第181話 余韻

本日のウリアム宝飾工房での仕事は終了しました。

マチアスさんが無事治療が終わった右腕で義手の入ったバッグを持って工房を出ていくところを見送っている俺、クルトンです。


「いやあ、大したもんだなぁ。宝飾技術であんな物も作れるんだな。俺もこうしちゃいられんな」

ウリアムさんがそう言いながら笑って俺の背中をバシバシ叩きます。


因みにウリアムさんはマチアスさんが義手を装着してバッグを持っていると思っています。

騙す様で心苦しいが、本当の事も言えないので「申し訳ない」と心の中で呟きます。



あの義手、実は魔法陣以外はかなりローテクで拵えてあります。

幾つもある筋肉それぞれを超小型のエアシリンダーで代用、その動作を出来るだけ緻密に、自然に、滑らかになる様に動作に対し毎秒100回程度のフィードバックを行ってそれを魔法陣で統合、制御しています。

魔法陣の機能ありきのゴリ押し力技です。


骨格もオリジナルに出来るだけ形状を似せる様にする一方、その内部にはエアシリンダー動作用の小型ポンプと動作に必要なエネルギーを補充、供給する為の魔力変換付与を施しました。

なので故障しない限り腕に装着していれば半永久的に動作します。


シリンダーを動かすための命令、信号の伝達方法も患部末端付近にある神経からの微細な電気信号を拾う様に義手装着面へアンテナの役割を果たす魔法陣を仕込み、特別な医療処置を行わなくても良いように装着方法も工夫しました。


なのでインターフェースの魔法陣に始まり動力供給、シリンダーの出力調整、動作に対して矛盾が生じないかのフィードバック機能、各々の魔法陣の同期、エラー発生時のセーフティー機能、各機構部から発生する音の消音機能等々、魔法陣の種類で言えばチェルナー姫様の腕時計を遥かに超える数を詰め込んだ。


見た目も出来るだけ本物の腕に近づけるにあたり表面は豚の皮をマチアスさんの肌色に着色して使用、爪も先端が少々白濁して出来るだけリアルに見える部位を厳選し水晶を削り出して作った。


幻影の魔法陣を彫り込み視覚を欺く方法で見た目の解決を図ろうともしたが今回は見送りました。

幻影と実際の義手との間にわずかな時間、空間のズレが生じ今回の製作期間では問題の解決できなかった為です。


装着方法もハーネスで肩口、胸部へ固定、吊るす方法ではなく、長袖Tシャツの右袖柄に義手を直接取り付けた様な外観で左側は袖無し、これを”着こむ”様な装着方法にした。

勿論荷重がかかっても問題無いように義手柄の袖はきつめのサポーターの様に少々強めに固定されるのと同時に補強が肩まで及び、荷重がかかっても指先方向への伸びを極力抑えている。


こうしてこの仕事を振り返ると俺、良い仕事したな。

今回は特に自画自賛しても良いんじゃないかな、下手したら自律型オートマタ作れるかもしれんよ、俺。

「痛っ!!」


「おい、どうした?珍しいじゃないか、お前がそんなに痛がるなんて」


ああ、大丈夫です、一瞬でしたから今は何ともありません。

しかし・・・生まれて初めてです、こんな痛みは。

コメカミをかなり鋭い痛みが通過しました。


情報が少なすぎるので俺の勝手な想像だけど『オートマタ』は禁忌の技術・・・の様だな。

『世界』が干渉してきたような気がする。

仮定の域を出ないが・・・だとしたら初めてだな、こんなにあからさまな干渉は。


江戸時代のカラクリ人形や産業用ロボット程度なら・・・何でもないが、限りなく人間を模した『自律型』人形となるt・・・っ!やっぱりなんか妨害が有る。


良いのかよ、かえって心配になるよ、こんな分かり易い妨害。

雑すぎるだろう、もうちょいスマートにやれんもんか。

概念自体この世界の認知から消去するとか。

俺にとってはその方が有難いんだがな、誰にも認識されずに改変される世界ならだれも傷つかない。


いずれにしてもオートマタは無しだ、作る気も無かったが何かヤバい気がする。

古代の大災害と関係でもあるのかな。

修復途中と伝わるこの世界には脅威になってしまう技術なのかもしれないな。


知らんけど。



それから6日が経過した。


その間に残りの義手も完成し仕様書、設計図を含む製作に必要な資料も揃えてマチアスさんに引き渡し済み。


王都での仕事はほゞ一区切りつき本日はベルニイスの特使さん3人が母国へ帰還する日だ。


「滞在期間中のもてなしにつきまして心より感謝を」

ハーレル王子が代表して国王陛下へご挨拶。


謁見の間で略式ではあるが式典が開かれている。


滞在期間中の出来事に対し、特に腕輪の輸出の件は

「両国が並んで目指すその道の先を、優しく照らす明るい光となるでしょう」

と、両国の友好関係を築いていきたい旨の希望を明確に表明していた。


同盟に向かっての協議が活発になっていくだろう。


これからはベルニイスに向かう役人が増えるだろうね。

となれば、その際はぜひクルトン印の馬車を購入、使用して頂きたい。


「ベルニイスまではどのくらいかかるの?」

シンシアがそう聞いてくる。


俺もアスキアさんからの又聞きだけど何事も無ければ1ヶ月位らしい。

スレイプニルで引く俺の馬車使えばその半分ですよ、ええ自慢です。


「遠いんだね」

ちょっと寂しそうだ。

何気にラドミア姫様とも仲良くなっていたからな。


おそらくラドミア姫様は嫁いだ後は特別な事情が無い限り国から出る事は無くなるだろう。

それも見越して今回の特使メンバーに入ったんだろうな。

外遊にかこつけて最後になるかもしれない海外の旅・・・。


そうだな、

「今度はこっちから会いに行こう」


「うん!」

嬉しそうに笑っている。


しかし平民で王族との交友関係が有るシンシア・・・なんて恐ろしい子!


「クルトンさんに言われたくない」

ハイ、ソウデスネー。





一通りの挨拶が済み式典が終わると入口扉の近くの下座で見ていた俺達に特使さん達が近づいてきた。


「インビジブルウルフ卿、貴方には返しきれない恩を受けました。先の話の続きと言う訳ではありませんが何か有れば是非ベルニイスを頼ってください」

ニコニコしながらハーレル王子がそう俺に伝えます。


ええ、その際は宜しくお願いします(笑)


「冗談で申し上げている訳ではないのですよ、腕輪の件など重要性を理解すれば優れた戦士である事も相まって救国の英雄として王都に像が建てられても不思議ではないのですから」

ちょっと困った表情で告げるラドミア姫様。


そうですか・・・ならお願いなのですがインビジブルウルフとしての功績は気にしませんので、クルトンとしての俺の事は秘密でお願いします。

深々と頭を下げる俺。


「ややこしい事をおっしゃるのね」

ラドミア姫様は口を抑えることなくケラケラ笑っていた。

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