第303話 【軌跡】狼の足跡2
「サリス。この書類をウリアムさんまで届けてきて」
え、私がですか?
構いませんけど・・・まだ仕事が残っていますけど、これで残業とか嫌ですよ。
「はは、大丈夫だよ。これを届けてくれたら今日はそのまま帰って構わないから」
本当ですか!?
・・・その分明日残業とかは無しですよ?
「本当に疑り深いね、そんなことは無いよ」
はい!分かりました、この書類ですね。
では本部長、今日はこれで。
「おいおい、ちゃんと届けてくれよ(笑)」
私はそんなシズネル本部長の言葉をよそに元気よく宝飾ギルド本部を出ていきます。
ウリアムさんの工房は私の足でならすぐそこの距離。
そして、書類を渡せば後は自由!
今日は居酒屋魔の巣にでも行って早いうちから一人飲みでもしようかしら。
その内お客の男性が私の周りに集まってくるから結局一人ではないのだけど・・・でも皆でご馳走してくれるから全然問題ない。
クルトンさんの行きつけのお店になってからしか行った事は無いのだけど、前より客層が上品になったそうで、傭兵ギルド所属の女性は大体そこに行くんだって。
今日も私を含めて女性は4、5人位は来店するんじゃないかしら。
なんかちょっとワクワクしてきた。
本部長にはああ言ったけど実は明日休暇を貰っているから少し遅くなっても構わない。
だってここ最近本当に忙しかったんですもの。
本当に・・・。
クルトンさんが王都に来るようになって宝飾ギルドだけじゃなく鍛冶ギルドも、今度新しく立ち上がる物流ギルドも、それに合わせて護衛を任せられる傭兵ギルドもてんやわんやよ。
本当に怒涛の様な日々、しかもまだ続いている。
いつ終わるのかしら・・・。
なのにキッチリ予定通りに進む仕事を恐ろしく感じていたのだけど、やっぱりクルトンさんが各ギルドの計画のアレコレを調整してたみたい。
そう言えば”猿にはできない週間シフトの組み方”なんて冊子も作って皆に配ってたわね。
もうちょっと分かり易い表題付けられなかったのかしら。
けど、あの人が一番忙しかったはずなのだけど本当に働き者よね。
あんまりそんな雰囲気無いけど彼は平民からの成り上がりの騎士で一流の宝飾職人、当然食いっぱぐれる事なんて無いし、極めつけは『魔獣殺しの英雄』なのよ。
一時代に1人いるかいないかの英雄様よ?
あれでなんで奥さんが居ないのかしら?
周りの女性の目は節穴なんじゃないかと本気で疑ったものよ。
幾ら19歳でも今までの功績考えたら奥さんが4人位いても全然違和感ないもの。
え、私?
・・・ごめんなさい、多分私はあの人に付いて行く事が出来ないと思う。
もしあの人の側に居る事を許されるのなら・・・、
優しいあの人はきっと遅れてしまう私に合わせ、その都度立ち止まってくれるでしょうね。
でも、その立ち止まる度に彼の手のひらから零れ落ちていく命を見ながら彼に笑いかける事なんて、少なくとも今の私には無理。
彼もその命に気付いて心を痛める事でしょう、私たちに気付かれない様に。
私がもっと無神経で無鉄砲ならそんな事もお構いなしにアタックしてたんでしょうけど。
有難い事に私の両親はとてもできた人だったから、私をこんな良い女に育ててくれたわ(笑)
何れにせよご縁が無かったのよ、私とは。
・
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「おう、嬢ちゃんあんがとよ」
はいはい、ウリアムさん。
書類に間違いが無いか確認してくださいね?
もう一度届けに来るなんて御免ですよ。
「悲しい事言うなよ、俺は嬢ちゃんに会えて嬉しいんだよ。本当だよ?」
奥さんが脇に居るのによく平気でそんな事言えますね。
「当り前だろ?俺が愛しているのはカミさんだけだぞ」
何キョトンとして私を見るんですか?
対応に困ります。
でもウリアムさん奥さん二人いますよね?
「そんな事はまあいい。どうだ、今日はもう仕事終わりなんだろ?
ピッグテイルで一杯付き合わねえか、なんなら陛下も閣下も一緒だからただ酒が飲めるぞ」
結構です!
本当に勘弁してください、ウリアムさんは良いでしょうけど私はゆっくり飲めませんよ。
本物なんでしょ、その人たち?
嫌ですよ、そんな緊張しっぱなしで飲むお酒は。
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