第104話 異形の放浪者

王都事務所建設については実質蚊帳の外になってしまい、ちょっと拗ねてる俺、クルトンです。



なんか国王陛下は元老院が失態する事も踏まえたうえで、

その失態から元老院メンバーを更迭、そしてお詫びと言いつつ俺の事務所設立の主導権を握っている様に感じる。


意図的にやったのであればやはりとてもかなわないな。



とりあえずいい塩梅に進めてくれるとの事なので細かい仕事はぶん投げる事にした。

近々騎乗動物の繁殖事業の為の組織を立ち上げるそうだから、俺の事務所建設、運営はそこに引き継がれるらしい。


行政、税制の話が絡むから専門家に任せるのが一番。


数日を費やしようやく決着した俺の運送業?の法人設立、会社の口座も開設したからそろそろコルネンに戻ろう。

やっとだな。



今度こそ皆への挨拶を終え、王都の門でスージミ大隊長にお礼とお別れの挨拶をする。


「また近いうちに来るんだろう?今度は貴族門から来いよ」

ええ、後これはお礼です。


「ん、食いもんか。甘い香りがするな」

どら焼きという小麦と豆で作ったお菓子です。

苦めのお茶と一緒に食べるととても美味しいお菓子ですよ。


手持ちの金属で簡易的で小さな窯と小さなフライパンを作り、炎ではなく光源の魔法にガンガン魔力をつぎ込み赤外線で熱を確保し焼き上げましたよ。

それが終わったらフライパンをマグカップ程度の鍋に作り替え豆を煮て餡にする。

宿屋の部屋の中で調理したので火を使うのは不味いと思っての工夫。

換気も十分にしながら。



「おお、そうか有難うな、今日の昼にでも皆で食うよ」

ええ、ではまた。


「ああ、またな」




門をくぐりコルネンへ、凡そ1週間かけてののんびりした旅。

納品だけで済むと思っていた王都滞在、新たな仕事も受注してしまいやらなければならない仕事が反って増えた。

良い事ではあるのだが、これからは事業計画でも立てて動かないと仕事がとっ散らかってしまいそうだ。


復路は何事もないと良いな、狼がこれ以上増えても困る。




4日程何事も無く街道を進むがちょっと違和感が有る。

その日の食糧確保のために都度獲物を狩るが獲物の数が多い。

誤差とも思えるが誤差の上限を誤差の範囲で日々上回っていく感じ。

日々の変化は僅かでも5年後には1.5倍くらいになってそうな感じの違和感。


・・・ちょっと街道外れて様子を見てくるか。生態系上位の肉食獣が魔獣に狩られてしまっている可能性もある。

そうなったらシャレじゃすまない。






いた、あいつが原因だ。間違いない。

街道から外れ、索敵に魔力全振りしてその範囲に反応する生命体の情報量に頭がおかしくなりそうになりながら進むこと1日、とうとう見つけた。


魔獣ではない、魔獣の特徴である目が4つ以上に当てはまらない。

いや、全部足せば8個有るのか、なら魔獣か?考えがまとまらない。

しかし・・・キメラだよな、あれ。


頭は獅子、鷲、羊の3頭分ありそれを支える体はインド象くらいだろうか。

前足は鷲、後ろ足は馬、尻尾は蛇。

幸い翼は無いがあんな生き物が成立するのか?

俺の生きてきたこの世の人生でキメラなんて聞いたことが無い。

前世の知識が無ければ単に化け物と思っていただろう。


危機感は感じ無いが、暫く観察していると何だか苦しんでいる様にも見える。

・・・もう少し様子を見てみよう。


それから2日間、ゆっくりではあるが移動しているキメラの後を付いて行く。

その間にだんだん動きが弱っていき終いには倒れ、その後呼吸の度に上下する腹の動く間隔が長くなって最後には止まった。

死んだようだ。


・・・未だに良く分からない、デデリさんを呼ぼう。

幸いなのかどうかコイツを追跡中、コルネンには徐々にだが近づいていた。

以前使った狼煙に火をつけ、立ち上るオレンジ色の煙を眺めながらデデリさんを待つことにした。



「キュオォォォォーーー」

来た、ポポの鳴き声だ。

半日ほどの後、デデリさんがやってきた。

やっぱりグリフォンの機動力凄いな。


ポポの鳴き声を聞いてビクンと跳ね起きた狼達を優しくなで、大丈夫と宥めていると俺たちの真上にグリフォンが到着、デデリさんが現われた。



降りてきたデデリさんも声を発しない、むやみに近づかずに厳しい顔で暫くキメラを眺めている。


「クルトン、説明してくれ」

そう問われ、違和感を感じてから現在までの凡そ3日間の出来事をデデリさんに説明した。


で、あれは何なのでしょう。

魔獣なのですか?


「わからん、分からんが・・・」

なんか歯切れの悪い物言い。何か事情でもあるのか。


「いや、俺の知っている知識で言わせて貰えばあれは魔獣だ」

え、そうなんですね。

いや、かなりの異形なので正直化け物としか思えませんでした。


「俺も見たのは初めてだがあれは深層に居る魔獣だろう」

深層?ですか。


「学者からの聞きかじりだから俺も詳しくはないのだが深層の魔獣は俺達がいつも相手する個体とは比べるも無い程の強さらしい、しかし高濃度の魔素の中でしか生きられんらしくてな。

結界奥の魔素濃度の濃い場を縄張りにして出てくることはないそうだ、魔素の薄いところでは死んでしまうでな」

ほう、それでだんだん弱っていったんでしょうかね。


「学者連中に調べてもらわんと分からん、俺はその話は門外漢だからな」

うーん、さしあたりどうしましょうか、あれ。


「死んでいるのであればまずは血抜きをしておいてくれ、ポポで往復半日強程度の距離だが騎士団が来るまで待機してもらえないか、そうだな準備含め2日で来れると思うが念のため3日間程」

承知しました。

のんびり待ってます。


「こんな場所で待ってくれなどとお前にだから言えるが・・・すまんな」

そう言い残すとすぐに空へ舞い上がりコルネンへ向かって行った。

休む時間も無いデデリさんの方がきつそうだから文句もない。


解体はマズイだろうから言われた通り血抜きをして、あとは狼達と遊ぶか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る