さんが何人か集まって既にスクエアバイソンに「ヴェルキー!」、「ヴェルキー!」、「ヴェルキー!」と呼びかけ連呼しています。
「ヴェルキー!、ヴェルキー!」
あ、ベルケお爺さんも混じってる。
純粋な強さに対する畏怖の念は、人の善悪の価値観を超越するんでしょうかね。
・・・で、気になってたんですけど『来訪者』って大災害後に現れたんじゃ?
この世界に凡そ100年留まって人類に文明を伝えたって聞いてるんですけど・・・さっきの話だと矛盾しません?
「民間には完全な伝承は伝わって無いからでしょうね。
王立大学ではちゃんと教えてくれるそうよ、私は加護持ちだったから5歳の時からその辺の歴史は叩き込まれたわ」
話を聞くにこうだ。
大災害後に現れた『来訪者』は前世で言う災害時の復興支援部隊。
その前から大災害を引き起こしていたと言われた、あらゆる兵器を駆逐する為に戦闘部隊たる『来訪者』が異界から数えきれない人数が投入されたそうだ。
その中でも精鋭中の精鋭であった来訪者16名が『鉄の巨人』と言われる大災害へ挑み、この世界の時間軸で1ヶ月かかってようやく動作停止まで追い込んだと。
でも最後の最後に鉄の巨人の自爆に巻き込まれて16名の来訪者もろともこの世界から弾き飛ばされたらしい。
最強と呼ばれた『鉄の巨人』以外にも何体か絶望的な個体が居た様で、それぞれ討伐する度に来訪者を道連れにしていったらしく、その後の彼らの事を後詰で来た来訪者に聞いても教えてくれなかったそうだ。
・・・なんか壮絶だな。
時系列でみれば俺が今まで知っていた物語の来訪者は復興支援部隊だろう。
その来訪者ですら超越的な戦闘力を持っていたって事だろう?
となると生粋の戦闘部隊のその能力たるや想像できんな。
俺の今の能力でも人類からかなり乖離していると思っていたが来訪者から見れば新人類種の中での誤差みたいなもんなんだろう。
ようやくチュートリアル終わったって感じた事を本当の意味で理解した。
「でね、狸の名前は『た〇きち』にしようと・・・」
却下ぁーー!!
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