第351話 包括

途中少しスピードを上げて馬車を走らせたことも有り予定通り陽が高いうちにコルネン関所付近のスクエアバイソン厩舎に到着しました。


今、テホア達をご両親に引き渡し終わった俺、クルトンです。




厩務員さんに大麦村付近に居たスクエアバイソン、騎士さん達の状況を説明し無事であることを伝える。


「教えて頂き安心しました。なら明日の為に受け入れの準備を進めましょう」

そろそろ今日の仕事仕舞いだったが再度厩舎が慌ただしくなった。

これから明日の受け入れ態勢を整える様だ。こんなところが職人と言うか仕事に誠実な感じがするよね。


でも程々にね、自分たちが体壊しても本末転倒だし。



パメラ嬢はもうすでに騎士団事務所に向かっている。

今回の異変?を大隊長であるデデリさんに報告するんだろう。


多分これから騎士団は慌ただしく動く事になると思う。

こういった兆候に騎士団のフットワークはかなり軽い、即行動に移るだろう。

人類全体の死活問題になりかねないから。


何も無ければそれで良いんだけど、この流れだと調査に俺も引っ張られそうだ。

王命も有るからこれについては協力を求められれば断る気はない。


ムーシカ達と馬車もここに置かせてもらってポム、プルと一緒に下宿先に向かう。

屋根に載せている革は明日取りに来よう。




マルケパン工房に帰って来てから伯父さん達家族とシンシアに挨拶と故郷の状況を伝える。

開拓の為に家畜の準備を進めたいと話題を出すと「ちょっと知り合いに話してみるか」とアイザック伯父さんが提案してくれる。


「ぜひ」とお願いして明日の朝、紹介先の情報を教えてもらう事となった。


その後、恒例の土産話をしてその日の夜が更けていき、いつもより少し遅い時間に就寝した。



起床後、いつもの店の手伝いの後にシンシアと騎士団修練場に向かう。

今日はテホア達の訓練は行わない、完全オフの日にしている。


修練場に到着しシンシア(ぺスとオベラもセット)を騎士団さん達に預けると、早速デデリさんの所に向かう。

しかし既に大麦村周辺に飛び立ったとの事、昼過ぎには一度戻って来るそうなのでそれまで別の仕事を片付けて来ようか。


伯父さんに紹介してもらった家畜の卸業者にでも行こうかなと考えているとフォネルさんが寄って来る。

珍しいな、いつも飛び回っているフォネルさんがこの時間に居るのは。


「やあやあ、クルトンお帰り。故郷はどうだった?」


どうもどうも。ええ、皆元気でしたよ。

今回の帰省で余計に早く帰りたいって思う様になりました。

残りの仕事をさっさと済ませて本格的な戻り支度をしないといけませんね。


「はは、そうか。

で、パメラから聞いたんだけど魔獣が背中を見せたんだって?

正直信じられないんだよね」


俺も直接見た訳じゃないんですけどそうみたいですね。

じきに警邏業務から騎士さん達が帰って来るでしょうから、その時詳しく報告上がると思いますけど。

やっぱり気になりますよね。



「うん、凄く気になる。その話が本当だとすると取りこぼしていた魔獣は結構な数になると思うんだよ。

結界外での魔獣は今までイレギュラーな存在だったけど、結界外の・・・人間の生活圏内で完全に生態系の一部になっている様ならどうしようも無くなるかもしれない」


・・・絶滅させたら他の不都合が生じてしまうって事ですか?


「そう、クルトンの仮説が正しかったとしたら、魔獣ありきの生態系がこの世界の正しい在り様、そうなってしまうって事だからね」


何気に恐ろしいですね。

未来永劫、人類は魔獣との戦いを続けていく、その事を運命づけられるって事ですか。


「あくまでも仮説からの想像だけどね。何れにせよこれからは索敵の技能持ちを増員していかないとマズいね。

被害が出る前に今まで以上に積極的に討伐して行かないと。

はあ、更に大変になるね。森との緩衝地帯を、防衛線を押し上げて発見するところからだから、魔獣の結界が有る森に分け入る機会も今以上に増えるだろうねぇ・・・間違いなく今までより怪我人増えるだろうねぇ」


治癒魔法師の確保が急務だな。

昨日の情報からだと逃げ出す事もある様だから、更に追跡の技能持ちも居た方が良いだろうな。



でも、治癒魔法師は何とかなりそうだし、追跡の技能については狩人で持っている人が結構いるから辺境を探せばそれなりに人材はいると思う。

因みに俺は持っていない、索敵とマップ機能頼よりですよ。


「何か有ったらよろしく頼むよ。基本クルトンは王命に沿って動くんだろうけど、騎士団が常駐していない地方や辺境も回るんだろう?

そういった所の魔獣討伐もついでにやっておいてくれないかな」


何か”ついで”とか言っちゃってるけど、単独での対処には限界がありますからね、出来る分だけですよ。


「構わない構わない。普通の騎士は魔獣相手に”出来る分だけ”とか言わないし。

本来犠牲無しで1頭討伐するなら安全を見て小隊で当たらないと無理だからね」


まあ、自覚はある。

でもこれに関しては自重なんかしないつもりだ。俺にとっては自分のスキルの秘密より人の命の方が断然上、比べるまでも無い。

それに討伐後はミスリルの原料が手に入るし。


その後も細々した世間話も併せて話し、「そう言えば」と緑色の大蛇の話をしてみる。


あの体長20m程の大蛇の革と肝、胆のうと眼球を持ってきた旨伝えると興味を持った様でぜひ見たいと言ってくる。


「じゃあデデリさんが来る前に見に行きましょうか」


「なら、先にクウネルと厩舎に言ってるよ」

フォネルさんはそう言い残して向こうに行ってしまう。

そして俺が修練場を出る時には建屋の屋根の上から現れたクウネルが、スクエアバイソン厩舎の方向へ向かい空を駆けて行った。



相変わらず美しいグリフォンだな。

ポポと比べてだがシュッとしていていかにも機動性が高そうだ。

実際速いし。



俺も乗ってみたいがどうもグリフォンとは相性が悪いみたいだ。

空を駆ける夢は夢で終わりそうで悲しくはあるが、こればっかりは相手(騎乗動物)有っての事である。


今後の巡り合わせに期待しよう。


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