第185話 安全の為に
宰相閣下からチェルナー姫様の件で相談を受けています。
そろそろ本題に入りそうで身構えている俺、クルトンです。
「お前が作った自前の馬車だがかなりのものだそうじゃないか。デデリからの上申書にも書いてあったぞ」
はい、ええ、自信作ですが・・・デデリさんからの注文もいただいておりますし・・・。
話しの流れからすると姫様の分も注文いただけるので?
コクリとうなずく宰相閣下。
「ああ、そうしたいと思っている。しかしどんなものか先に確認しておきたくてな。スレイプニル2頭立てという事もあってとんでもない速度が出るそうではないか」
ええ、かなりの速度出ます。
石畳、ダート等、道を選ばず80km/h以上は出せます。
通常の巡航速度でも馬具の付与効果もありますから60km/h位でしょうか。
「その数字はよく理解できん、具体的に1日の移動距離はどの位になる」
1日5時間移動に費やしたとして道の上を走るのでしたら300km進めます。
「ん?1週間での間違いではないのか」
間違いではありません、机上の話なので当然上り坂とか連続したカーブ、トラブルもあるでしょうから一定期間で平均取ればもっと移動距離は短くなるんでしょうけど。
「本当に?」
本当です。
「・・・それはスレイプニルと馬車、どちらの恩恵が大きい?」
両方です。
「・・・」
・・・欲しいんですか?両方。
「ああ、今の話を聞くとスレイプニルありきではあるが、その能力を十全に発揮させるにはお前の馬車が必要なのだろう?」
もう一つ、付与付きの馬具が必要です。
スレイプニルが無くても付与付きの馬具と俺の馬車でもそこそこ良いとこまで移動距離稼げるんじゃないですかね。
実験してないので知らんけど。
「一応姫様には準備が出来るまでしばらく時間が掛かると言っているから両方の準備を進めてほしい。当然腕輪が最優先ではあるが」
承知しました、再確認ですけど注文を前提としたお話という事で間違いないですか?
「ああ、馬具と合わせてお前の馬車を色違いで拵えてもらえればいい。相当な物らしいからこんな乱暴な注文のし方でも性能に問題は無かろう」
多分大丈夫だと思いますが、色はどうしましょうか。
あまり奇抜な色だと塗料の都合でご用意できないと思いますし。
「それは姫様に話を聞いておく。因みに製作期間はどれくらいかかるんだ」
色以外俺の馬車の完全コピーなら材料揃ってから・・・1週間くらいでしょうか。
「早いな!姫様にはその事は内緒にしてくれ。
尋ねられたらそうだな・・・5ヶ月とでも言っておいてほしい」
分かりました、準備と言っても色々ありますしね。
話しは合わせます。
「フム・・・でだ、姫様も含めその馬車に試乗させてもらう事は出来ないか?
デデリがあれ程言う馬車だ、姫様には製作期間が長期に渡って当然と言った情報を擦り込みたい」
・・・本当の所は?
「面白そうではないか、騎馬を置き去りにする様な馬車など乗らずにはおれまい!」
満面の笑みでそう答える宰相閣下。
こんなところは陛下にそっくりですね。
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はい、そんで2日後です。
今日は馬車の試乗会を開催します。
準備の為、昨日の1日間は主に馬車内で寛いで頂くための食材を選定するのに費やした。
ワインとビール、ウィスキー、果実水、酒の肴としてのチーズとハム、フライドポテトにラスク、新幹線の車内販売真っ青のカッチカチのバニラアイスも準備した。
当然馬車の整備も怠らない。
久々のタイムアタックをかますつもりなので特に車輪、車軸などは念入りに確認する。
「ちょっと待て。デデリから聞いておるぞ、姫様もいるのだから速度は程々に頼む」
フンボルト将軍が眉を下げて俺を嗜めます。
ああ、そうか、姫様もいるんだっけか。
なら仕方ない。
「あら、そんな事ありませんわ。限界を知るのも必要な事でしょう?」
「その限界が問題なのです、大げさではなく気絶してしまいますよ。」
まあまあ、姫様もアスキアさんも試してみればいいじゃないですか。
「姫様を煽らないでください!」
そんな和気あいあいとした雰囲気の中皆俺の馬車に乗りこみます。
今日のお客様は宰相閣下、チェルナー姫様、フンボルト将軍、アスキアさん、レイニーさん、そしてシンシアの6名。
では参りましょうか、セラーに飲み物ありますので寛いでいてください。
王都内を軽快に進み門を通過する。
さて、徐々に速度を上げていこうか。
ムーシカ達に速度を任せて道に沿って走り続ける。
最高速度ではないが付与の補助を受けたスレイプニルが引く馬車の巡航速度に到達したので伝声管で室内の皆にその事を伝える。
「・・・聞くのと体験するのでは全く違いますね。騎士と軍がこの速度で運用できれば間違いなく魔獣襲来時の避難、防衛作戦に革命が起きますよ」
アスキアさんがそう言いますがデデリさんのグリフォンはこれの比ではありませんからね。
グリフォンを繁殖できれば文字通り制空権を握れます。
この世界なら勝ち確定の戦になります。
「インビジブルウルフ卿!すごいわ、これで外遊出来るなんて頼もしい限りです」
「矢避けの付与も付いているのだろう?魔獣討伐の戦場でもこれで蹂躙できるのではないか」
陽気なフンボルト将軍の声が伝声管を伝わり聞こえてきます。
多分ウィスキーで良い気分になってるな。
「このシートも揺れの少ない車体も室内の静粛性も・・・恐ろしいな、国外へ持ち出すのは不味いんじゃなかろうか、ここまでになると」
慎重な宰相閣下らしい発言ですね。
「そんなことは言わないでください、私はこの馬車で旅がしたいのですから」
そうでしょう、そうでしょう。
俺のロマンを詰め込んだ自信作ですから褒められるのはとても気持ちが良い。
そんな事言われたらもっとスピード上げちゃうよ。
「これ以上は無意味だろう、この速度で御者が務まるのはお前だけだろうし護衛の騎馬が付いてこれん」
宰相閣下からそう言われますが、前世で高速道路を車で運転した経験が有る俺だからこう言える。
「大丈夫、人は速度に簡単に順応していきますから」
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