第72話 限界の確認

認識阻害発動したまま魔獣まで一気に間合いを詰める俺、クルトンです。


一気に飛び出して魔獣達の中心まで入り込み、そこで認識阻害を解き姿を現す俺。

その時には必殺技のスキルも発動済みだ。


魔獣達が認識阻害の効果外に居るムーシカ、ミーシカに気付くより前に俺へターゲットを定めてくれる様にと数瞬の間とどまる。


そして全ての魔獣の首が俺を向き、四つあるその目が見開かれると

体が一回り大きくなった様に錯覚するほどの魔力を周りにぶちまけ4頭一斉に雄叫びを上げた。


「「「「ガガガガァァァァァァァァ!!!」」」」


・・・直ぐに襲いかかれば良かったものを。

ワザワザ雄叫びを上げてスキを作るなんて本当にこいつら魔獣か?


そう思考するのと同時に俺自身を中心に天秤棒をぐるりと1周横なぎにする。

本来はバトルアックスのスキルで周囲一帯を一斉に攻撃する技。

結構なダメージ量と追加効果でノックバックが発生する。


1頭、2頭と天秤棒で首から横っ腹にかけた場所を打ち、『パンッ』という音と共に吹っ飛んだ。

天秤棒が1周した時には4頭すべてを打ち据え、ここから止めを刺す為に天秤棒からナイフに持ち替え再び魔獣へ襲い掛かる。


一頭づつ手早くナイフで首の根元を一閃、激しく血が噴き出し周りに血だまりができる。

血の吹き出し方からしてやっぱりまだ死んではいなかった様だ。




「ふう・・・」

血の流れも収まりもう大丈夫だろうと一息つくと、ムーシカ達が「もういいんだろ?」ってな顔で木の陰から顔を出してこちらを見てくる。


待たせたな、まぁトドメまで1分も掛かってないんだろうが。


ふと左手にしている腕時計を見ると規則正しく時を刻んではいるが、金属製のバンドが伸びたようだ。

接合部のシャフトが曲がりガタが大きくなっている。


結構力入れたからなぁ。

ちょっと過酷すぎたみたい、でもこれくらいでも時計本体機構部の歪みは無い様で安心した。

まあ、帰ったら工房で分解、部品毎の解析するけどね。



魔獣は俺とミーシカで1頭づつ、2頭をムーシカに括り付けコルネンに戻る。

内臓は取り出し氷漬けの袋にぶち込んで、魔獣本体の腹の中にもギチギチに氷を詰めたのでかなり重い。


ムーシカはそれでも平気な顔でいるので大したもんだ。


無理をしなかったという事もあるが、ほぼ空荷の時と違い大荷物なので往路1日に対し復路は3日かかった。

やっとコルネン関所見えた頃合いでデデリさんから『何かあった時用』で預かっている狼煙を焚く。


直ぐに鮮やかなオレンジ色の煙が真っすぐ立ち上り、しばらくすると遠くの空から「キュオオオォォォォォ」とグリフォンの鳴き声が聞こえた。


デデリさんが来てくれたようだ。

大隊長直々ってのはどうなの?とも思ったが今回は正直有難い。


空の小さな点がぐんぐん大きくなる。

かなりの速さで飛んでくるのを見ると馬具の付与効果は正常に発揮されているようだ、良かった。


グリフォンの声が聞こえてからは幾らもしないうちに俺の所にデデリさんが到着し、俺たちの上を2回ほど旋回するとゆっくり降りてくる。


「ははっははは、またやらかしおったか!今度は角付ではないか!!しかも4頭」

グリフォンから降りたデデリさんが「ほうほう、これはまた・・・良い角だ、うん」と一頻り魔獣の品定めをする


「頭を割らなかったのは正解だな、脳みそを食せないのは惜しいがこの角を見ればそれも我慢できる」


いや、本当にどうしようかと思いましたよ。

とりあえず早く帰りたいので街で混乱しない様に先導してもらえないでしょうか。


「良いだろう、途中でフォネルが追いつくだろうから引き継いだら私が修練場の受入体制を整える為、伝令を務めよう」

魔獣討伐の伝令など何十年ぶりだろうか、なんて言って楽しそうだな。




コルネンに向かっている最中でフォネルさんと合流、そしてデデリさんが一足先に伝令として飛び立っていった。


「今度は角付が4頭か・・・騎士団の巡回の間隔を縮めた方が良さそうだな。群れになる一歩手前だったかもしれないからな」

やっぱり群れる事あるんですか?


「そもそも魔獣は群れるんだよ、数が多くなるにしたがって蜂の群れの様に一つの生き物として行動するんだ。そうなったら討伐難易度が桁違いに上がる。10頭の群れなら都市一つ無くなってもおかしくないね」

マジか、とりあえず討伐できて良かったですよ。


「ああ、角付なんてねぇ・・・クルトン知ってる?角付の厄介さ」

?何か普通の魔獣と違うんですか。


「角自体が大気からの魔力充填装置みたいなもんでさ、疲れ知らずなんだよ。致命傷を与えるまで一切動きが鈍らないんだ」

1週間はザラに動き回るとか。


「角は魔銀に精錬されるんだけど魔銀の中でもこいつは魔力の親和性が飛びぬけていてね、精錬後は何も加工しないでも勝手に魔素を魔力に変換していくんだよ」

だから狭い部屋に角から精錬された魔銀と長時間いると魔力で酔うらしい。

金属なのにその特性、二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す植物みたいだな。


「当然高値で国が買い取る、おめでとうクルトン。今回の儲けで王都に家が建つぞ、間違いなく」

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