第352話 風雲急を告げる

少し時間をかけてスクエアバイソンの厩舎に到着しました。

1人でゆっくり歩くのは何気に久しぶりで良い気分の俺、クルトンです。



丁度昨日の騎士さん達も戻ってきた様で、先に到着したフォネルさんと厩舎前にテーブルと椅子を置いて打ち合わせが始まっています。


天気良いからね、難しい話しでも幾分気持ちが和らぐ。


「おおい、クルトン。こっちこっち」

俺を見つけたフォネルさんか呼んでくる。


はいはい、今行きますよ。

テーブル側に着くと土魔法で地面を隆起させ俺の椅子を作る。


うん、この厩舎に俺の体重を支えられる椅子は2脚しか無くて、今見える所にはそれは無かったので即席で作った。




「じゃあ、報告を続けて。クルトンは脇で聞いてもらうだけでいいよ、何か気になった事あれば都度話を止めても良いから」

承知しました。



話しは昨日の朝、この厩舎から出発したところから始まって討伐までの一部始終が語られる。


出発後1時間程の所、街道から30mも離れていない草原にいきなり魔獣の気配を捉えたそうだ。


「本当にいきなり”ドン”って感じで索敵に引っかかったんですよ、いや正直焦りましたよ」

索敵持ちの騎士さんがその事を仲間に伝えると一気に臨戦態勢を取ってスクエアバイソンでとらえた敵影付近にダッシュする。


すると通常の魔獣の通り真っ赤な目で狂ったように襲い掛かって来たそうだ。



実はスクエアバイソンの足輪には重量を分散させる機能の他に防護の為の結界、簡易なものだが脛当ての様に脚を覆う付与魔法が展開している。


ヴェルキーに初めて会った時、複数体の大蜥蜴に足を噛まれジワジワなぶり殺しにされていた事も有ってウィークポイントの解消の意味でも付与した方が良いだろうと追加したものだ。



当初は防御の目的で付与した脛当ての結界付与魔法だったが、今回の魔獣との戦闘時では膝下付近の魔獣もろとも障害物を吹き飛ばしながら走り回る為のツールと化し、まるで暴走機関車の様なスクエアバイソンが誕生した模様。


今回は大きさがロバ程度とそれなりに大きくは有ったものの、ネズミ型だった為に攻撃、防御共に魔獣の中でも最下位に属する個体。


幾ら魔獣であっても最下位程度の力では付与魔法で武装し、暴走機関車と化したスクエアバイソンに攻めあぐね、何度か鋭くジャンプして首を狙われたりもしたらしいが、幾重にも重なるたてがみの様なスクエアバイソンの体毛に牙が通らず双方ともにジリ貧状態だったそうな。


そして、騎士さん達が本格的な討伐戦を始めようと櫓から降りて来ようとしたその隙をついて逃げ出したとの事。



「そこ、そこだよ。君たちが人だって事は魔獣も認識していたんだろう?なんで逃げたんだろう。今までの魔獣は幾ら劣勢になっても魔力が枯渇するまで襲い掛かって来てたのに」


今の話を聞いていると、俺は魔獣がいきなり現れた事の方が気になったけどな。

逃げる行動を選んだ魔獣は確かに気になるけど、見方を変えれば一般の獣と変わらないから。


地中に巣を作っているとか無いですよね?話しを聞いているとそこそこの体格でも魔獣ならあってもおかしくない様に感じる。


「本来魔獣は巣を作らず、定住せず、夜も休まず人を探し流離うんだけど・・・いや、先入観はこの場合判断を鈍らせるね。

一度現場に行って確認しようか」


「では明日にでも案内しましょう。インビジブルウルフ卿はどうなされますか?」

騎士さんが「なら早いに越したことはございませんな」とやる気で俺に訊ねてきた。



・・・行きましょう。

正直気は進まないのだけど、『巣』が有れば魔獣が1頭だけと決まったわけではない。


幾らネズミ型の魔獣でも5、6頭も出てきたら1個小隊で挑んでも全滅しかねない。

スクエアバイソンがいても同じだろう、群れになった魔獣の脅威は単純な足し算では測れないんだ。

今回は俺が行った方が良いと思う。




「あら、あたしに声はかからないの?」

うん、来るのは分かってた。さっきから索敵に引っかかっていたから。


「パメラ、今回は駄目だ。不確定要素が多すぎる、危険の度合いが図れないんだ。

それを確認する為の任務だからね、情報を持ち帰れなくても生還するのが成功条件、そんな任務だよ。

分かるだろう?」

フォネルさんが厳しくも優しく諭します。


「問題無いんじゃない?私も加護持ちよ、魔獣を倒せないまでも遅れは取らないわ」

でも自信満々に答えるパメラ嬢。


「自分の力を過信するんじゃない。

デデリ大隊長が君の学園への編入を許さない理由もそれだ、君は正論を言っているつもりだろうが正しく周りが見えていない。

自分ではなく周りの者を殺すんだよ、精霊の加護持ちの”その”振る舞いは」



なんか俺ここに居ない方が良いかな、重い話になってきた予感。

けどそうだな、パメラ嬢は何で学校に通っていないんだろう。

今更だが前世の常識からだと不思議に感じる、かなり優秀らしいのに。


お貴族様は専属の家庭教師を付けるから行かなくても良いみたいな?




「・・・いつも、いつもそんな話ばかり。

私が子供なのは自覚してるわ。でもリスクを取らなければ成長も無いでしょう」


「そんなに急ぐことは無いんだよ、何を焦っているんだい?」



ちょっと話が進まない。

脇に居る騎士さんも困り顔で俺の脇のポム、プルは既に熟睡体勢だ。

君たち良く寝れるね、ここに加護持ち二人もいるのに。



仕方ない。


「まあまあ落ち着いて。まずは事前に現地情報を確認しておきましょうか、それなら危険度に目安が付けれますから。

それからパリメーラ姫様を連れていくか判断しましょう、これでどうです?」



2人に声を掛けて俺の提案を行動に移す。


「何を言ってるんだい?」

失礼ではあるがフォネルさんからの言葉を無視して早速マップ、索敵を報告のあった場所に展開させる。


マップ機能もやっぱりチートだな、世界の海図まで内包するなんて情報量どんだけよ。



マップで視点を移動し、そこに索敵を展開。

野生動物ではありえない程の内包魔力を持つ生物、つまり魔獣を炙りだしマーキングする。


「クルトン、説明してくれないか」


はい、えーとですね、え?

「どうした?」


フォネルさんの声が遠くから聞こえてくる様だ、俺の意識がほぼ全てマップに留め置かれる。


・・・返答できずにすみません、事態はかなり深刻です。





デデリさんが戻って来たら即出発できるようにコルネン駐屯騎士団の精鋭を集めてください。

兵站も集められるだけ、俺の馬車も出します。





昨日騎士団さん達が魔獣を見つけた場所、その1haに満たない区画内に地下を示す無数のマーキングが浮かぶ。


その数53頭。


ネズミ型とは言え不意を突かれればコルネン程度の都市なら確実に壊滅できる魔獣の数だ。

動く気配は今のところ無いが都市に近すぎる、動き出してからでは間に合わない。



かなり不味い、このままでは魔獣との戦争が始まってしまう。


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