第105話 ソロキャンプ
おそらく新人類初であろう深層の魔獣の血抜きをしている俺、クルトンです。
血抜きの後、とりあえず傷むのを防ぐ為大量の氷を魔法で精製、魔獣の体を覆います。
かなりの氷の量に近くに居ると寒さを感じるくらい。
そう言えばドライアイスって二酸化炭素の塊だっけか、そのうち試してみよう。
生鮮食品の運搬で活躍してくれるかも。
その後はムーシカの馬具を外し狼と一緒に遊ばせる。
俺の方は空手の型の訓練、動きの齟齬を確認、修正しながらゆっくり行う。
思いっきりやると上着をはじめ服がボロボロになるのよ、衝撃波で。
みっちり3時間ほど費やし次は晩御飯の準備。
狼達が狩ってきてくれたアナグマ2匹と兎2羽。
血抜きをしてさばいていつもの串焼き状にして串を地面にさし炎を当てる。
今日は時間が有るので遠火でじっくり焼いて一味も二味も違う串焼きに仕上げる。
こうしてできた串焼きは狼達にも好評の様でガッツき具合が違ってた。
そうであろう、これが調理スキルの恩恵よ。
テントも早めに立ててそのまま就寝、もちろん認識阻害はそのままに。
こんな旅も良いもんだ。
次の日、起床して炎をともし周りをぐるっと眺める。
目視では分からないので索敵で周囲を確認すると兎がいる。
まだ巣穴に潜ったままの様だ。
炎の近くでくつろいでいる狼達に兎のいる方向を指さす。
それだけで獲物がいる事を理解した狼達は、俺が指差した方向へ周囲を確認しながら進み難なく兎を発見、何個か有る巣穴に向かい威嚇すると別の巣穴から兎が出てきてそこを狩っていく。
今回は4羽仕留めてきた。
そのうち3羽を早速血抜き、皮剥ぎからの解体、串焼きコース。
昨日と同じくじっくり調理、ゆっくり食事をとって腹が落ち着いてから今日はスキルの練習。
ただ攻撃力を求めたスキルの他に色々特色のあるスキルも確かあったなと昨晩前世の記憶を思い出していた。
ゲームだけあって各職業ごとに色々あるにはあったが特定のエンドコンテンツのボスでしか有用性を見いだせない癖の強いスキルも多くあった。
そもそもこの世界ではそのゲームのボスなるものが存在していないので、実現できたとしても実用性の極めて低いスキルでしかない。
なのでシンプルで分かり易いスキルを選び確認を進めていく。
今回選んだのは魔法による睡眠と痒みのスキル。
睡眠はその通り対象を眠らせるというもの。
ゲームでは戦闘中でもいきなり寝てしまう効果を発揮するかなり凶悪なスキルだ。
当然レベル差により成功率は上下するが決まれば次の攻撃のクリティカルが確定するスキル。
場合によっては即死効果を誘発させる。
1羽絞めずに残していた兎にこれを試してみる。
魔法で土を形成し作った簡易の籠から兎を取り出し、そのまま触れた状態で睡眠の魔法をかけるとたちまち寝てしまった。
これを何回か繰り返すもこの程度の生き物には100%効果を発揮する。
直接手で触れずに範囲指定で効果を発揮するかは改めて確認しよう。
つぎは痒みの魔法。
これは痒みにより意識が散漫になり今行っている行動の精度が著しく低下するというもの。
命中率、クリティカル率、与ダメージ量、判断力が対象になる。
効果だけ見れば問答無用で眠らせる『睡眠』の下位互換魔法に感じられるが、このスキルの優位性はそこではない。
場合によっては同士討ちを誘発する『混乱』も併発する優秀な効果なのだが、これの最大の特徴は成功率100%で有る事。
レベル差を無視できる優秀なデバフスキル(魔法)だ。
なので検証は必要だが触れずとも範囲指定の魔法発動で効果が発揮されるはず。
試しに兎を起こして野に放つ。
逃げていく方向に範囲を広げ痒みの魔法を発動すると躓いたように兎が転び、その場で暴れ出した。
そのまま観察していると次第に動かなくなり、様子を見に行くと暴れた事により体力が尽きて絶命したようだ。
・・・スマン、むごい事をしたな。
ちゃんと食べるから許してほしい、お前の犠牲は無駄ではなかったのだ。
何れにせよこの二つのスキル(魔法)は効果が分かり易くてかなり使いやすいと思う。
練度を上げていこう。
その後音波というか振動の魔法を兎の巣の穴真上から放ち、驚いて出てきたところに睡眠の範囲魔法を使って効果を確認したり。
同じ方法で兎を追い出して痒みの範囲魔法を試したりと魔法(スキル)の熟練度を上げていく。
一応付き合ってくれた兎は狩らずにそのまま巣穴に返した。
必要な分以上は狩らない。
こうして空手、弓、スキル(魔法)の熟練度を上げる訓練をしているうちに2日が経過し先ぶれのデデリさんが舞い戻ってきた。
「またせたな、もう半日くらいで荷馬車が到着するだろう。魔獣の状態はどうだ・・・ってこれは氷か、そう言えばお前は氷も出せたっけな」
ええ、多分痛みは少ないと思いますよ。
「そうか、そうか。学者様達もさぞ驚く事だろうな」
本当にうれしそうに笑いますね。
何かあるのですか?
「いや、とくには無いがあの連中の狂喜乱舞している姿は単純に見ていて可笑しい」
ああ、無害な奇行を無意識にしてしまうんですね、そして年頃の娘たちに「キモい」とか言われるんですね、分かります。
「しかし、先日から気になってたんだがその狼達は何だ?」
王都への往路で懐かれたんです。
とても頭のいい狼達で全然手間が掛からないし、猟犬としても超優秀で助かってます。
「ほうほう・・・撫でても良いか?」
良いですよ。
俺の側で待機している狼達をひと撫でしてやってからデデリさんに近づいて来てもらう。
「ほほう、ほうほう、これはなかなか」
優しくではあるが大胆にわしゃわしゃ撫で繰り回すデデリさん。
とても嬉しそうだ。
可愛いは正義ですからね。
「いいなあ、俺もペットが欲しい」
ポポがいるじゃないですか。
「ポポは俺の相棒だ、ペットではない」
なるほど、言ってる事は分かります。
深層の魔獣の側でそんな緩い話をしていると、かすかに聞こえてきた荷馬車と軍馬の音が次第に大きくなってきた。
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