インビジブルウルフ(見えない狼)と呼ばれて~ゲームスキルはやっぱりチート~

俊足亀吉

第1話 プロローグ

(?こっちか)

風に乗って狼の鳴き声が聞こえる。

いつもなら急いで森を出るのだがその声に混じって赤ん坊であろう泣き声も聞こえた。


襲われている様な声ではなかったし空耳かもしれない。

が、無視する事はできなかった。

気づかれない様、慎重に歩を進める。


(・・・ん?)

断続的にではあったが聞こえていた赤ん坊の声が止んでいる。


(遅かったか!)

手遅れだろうか。

ならばこのまま静かに、狼に気づかれる前に森を出ればいい。

しかし、そういった思考は頭に浮かぶ事は無かった。

子供が産まれにくいこの世界、子殺しは重罪で相手が獣でも怒りが理性を上回る。

結婚し子供を望みながら10年弱、未だに父親になることができないこの男にとっては他人の子であっても『子』というだけで守るべき対象だ。


もう気配を消す事など頭からかき消え、声がしていた方へ走り出す。



さほど進まぬうちに唸り声が聞こえ、そちらに顔を向けると少々こんもりした土に空いた窪みの中から二つの瞳が光っていた。


(白い・・・)

少々汚れてはいるが、暗い窪みにいても分かる白狼がこちらを見ている。

腰のナイフに手を添えそのままの体勢でしばらく見つめ合う。


どの位経ったか。

お互い動く事もせずにいると間違いなく人の小さく赤ん坊の声がした。

窪みの中からだ。


まだ動かない・・・と思った矢先ゆっくりと白狼が立ち上がりくぼみから出てくると、入口の横に座り直す。

何もしてこないし不思議と向けられている視線に敵意が無い事が分かる。


油断せずチラチラと白狼を見やり窪みへと近づく。

そして白狼のすぐ脇からゆっくり覗き込むと・・・いた、二匹の子狼と一緒に寝息を立てている赤ん坊だ。

なにも着ていないが子狼と重なり合い寒くはなさそうだ。


眺めているとゆっくりと白狼は立ち上がりこの赤ん坊達に鼻を近づけ子狼も含め優しく舐める。

そうして小さく「グルゥ・・・」と鳴くとその鼻で赤ん坊をつついた。


こちらを見ては赤ん坊をつつくという動作を何回かするとようやくその意図に気づく。


「連れていけ・・・と?」

そう問えばまた小さく「グルゥ・・・」と鳴く。


話が通じているような様子に驚きつつも一旦肌着まで脱いでから服を着直すと、赤ん坊に手を伸ばし抱き上げその肌着に包む。


「守っていたのか?」

そう問いかけるも白狼は特に何も反応せず、そのまま窪みに潜り込むと子狼を抱いて目を閉じた。

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