第71話 耐久テスト

森の中で狩りの為息を潜めている俺、クルトンです。


今日は、と言いますかここ暫く腕時計の耐久テストを行なっています。

特別どうと言うことではないのですが試作品を製品レベルまで仕上げてそれをずっと付けているだけ。


付与効果は極力弱くして動作はしているけれども俺の能力の底上げにならない様に調整、これにはかなり気を使いました。


寝てる時も湯浴みの時も外さないで付けっぱなし。


防水性や傷の付きやすい場所、金属製のバンドの調整具合や当たる皮膚に負担がこないか等、日常生活で問題なく動作するかの試験です。


その一環で今日は屋外、森へ狩に来ました。

少々雑な扱いをしてみようと思って。

もちろんムーシカ、ミーシカと一緒。


マーシカはパメラ嬢に捕まって乗馬の訓練です。


今回の狩りで狙っている獲物は野豚。

野生動物なのに猪より癖がないし脂もタップリ蓄えているのでとても美味い獲物。


皮も北京ダックみたいにしたらすこぶる美味かった。

この味を覚えてしまうと、なめすのが勿体なくて革製品には野豚は使わなくなった。

手に入りやすい安価な革なのに柔らかくて肌触りがいい。

コスパのいい優秀な革になるのだけど食欲には抗えなかったよ。


いつもの通り認識阻害発動のまま水場を中心に移動を繰り返します。

実は既に1頭仕留めて血抜きの後ムーシカに積んでいます。

防水処理を施した布袋を何枚か持ってきたので血抜きの後に氷と一緒にぶち込んでいるので鮮度は良好。


氷の冷気がムーシカに影響及ぼさない様に布袋には断熱の魔法付与を施しており抜かりはない。


話は変わるがゲームで必ず有るシステム、アイテムバック等の謎収納技能はこの世界では実現できなかった。

時空を操作する魔法は来訪者からの知識としてある様なのだけど、偉い魔法使いが別空間とこの世界と繋げる魔法のプロセスを解析、使用する魔力量を計算したところ消費量が天文学的で理論は有っても再現することは無理と判断されたそうだ。


因みにその偉い魔法使いが指先に灯す炎1個で消費する魔力量を1サジンとしている。

単位の『サジン』はその偉い魔法使いの名前。


そうはいっても俺なら何とか出来るんじゃね?とタカをくくって試してみたら体内魔力が一瞬で無くなり、凄まじい倦怠感でふらついてしまうとんでもない燃費の悪さだったので諦めた。


なので前世での輸送技術を再現する方向に舵を切って試行錯誤中、氷を使った布袋での精肉運搬もその実証実験の一環。

海の鮮魚も試してみたい。


スレイプニルを使った生鮮食品の運搬業なんて儲かりそう。

休みも無くなりそうだけどね。


そんな思考を巡らせているとまた野豚を発見、運がいい。

弓を構え間を置かず射ると、今回も狙い違わずアバラの間を通り心臓に到達。

一射で事を終える。


相変わらずなスキル。

ライフルが有れば歴史に名を遺すヒットマンになりそうだな、俺。



・・・来た、マズイまたこの感覚だ。

しかも見つけたのは複数頭・・・

最近は討伐数減少しているとは言ってたが、それは単純に発見できた数が減っていただけなのだろう。


こうして4頭いっぺんに魔獣が現れたのだから。



以前討伐した個体よりも二回りほど小さく見えるがその分スピードが有りそうだ。

パッと見たシルエットはユニコーン。

ただしその口からは食事の邪魔になるんじゃないかと思える位大きな牙が見える。

目は4つ。


幸い俺の認識阻害が効果を発揮しているのか気付かれてはいないが魔獣との距離は20m程。


かなり近い。


以前の討伐は一頭で見通しの良い草原での対峙、しかもこちらが圧倒的有利な位置からの先制攻撃だったので対処がシンプルで済んだがここは森の中。

障害物だらけだ。


ムーシカ、ミーシカは今は俺の認識阻害の影響下にあるからいいが戦闘になればそれも無くなるだろう。

もし見つかってもスレイプニルなら魔獣から逃げ切れるだろうが、それをきっかけにこの4頭がバラけて森を出てしまう様な事になったらさらにマズイ事になる。


今回もここで仕留めなければならない。

前回を遥かに凌ぐ難易度だ。


どうするか。


前世でプレイしていたMMORPGにはパッシブ、アクティブスキルの他に必殺技に相当するスキルが有った。

俺のキャラのロールはタンクだったから何種類かあるその必殺技の中には被ダメージを軽減する効果をもたらすものも有った。

確か一定時間、自分の最大体力値の50%以下のダメージは無効、それ以上の被ダメージは90%カットって内容だったはず。


例えば最大体力値が1万の時、5000までの被ダメージは無効、6000の場合は90%カットされ600の被ダメージってな計算。


そのスキルを再現できればかなり生存率、勝率が上がる。

そしてぶっつけ本番だが体にしみこんでいる”データー”が問題ないと告げてくる。

不思議な高揚感を抑え込み、この数瞬の間に何度も思考、シュミレーションを繰り返す。


ムーシカ、ミーシカを障害物の影まで誘導し伏せの状態でいてもらい、荷運び用で準備、持ってきていた2m程の総ステンレス製の天秤棒をミーシカから降ろし構えた。

大丈夫、一瞬で終わらせる。

思考する間も与えはしない。

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