第2話 これが転生か

俺、クルトン。

カリッとしてそうな名前。

2歳になったらしい。


おぼろげな自我が目覚めたと感じたら、あれよあれよと記憶が甦り・・・前世の記憶がね。


多分、今の俺の人格は甦った記憶にかなり影響されただろう。

思考はすっきりしているが体とは何かチグハグで違和感がある。


よく考えなくてもこれはおかしいので基本何も考えずに感情、体の赴くままに過ごしていこうと昨日決めた。

そう、昨日。




俺の記憶、前世は日本人の男性。

いたって普通の人生・・・とは言っても今いる世界から比べたら裕福で幸福な暮らしだったが、比較的若いうちに亡くなった様だ。

初めて受け取る年金の額を確認しにATMに向かっているのが最後の記憶だ。

孫を見れなかったのが唯一の心残り。


そんな俺がこの世界、日本からしたら異世界に転生した。

この世界はいわゆるファンタジー世界だろう。

その根拠として、この世界の人間は地球人と比べると遥かに頑強で長寿。

騎士と呼ばれる職業軍人さん?なんかはフルプレートメイルを装着して100mを8秒台で走り切る。

街道巡回中のフル装備の騎士団一行さんが休憩で村に寄った後、訓練と称して疾走している軍馬と並走して去って行ったのを母に抱かれて見た時にはビビったものだ。

訓練していない普通のおばさんでも10秒台、凄まじい。

寿命も120歳くらいで、90歳の見た目50代の爺さんが30kgはあるだろう大豆の袋を背負子に10袋積んで平気で運搬してる。


その理由は伝わっているお伽話にヒントがあるようで、子守唄のように聞かされたそのお伽話を俺なりに考察したんだけど・・・

大昔に大きな戦争が何回もあったらしい。

そして古代人と呼ばれる所謂普通の人間が戦争で減った人口を補い、兵士として運用する為に人型人工生命体を兵器として創造した。

なんやかんやあったがその古代人と人工生命体の混血人種が種族として定着し、その子孫が現在まで命を繋いできた・・・らしい。

それがこの世界の現在の人間、所謂『新人類』。

しかもこの人工生命体の身体能力はすさまじく、その片鱗が遺伝子として現在の人間まで引き継がれている様だ。

この身体能力が無ければ間違いなく戦争終了後、文明消失直後に人類は滅亡してただろう。


ちなみにこの人型人工生命体はお伽話の中では『精霊』と呼ばれ、古代人が召喚した事になっている。

つまりお伽話の理屈でいうと精霊と古代人の子孫が俺たちってワケ。


ただ、この人工生命体の生殖能力は極めて低かったそうな。

その為だろう、この世界の人間は子供が極端に生まれにくく、一生のうち3人以上の子を儲けた夫婦はそれだけで社会的ステータスを得る。

経済的、政治的にどうとかではないが、この夫婦に何かあると周りの人たちが自分達より最優先して助けてくれる。


なお、子殺しは重罪で罪人となった者は奴隷扱い、死ぬことも許されず働きつぶされる。

これは王族も例外ではなく、それはそれで正直怖い。


人口を維持、増加させる為の一種の呪いに近いこの価値観がこの世界の絶対的なものの一つとして浸透している。




この世界に転生したって事は、俺もそれなりの身体能力が備わっているんだろう。

前世では至って普通の俺がこの世界でも『普通』かもしれないけど、それでもワクワクする。

100mを9秒台で疾走するとか胸熱でしかない。


そんな前世ではあり得ないスピードで疾走する未来を妄想をしながら、2歳ではあるけれど体重が重いせいかまだ掴まり立ちしか出来ない俺は、今日もベッドの上で黙々と首ブリッヂで体を鍛えている。

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