第182話 新しい仕事
馬車を引く馬の腹帯に疲労軽減の付与魔法を施したリボンを取り付けている俺、クルトンです。
式典が終わるとぼやぼやしている訳にもいかない。
特使さん達は今日の宿泊予定地まで進まねばならないから。
忙しなく感じられない程度に急いで特使さん達がスタンバイしていた馬車に向かい乗りこむと出発のタイミングを待っている。
その空き時間に前もって準備していたリボンをサクサク縫い付けてハイ、完了。
疲労しにくくなることで馬たちの怪我、病気など体調不良のリスクが格段に減ります。
機嫌良く馬車を引いてくれることでしょう。
つまり往路より安全な帰路になります。
「ここまでして頂いてかたじけない。そして感謝を、大変助かります」
ハーレル王子が代表して俺に声をかけてくれる。
因みに国王陛下はこういった見送りに来ることは無い。
現神たる存在はそもそも下々に姿を現す事に慎重になるのだ。
食事処『ピッグテイル』ではよく見かけるらしいけどね。
そうしてもう一つ、ハーレル王子に包みを渡す。
本来防犯上の理由でこんな事は許されないのだが、認識阻害を調整しながら発動しているので特使さん達以外に俺の姿は認識されていない状態になっている・・・はず。
「これは?冷たいですね」
バニラアイスクリームです。器に付与を施して冷凍状態に保持されますから、道中好きな時に召し上がってください。
あと、アイスクリーム食べた後の器はそのまま冷凍庫として使えますのでどうぞ活用してください。
「あら、それは楽しみですね。早速今日のおやつで頂きましょう」
「本当にたのしみ!」とラドミア姫様が今からソワソワしています。
「有難う御座います。旅の道中に氷菓などと。こんな贅沢な事はありませんよ」
サイレン王子からもお礼の言葉を頂きます。
今回のバニラアイスクリームはどの材料もリッチに使いましたから今までのより濃厚で芳醇なバニラの風味を堪能できるはずです。
お礼の言葉に合わせて「次の機会には私の剣も打って頂きたいのです」と仕事のオファー。
願っても無い事ですよ、仕事の種は出来るだけバラまきたいので。
理想は営業しなくても仕事が舞い込む様になることです。
それがいかに大変なのかは理解していますが。
「約束ですよ」
綺麗にそろった白い歯を見せサイレン王子が笑うと「では出発します!」と先導を任されたベルニイスの騎士さんが号令をかける。
バルタンさんも隊列に加わっていて手を振ってくれる。
ゆっくり動き出した馬車は次第に加速し、一定の速度に到達すると道のわきに整列している騎士団の間を通り抜けてそのまま王城の門から中央通りの中を進んで行く。
慣例に則り俺達は最後尾の護衛の騎士が門を通り過ぎるまで目を伏せて膝を折り、帰路の無事を祈った。
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これで本当に仕事の一区切りがついた。
腕輪も義手も、何なら騎乗動物の繁殖事業も引き続き対応していかなければならないが一度コルネンに戻る必要が有る。
フォネルさんもやきもきしているだろうしね。
王笏の製作ではコルネンでカサンドラ宝飾工房にお願いしないといけない案件もあるし。
コルネンから持ってきた金庫は既にアスキアさん、レイニーさんに渡してある。
ちゃんと説明した後、王都にある屋敷に俺が直接設置した。
アスキアさんのホッとした顔が印象的だった。
もう一度王都を回ってお土産を準備しないとな。
以前送ってはいるが思いのほか長期間の滞在になってしまったし、ちょっと気になる調味料もチラホラ見かけたし、単純に俺が見て回りたい。
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「でだ、チェルナー姫様のお名前を勝手に使おうとした事で少々問題になっている」
宰相さんから直々にお呼びがかかり執務室で話を聞いています。
特使さん達の見送りの後、間を置かず宰相閣下の執務室へ連行されたのでどんな件かと思えば新しく開発した合金の名称の件だった。
ウリアムさんが登録申請してくれたから情報が回ったんだろう。
不味かったですかね?一応特許料やライセンス料で得た利益は腕輪普及の為の基金を設立後にチェルナー姫様の名義で組織に出資して頂いて構わないのですけど。
申請書にもその旨の企画書を添付したんだけど不手際ありましたか?
「いや、そもそも根回し無しでそんな申請されても承認なんぞ出来る訳なかろう?」
基金や利益の使用用途は別にしても名称は問題ないように感じますが。
この国ではチェルナー姫様誕生以降女の子の新生児に『チェルナー』と名付けする親はそれなりにいると聞いたことありますし。
「新素材の合金は魔銀とまではいかなくても魔力との親和性がかなり高いんだろう?それでいて安価ときたら付与魔法産業の発展が一足飛びに進むかもしれん。
つまり将来にわたり大きな利益を生み続けるだろう事が容易に想像できる。
これで新素材の名称からチェルナー姫様が暴利を貪る様な噂を流されでもしてみろ、プロパガンダの格好の材料になる」
そんな雑な設定通用しますかね?
なんなら決算報告書でも開示すれば良い事だと思いますけど。
「どんな証拠を出そうとも、それが正しかろうとも関係ないのだよ、そう言った奴らからすれば。国を混乱させることが目的だからな。
幸い我が国にそんな事を信じ吹聴する者はおらん・・・だろうが、ならず者国家の間者は間違いなく利用してくる。
問題の芽は出来る限り速やかに潰しておかねばならん・・・分かるか?この申請を承認する条件を今提示している。
・・・やれるか?」
もしもの時の後ろ盾として元老院の名前を利用しても構わなければおそらく大丈夫でしょう。
索敵の魔法で条件絞ればほゞオートマチックに標的を炙りだしてくれますしね。
それで間者の排除をすればよいのですよね、排除の定義は?
「殺害する事はならん、国外追放が最良だ。
既に犯罪を犯していればそれをネタに何とでも出来る故、その証拠を押さえるのが良いだろうが、そうでなければ囮でも使うか」
殺害を選択肢から真っ先に排除したのは俺的にとても好感が持てます。
しかし囮で犯罪を誘発させるのですか?あまり気が進みませんが。
「一番簡単で確実だぞ」
そうなんでしょうが・・・。
別の方法を試してみるので任せてもらえませんか。
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