第183話 「昨日の今日で終わらせてきたと?」

間者どもを選別している俺、クルトンです。


ならず者国家の間者の排除を宰相閣下より仰せつかりました。

今回は騎士の職務とは別との事らしいので特別手当が出る様です、やったね!



翌日に早速王都中心部の広場にあるベンチに腰掛け、以前狂信者どもを炙りだした索敵魔法を使用し、ならず者国家の国民、関係者を選別します。

あと自国の協力者もです。


もちろん今の俺は認識阻害絶賛発動中。

最近になって気付いたんだが認識阻害を”強力”に発動させると認識されないどころか人が寄ってこないのよね。

俺から見ると皆避けてくれる感じ。

だから今いる俺の横には誰も座ってこない。




索敵が完了し・・・4人ですか、思ったより少ないですね。

でも条件をかなり絞ってこの人数引っかかったって事は逆に多いのかな。



さしあたり幻覚の付与を施した呪符を15枚ほど準備してきたがそんなに必要なかった様だ。

まあ、良い事ではある。


対象者が少ないって事は単純に楽だし。



まずは対象の一人に向かって歩き出す。

その人に近づいて行くと露店で織物なんかを売ってる人だった。

本業は行商なんだろうが間者としても活動しているんだろう。


認識阻害を発動しているので無造作に近づいて付与を施した呪符を相手のポケットにに忍び込ませる。


これで1人目終了。


続けて残り3人、サクッと終わらせますよ。



「昨日の今日で終わらせてきたと?」

はい、効果は個人差有りますので・・・そうですね1週間もてばいい方なんじゃないでしょうか。

近いうちに出国すると思いますのでこの人たちに監視を付けて確認してもらえれば結果が分かります。


そう言って4人の似顔絵と昨日泊まっていた宿と宿泊名簿をコッソリ確認してメモを取った名前・・・偽名かもしれませんが・・・等の情報を渡す。


「この人相書きは・・・分かり易いな。お前に絵の才能もあったとはな」

ただのゲームのスクリーンショット機能です。


「分かった、お前の言う通り監視を付けよう。対象者の出国が確認されれば申請書の承認手続きを進めておく。

しかし幻影の魔法と言ったか、そんなに強力なものなのか?」


感じ方には個人差が有りますから何とも言えませんが、今回は効果は抜群だと思いますよ。



さて、一応報告は終わりました。

仕込みの効果が発揮され間者が王都を出たところでコルネンに帰ろう。

出国したかは後で聞ければそれで構わない。




クラフトスキルの力を借りマイクロチップの様なものを作成、対象者に埋め込めば国内外での活動状況を監視する事も出来るようだったが前世の俺の価値観に引っ張られて今回は見送った。



後悔する事になるかもしれないがそれは覚悟の上だ。

今の俺ではその一線を越える事は出来なかったのですよ。



今日はシンシアとポックリさんの店に伺っています。

今回は居ましたよ、ポクリートさん。


「やっと会えたな、この前は留守にしてて悪かったな。もうすぐコルネンに戻るんだって?」

ええ、早ければ1週間もしないうちに出発しようと思います。


「あの馬車でか、羨ましいったりゃありゃしない」

ん?見た事ありましたっけ、俺の馬車。


「これでも王城に出入りできるからな、お前と違って事前申請は必要だが」

へー何気に凄い事なんじゃないですか?


「そんなんじゃねぇよ(笑)、そんで頼まれてたもん準備しといたぞ、引き取りはいつにする」

王都出発前日にお願いします。

まだ確定はしてませんが3日~6日後には取り来ますので。


「おう、分かった。

そんで世間話でもっていきたいとこだが、実は見せたいものが有ってな、早速で悪いがちょっと倉庫に来てくれ」

?何でしょう。


ポックリさんの後について裏に回り倉庫に向かいます。



「これなんだがな」

・・・苗ですね。

この葉の形・・・リンゴですか?


「おっ、やっぱり知ってたか。けどな・・・(ゴソゴソ)コレ見てみろ」

今度は苗ではなくリンゴその物を箱から出してきました。


「うわぁ、真っ赤!」

シンシアが大きな声で驚いています。


前世の記憶を持っている俺にしたら驚く事じゃないが、この国で流通しているリンゴは青リンゴ。

赤いリンゴとして店頭に並ぶ物もありますがそれでも上側四分の一位がほんのり赤くなっている程度。


けど今見せてもらったリンゴはしっかり下まで赤くなっています。

厳密に言えば下のガクの付近はほんのり緑ですけど・・・しかしリンゴの代名詞、富士にそっくりです。

きっと甘いんでしょうね。


「まあな、お前さんは上得意だからなちょっと食ってけ」

品種改良の技術が未熟なこの世界で甘い果物は結構なお値段がします。

有難う御座います。


タイミングを計ったように奥さんが皿とナイフを持ってきて切り分けてくれます。

6等分に切ってヘタ、ガクを取り除き皮はそのままで皿に載せてくれました。


「召し上がれ」

はい、頂きます。


シャク、シャク、シャク

「甘い!すごいクルトンさん、とっても甘い!」

シンシア大喜びです。


俺はと言うと・・・

「・・・そうだね」


「あれ、クルトンさん食べたの美味しくなかった?」

いや、十分甘いよ、青リンゴに比べたらかなり。



「・・・分かるか?確かに甘いが・・・俺が食ったのはもっと甘かった。個体差と言うか当たり外れの振れ幅が大きすぎるんだよ、このリンゴ」


・・・どうして俺にこれを?


「お前さんはクラフトの技能持ちなんだろう?どうにかならんか。この苗からとれるリンゴを全て甘くすることは出来ないもんか」


俺も果樹については詳しいわけではありませんし農業関連はクラフトと直接関係ないので何とも言えませんが・・・たしか日照時間と寒暖差が重要だったはずです。

剪定作業に堆肥を与える時期と量、丁寧な摘蕾、摘果などの間引き、除草や果実にしっかり陽の光が当てる為の工夫も。

つまり甘い果実を収穫する為にはかなり手間が掛かります。


「ふーん、日照時間てのは晴れの日が多い方が良いって事か?あと寒暖差ってのは・・・」


昼と晩の気温差が大きい方が甘くなると聞いた事が有ります。


「ん~なかなか難しいな、天気は俺達にはどうもできんからなぁ。アークメイジを山ほど集めて魔法使えば雨雲位なら呼べるらしいけどよ、うん無理だな」



・・・・・・そうでもないですよ。


「えっ?」


何とかなるかもしれません。

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