第106話 コルネンへの帰還

騎士団、衛兵さん達と一緒に深層の魔獣を運搬している俺、クルトンです。


皆が到着して荷馬車に魔獣を乗せて運ぼうとしましたがなかなか進みません。

インド象位の大きさですからかなりの重さなのでそりゃそうでしょうな。

あ、今回も俺がほぼ一人で荷馬車に乗せましたよ。


なので一旦魔獣を降ろして荷馬車を改造する事にしました。

車輪の軸にベアリングを仕込みます。

ボールベアリングではなくローラーベアリングと言われるものを。


鉄が足りないので持ってきていた簡易金床を材料に8個サクッとクラフトスキル全開で作成。

無いよりはマシだろうと魔獣の脂肪を失敬してグリス代わりにベアリングに塗りたくり車軸にセットしていく。

微妙に違う車軸の調整の為にベアリング内側に当たる所に薄くではあるが金属板を巻き付けベアリングの内径を合わせていく。


車軸を通したピロブロック状に仕立てたベアリングを馬車に固定して動作を確認、うん、良いじゃないの。

後は移動の最中に獣脂を定期的に塗りたくってやれば何とかコルネンまでなら大丈夫だろう、多分。



再度魔獣を荷馬車に乗せ、今度はムーシカを先頭に犬ぞり形式で馬を連結、合計5頭立ての荷馬車が進みだした。


「「「「「おおおーーーー」」」」」

「すごいな、速度が全然違う」

「車軸の回る音が凄く静かだ」



俺だけ自走、車軸に不備が起こらないか注視しながら馬車と併走する。

時折グリス代わりの獣脂をベアリングに補充してやり見込みよりだいぶ早くコルネンに到着した。



交易都市というだけあってコルネンの人口は結構いる。

何を言いたいのかというと深層の魔獣見たさに沿道脇に民衆が集まっている。

ちょっとしたパレードの様だ。


ようやく戻ってきたことに何かしらこみ上げてくる物があるかと思いきや、この騒動でそんな気は最初から無かったかのように消えていく。


むろん認識阻害の恩恵で俺に注意を払う者はいないが正直ちょっと引く。

民衆の反応を近場で確認していこうか。


ここでもゲームのシステムが活躍する。

デデリさん、フンボルト将軍との対峙、公開訓練でもそうだったが俺は一人称、三人称視点で周囲を把握できる。

ここでの三人称視点とは俯瞰視点の事。


訓練で多人数相手だったり空から急襲するデデリさんの位置を正しく認識できていた理由もこれだ。

表現は難しいのだが一人称でありながら三人称視点で全体を俯瞰できるという事。


スキルではないし俯瞰できる範囲もそう広くはない、しかしこれもかなりチートに部類する能力だろう。



俯瞰して民衆を観察すると、まあそうだろうね、怖いもの見たさなのか魔獣を見て悲鳴を上げてる人、興味津々で規制ラインぎりぎりまで近づいて行く人、単純にお祭り騒ぎが好きでただテンションが上がってるだけの人。


その中に一人妙な人がいる。

誰かは想像がつく、デデリさんが言っていた学者さんだろう。

『狂喜乱舞』と言った言葉がぴったりするくらい奇声を上げ両手を天に掲げたと思ったら土下座の姿勢になったり妙な踊りを踊ったりと・・・そんな奇行を繰り返している。

民衆も「あ、やべぇヤツだ」とその人の周りだけ空間が開き、綺麗にソーシャルディスタンスが確保されている。


一応顔は覚えておこう、きっと後でこの人に会うだろうから。




騎士団の訓練施設、通称コロッセオに運び込むと白を基調とした制服を着た10人・・・13人いますね、おそらく学者の方たちがお出迎え。

さっき狂喜乱舞していた人も何事も無かったかのようにいた。

良く間に合ったな。


作業台の様な木製の板が敷かれており、そこに降ろしてくれと頼まれる。

俺が魔獣を持ち上げるとギョッとした白制服の人達が一歩後さずるが構わず台に置くと今度は我先にと魔獣に群がってきた。


「冷たっ、深層の魔獣とはこんなに低い体温なのか?」

いえ、それは氷でガンガンに冷やしていたからです。


「討伐時の傷か・・・腹部に一か所しかない、この程度の傷でどうやって倒したんだ」

それは獣脂が必要でやむなく裂いた傷です。

多分環境が合わずに自然死したんだと思いますよ。


やいのやいの学者さん同士で話し合いながら観察しているが俺の声は届かない。

おかしいな、今は認識阻害は発動してないはずなんだが。


「仕方ないよ、こいつらはいつもこうだ」

あ、フォネルさん。お久しぶりです、今戻りました。


「お帰り、しかしクルトンはいつも騒動の中心にいるね。皆に認識されてないけど」

まったく、勘弁してほしいですよ。

でも今回は本当にたまたまなんですよね、狩りの最中獲物の数がおかしかったので調べたらこんなことになってしまって。


「その辺を聴取するから応接室に来てくれないか」

承知しました。




応接室に入り事の経緯を説明していく。

最初は獲物の数が増えている事に気付いた事。

それが誤差なのか魔獣によって生態系が狂ってしまったのか確認する為に街道を外れ索敵していった事。

その索敵であの魔獣を見つけた事。

魔獣は何をするでもなく移動しているだけで徐々に衰弱、死亡した事。


「なるほど、今回は討伐ではないわけだね」

そうですね、でもあれって深層の魔獣らしいじゃないですか?

どうして結界の外に居たんですかね。


「その結果を出すのは学者様達に任せるしかないね、我々は知り得た情報を彼らに伝えるだけしかできない、とりあえずはこれからも協力をお願いするよ」


承知しました。

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