第103話 土地の確認

捕物帖に記された出来事を追体験している様な、そんな不思議な感覚を味わった俺、クルトンです。



それからの話は何の障害も無く粛々と進んだ。


「そりゃそうよ、邪魔してくる奴らが居なくなったんだもの」

とソフィー様はご満悦のご様子。



俺が王都民になる際にはどこの土地をどれくらい下賜するかは既に決めてあったそうでその手続きを進めるだけで事済んだ。

面倒くさがったのか、ワザと妨害したのか書類を止めていた組織である元老院が現在機能不全に陥ってしまった為、本来の最高責任者である陛下の「良いよ」の一言だけで申請の承認が下りた。



元老院の爺さんたちは貴族裁判にかけられソフィー様と職務に就いていた歴代衛兵からの証言、何故か処分せずに保管していた書類群の証拠を突き付けられて開廷の後たった2日間という異例の早さで有罪が確定。

なんでも貴族の責任を果たさなかった罪だとか。

これは貴族にとってとても不名誉な罪らしい。



そして隠居生活を王領避暑地で過ごすことになったじいさん達。

事実上の流刑となったが衣食住は完全に保証されるし医療も充実している。

ただ、王都どころか隣接する領などからの時事情報は完全に遮断されるとの事。


毎日決まった時間に起床、就寝、食事をとり散歩や読書などで時間を費やす生活。

俺と言わずとも一般平民からしたら夢の様な生活だが、権力欲、自尊心の強い彼らには耐えられない程の苦痛らしく、過去の事例からすると2年もしないうちに半数近くが鬱症状を発症するらしい。

この生活でそうなってしまうなんて今まで受けた教育に欠陥が有るんじゃないかソレ?


お付きのメイドさんも年配のベテランが付いて「困ったお祖父ちゃんねぇ(笑)」と言った扱いで、彼らの話や理不尽な要求をヒラリヒラリと受け流し決して取り合わず、自尊心をバッキバキに折っていくそうな。


気を使わなくてもいい優秀なメイドさんに思えるけどなあ。

いや、実際に優秀だからそこに採用されてるんだろうな。

給金幾らだろう、興味が有る。




「それであなたの土地はここね」

地図を開いてソフィー様が指をさします。


ほうほう、では地図を拝見します。

因みに今は広報部の事務所内に居ます。


んー、とても良い立地だとは思います、というか良すぎません?

今までは誰が所有してたんですか?


王城から歩いても10分くらいだろう、貴族門へのアクセスも1本道で大変良好、上下水道用の水路も完備。

何より周りが公園で民家や店舗などの建造物が無いからムーシカ達の世話も周りを気にしなくていい。

・・・よく見ると王立公園の敷地を分譲してるじゃないですか。

良いんですか、こんなことして。しかも公園の6分の1程度(0.8haくらい)ありそうですよ。


王都そのものは広くはありますが限られた土地としてみれば分譲された土地は小さくはありません。

いくら何でも騎士爵にこれは広すぎやしないか。


「陛下はクルトンさんが厩舎を建てる事を予測していた様です。ですので出来るだけ厩舎を充実させてスレイプニル、グリフォンの繁殖拠点を目指すとか」

アスキアさん情報。


「ここはあくまでも足がかりで本格的な繁殖場確保の為、王都外の土地を物色しているとの情報もあります」


マジですか。陛下まだ諦めてないんですか。

今時点でですけど俺が協力しなければ頓挫する事業じゃないんですか?


「でもきっと陛下の中では協力して頂ける確証が有るのでしょうね」

と、ソフィー様。

かなりの予算が必要になると思うんですけど大丈夫かな。


「正直言って周りの者は宰相閣下はじめ楽観的なんですよ。なんだかんだ言って国王陛下肝いりの事業は失敗した事が無いので」

すげえな、それだけで名君として歴史に残るんじゃないか。


まあ、そんな下心が有るなら乗っかってみるか。

別に俺に依頼来てるわけでもないし、今のその情報は聞かなかったことにしよう。




「ではここに事務所と厩舎を建設しますよ」

何故か場を仕切るソフィー様。

はい、じゃあ一度コルネンに戻って諸々の始末を付けたら打ち合わせに戻って来ます。


「大丈夫、こちらで進めておきます。要望以上の物を準備しますからクルトン卿はスレイプニルとグリフォンの確保を優先してください」

え、聞かなかった事になったばかりですけど、その話。

命令ですか、それ。


「いいえ、陛下からの依頼です。王笏も依頼しているようですがクルトン卿なら問題ないとの判断です。王命にしなかったのは期限を設けなかったからですよ」


そうは言っても実質の王命ですか、そうですか・・・期限が無いなら良いか。

それで予算はいかほどで。


「初年度の事業費として大金貨1000枚の予算を確保するそうです。ここから事務所、厩舎の建設費を充当し捕獲費用も出来高で支払います」

建屋、設備と事業規模を想像すると少ない予算(日本円で凡そ2億円)だが土地は褒美で頂いたもの、上物の建設費は8割補助が入る。

見積もりしたわけじゃないが十分利益は出そうだ。

目的の騎乗動物捕獲できなくても探索費用は経費で落ちるんだろうし。


ん?おれがやろうとしていたこの法人は運搬業だよな。

事業目的変わっているんじゃないか?


「問題ありません、事業申請時に『スレイプニルを利用した事業』としか申請していませんから、それに逸脱していなければ後から目的は追加できます。どこに行くにもスレイプニルに乗っていくんでしょう?」


ええ、そうですけど、なんか最近良いように言いくるめられる事が多い気がする。

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