第184話 幻覚の効果

シャク、シャク、シャク、シャク

引き続きポックリさんのお店でリンゴを食べている俺、クルトンです。



「どうにかなる?本当か」

ええ、多分。


ポックリさんがちょっと期待した顔で聞いてきます。

詳しくは言えませんが・・・まあ、大丈夫でしょうね。


「秘密って事か、でも美味いリンゴが食えるならそれでいい。

この苗はやるから採れたリンゴはうちの店に卸してくれよ」


気が早いですね。

でも販路を開拓せずとも良いのは単純に楽です。


栽培の件は箱庭でなら問題ないでしょう。

何なら時間経過を速めてすぐに成木にすることも可能・・・ですが生物、植物の育成時はあまりやらない方が良いみたいですね。


どうしても現実世界との歪が出来てしまうようです。

具体的にどんな影響が出るか分かりませんがスキルからの反応が芳しくありません。


このやり方は控えた方が良さそうだ。



苗を貰い大きめの鉢をポックリさんの店で買ってそのまま王城へ戻る。

こうなる事を分かってて苗と一緒に鉢を準備してたな。



苗を鉢に植え替えてタップリ水をやると、日当たりが良くて邪魔にならない場所を衛兵さんに聞いてそこに置かせてもらった。




翌日の朝、フンボルト将軍と日課となった訓練から王城に戻ってくると宰相閣下から朝食後に執務室に来るよう伝言が有った。


早速呪符の効果が出たのかな



朝食が終わり食堂でゆっくりお茶を飲んでいるとツカツカと早足で歩く足音が聞こえる。

「ここに居たか、そろそろ執務室に行くぞ」

ん?スージミさんも呼ばれたんですか。


「ああ、面倒な事じゃなければ良いんだがな」


お茶を飲み干して直ぐにスージミさんと一緒に執務室へ、予想通りと言いますか早速宰相閣下から目星をつけていた間者4人の現状を教えてもらいます。


「現状についてだが4人中2人は既に国境に向かって移動を始めた様だ。残り2人は・・・自力での出国は無理かもしれん」

ん?何か事故でもありましたか。


「宿から出てこない。宿の従業員に様子を確認してもらったが部屋でうずくまったまま震えていたそうだ、怯えて話もろくにできんらしい・・・クルトン、何をした?」


思ったより効果が有ったようですね。

ポケットに幻覚の付与を施した呪符を入れました、彼らには背中から巨大な狼が唸りながら追いかけてくる幻覚が見えているはずです。

夢にも出てくるはずですよ。


「なるほど、奇妙だと思っていたがそれが理由か。奴らは壁から背中を離さないらしくてな。」

話しを聞くと思ったより深刻そうですね。解呪してきましょうか。


「それは最後の手段としておこう。

これに関連するがスージミ、この間者2人を国境まで送り届けるよう手配してくれ。先方が何か言ってくるうちに早々にお帰り頂く、騎士の護衛を付けるのだ向こうも本人も嫌とは言えまい」


「中々に面倒ですなぁ、向こうさんの『平民』を騎士団が護衛ですか。

騎士は皆爵位持ちですよ、他国の平民を貴族が護衛・・・んん~。

不自然じゃあありませんか?何なら護衛ギルドに依頼しても良いんじゃないですかねぇ」


「不自然で結構、ワザとやる事だ。

事の顛末を向こうが正確に理解してくれても勘違いしてくれても構わん、それに意味はない。

いや、意味はあるな。

どうでも良い事に思考と時間を裂いてもらう事が目的だ」

ただの『いやがらせ』でしょう?なんでそんな分かりにくい言い回しを。


「ともかく向こうに舐められるわけにはいかん。

自分の都合の良い解釈しかせん奴らが治める国だからな、子供を相手にしている様だよ、全く」

ああ、宰相閣下大変そう。

殴られるまで現状を理解できない国なんでしょうね、面倒くさい。


「とにかく国境までの騎士の護衛は決定事項だ。出来るだけ早い方が良い、頼むぞ」


「承知しました」

スージミさんがそう答えると「話はこれで終わりでしょうか、では自分はこれで」と、早々に退室していった。

引き際がとてもスマートで鮮やかだな、ぜひ見習いたい。


「では私もこれで・・・」


「お前にはまだ話が有る」

逃げられなかった・・・。



「実質間者の追放は出来た様なものだからな、チェルナー姫様のお名前を新素材に使用する事については承認する様に進めておく。姫様からも基金の件については良い返事をもらっているしここまでお膳立てしたら問題ないだろう」

良かった、ここまでの話になってしまったから姫様が拒否したらどうにもなんないと覚悟はしていたが本当に安堵した。


「それでだな、チェルナー姫様からもこの件、腕輪型の補助具普及の基金について一つ提案が有ってだな、お前の意見を聞きたい・・・いや違うな、協力してほしいのだ」


何でしょうか。


瞼を閉じ、ソファーに深く座り直すとゆっくり次の言葉を吐き出す。

「姫様はお前が拵えた腕時計型補助具のお陰で一般人と変わらない生活を送る事が出来るようになった。

当然と言えばそうなのだが、それでも我々が思っていた以上に姫様はお前に感謝している。」

はあ、とても光栄な事でございますが、それが姫様の人生を縛る呪いにならなければ良いのですが。


「うむ、なかなか鋭いな。まさしくこれからの話は呪いと言えるのかもしれん」

えっ、まずい事でもありましたか?


「まずい事・・・ではないのだがお前からの基金立ち上げの提案も後押しして補助具普及の為の大使として外交官の仕事をしたいと陛下に上申なされてな。

まるでそれが天命、使命であるかの様に・・・まさに呪いにでも掛かったかの様に強く望まれている。

お体の問題が解決された今、国内外で腕輪型補助具の普及に努めたいと、加護持ちの命を救いたいとの事だ。

幼少からかなり利発で礼儀作法も語学の知識も申し分ない、しかも『来訪者の加護』持ち。

この件についてはこれ以上ない人選なのだが・・・国外となるとな、2~3年の長旅になるだろう。

流石に陛下ならずとも私も”うん”とは言えなんだ」



そうですよね。

前世の様に飛行機で行くなんて事も出来ない世界だし。

基本移動は馬車になるから各国を回るとなると時間かかるよな。

護衛も結構な数必要だろうし、王族となれば実質軍が動く案件だろう


ん?

それで俺に協力って?

今の話で俺が協力出来そうな事ありますかね。

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