第173話 騎士団での治療

シンシアとの午後の約束に何とか間に合ってホッとしている俺、クルトンです。


午後からは王都の騎士団、近衛騎士団の練習に付き合います。

と言っても試合をするわけではありません、

シンシアの治療のお供、保護者の付き添いの様なものです。


「インビジブルウルフ卿とその弟子であるシンシア殿が見学を兼ねて治療の練習に来て頂いた!

本日の訓練に限り技能と真剣の使用を許可する、何が有っても全てかすり傷で済むのだから皆本気で立ち会う様に!!」


”オオオオーーーー”


フンボルト将軍の号令に雄叫びを上げる騎士団員。

即死はさすがにどうしようもないですよ、加減はしてください。


そして何気に特使さん達3人も混じっている。

良いのかな・・・。



訓練が始まると簡易ベッドを設置している壁際の待機場所に結構な頻度でケガ人が運び込まれてくる。


シンシアもさすがにタクトを使って治療をしている。

魔力の微細な制御がし易くなって治癒魔法の効率を上げる為だ。


「ふう・・」

息を整えているシンシアを見る。

ここまで連続して治癒魔法を行使したのは初めて、さすがに疲れが見えてきたのでそろそろ俺と交代する。


「これくらいでへこたれてる様じゃ一人前になれないの・・・」

そんなことは無いさ。


「そうですよ!そのお歳でこの人数の治療をこんな短期間で!すごい事ですよ」

脇で騎士見習いの少年から称賛の声を聴かされると「そうなのかな・・・」とちょっと赤くなっている。


「ッ!頼む、腕がもげそうだ!!」

おっと!今日一番のケガ人じゃなかろうか、本当に左腕の肩付近から先が・・・いや、もげてるじゃん!!早く早く!


肩口と持ってきた腕との接合部をしっかり消毒して壊死しそうな細胞を活性化、傷口を合わせて骨、筋、筋肉、血管、神経その他諸々の細胞を本来あるべきもの同士で接合、ここまでは修練の成果だろうスキルがオートマチックに進めてくれる。


ここから俺の魔力をぶん回し、欠損していたであろう細かい組織を魔力で代替、又は補完していく。

こうして本来の状態まで治療の効果を加速させて・・・完了。

ここまで凡そ5秒と言ったところか。


どうですか?


恐る恐る動かし始めるが段々と乱暴に腕を振り回す。

そして俺の目をじっと見て

「信じられん、『完治』するとは・・・」

そう言うともう一言「助かった、有難う・・・本当に」と俺に頭を下げ訓練に再合流していった。


・・・あ、また訓練再開するんですね。

自分の体なんですからもうちょっと労わってですね、って次の人が運ばれてきた。



そんな状況は2時間ほど続き訓練は終了となった。

終了後はシンシアが打撲や切り傷なんかの比較的軽くてわざわざ治療に来なかった団員さんの怪我を治して回っている。


気が利く良い子じゃないか。

治療を受けた人も皆シンシアに「有難う」とお礼を言っている。

ここでも好感度爆上げだな。



「今日はお疲れ様、治癒魔法師をこんなに贅沢に使った訓練なんて初めてだぞ、有難うな」

レイニーさんが俺に声をかけてくれます。


いえいえ、どういたしまして。

俺なんかは騎士でもありますから、日常業務の範囲内って陛下から言われそうですけどね。


「はは、そうでもないと思うぞ。その辺の分別はしっかりしているお方だ」


でも今日一番の大怪我をした、あの左腕がもげてた騎士さんはその後大丈夫でしたか?


「ん?ああ、問題ない・・・と言うかお前こそ大丈夫か?魔力欠乏になってないか」

ええ、問題ないです、俺もしっかり鍛えてますから。


「俺が心配する事じゃなかったようだな(笑)、でな、今日治療してもらった腕がもげてたヤツだが・・・」


なんでもその方は以前参戦した魔獣討伐戦で左肩を噛まれて骨が砕ける大怪我を負ったそうな。

怪我自体は治ったがやっぱりそれまでの様に動かすことは叶わず、ずっと左半身をかばう様な戦い方をせざる得なかったそうだ。


そして今日、訓練とはいえ治癒魔法師がスタンバイすると言う異例の処置で本気の打ち合いが解禁となり、その為いつもは加減していた騎士さん達も弱点の左肩を積極的に狙ってきた。

その結果真剣でザックリ切り落とされてしまったらしい。

鎧は装着してるが、それをものともしない手練れが騎士団内にはそこそこいるからなあ・・・。


「・・・ラドミア姫の雷狼にやられたらしいぞ」

大変申し訳ございませんでしたっ!


それはそれは高く跳び、綺麗にジャンピング土下座を決める俺。

ホント何してくれてんの、あの姫様!


「いや、問題ない、訓練でのことだからな。でだ、話を戻すがお前に治療してもらって不自由だった左肩が言う事を聞くようになったらしくてな、それはそれはお前に感謝していたぞ」


ああ、なら良かった。

治療した甲斐があります。


「7つになる孫をお前に嫁がせたいと、俺に話を通してくれないかと相談してきた位だぞ(笑)」

流石に冗談ですよね?


「多分本気だ」

ちょっと勘弁いただきたいと言いますか・・・。


「分かっているよ。上手く話しておくさ」

お願い致します、誰も傷つかない優しい方法でなんとかしてください。

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