第225話 終盤に差し掛かりました
王都到着から続く忙しさにヘキヘキしている俺、クルトンです。
何が嫌って、人との交渉事が面倒くさい。
素材に向かって黙々とクラフトしたりとか、空手の型の練習している方がよっぽど性に合っている。
人が嫌いって訳じゃなくて自分の考えを理解してもらう為の労力が面倒くさい。
いつもはそんな事考えないんだが如何せん忙しなかった。
馬車の納品の話になるが、マップ機能が王家にバレてしまっている為にスレイプニル捕獲が必須条件になってしまったのよ、しかも2頭。
馬車その物は先に納品して代金も頂戴するが、もう一回スレイプニルを連れて王都に来ないといけなくなった。
追加料金は頂けるが面倒くさい。
可能であればとの事だったが、この時にフンボルト将軍のスクエアバイソンと陛下のグリフォンも一緒に連れてきてほしいとも言われている。
ちょっとした移動動物園みたいな感じなりそうだよ。
面倒くさい。
チェルナー姫様からの鏡台は拵えたら送るだけで良いとの事だったので助かった。
俺個人の願望としてやりたいことは別に有るが仕事をおろそかには出来ない。
諦めて熟していこう。
馬車の納品の際には姫様の希望もあって現物を使っての試乗説明会を行う。
向こうさんのスケジュール調整が有るから此方は少し時間が有る。
なので今は腕輪の件に全力を注いでいる。
王都にほど近い土地で、川も近いし麦、ジャガイモ畑もある。
樹木も適度に茂っていて現代日本で言う所の『普通の田舎』って感じの場所にハウジングを展開。
予め準備、運び込んでもらった木材を使用して家屋を建設、基礎は土魔法で済ませた。
庭と外を仕切る腰までの高さの柵も作ると内装、家具などもいっぺんに拵える。
今回も検証用の模型を事前に準備して確認済みなのでバッチリ問題なく完了した。
気温や湿度、魔素の量や日光の強さも制御していつでも加護持ちの方たちを迎える事が出来る様に環境を整える。
ハウジングは完全に外界から隔離された空間になるので魔獣が襲来して来ても全く問題ないから防犯面で気にしなくて良いのは楽だ。
この機能のお陰で移動時の野営は夜番をしなくて良いから地味に有難い。
ハウジングは解除するまで状態が固定されるので俺が側に居なくても問題はないが検証だから邪魔にならない程度の場所でスタンバっている予定。
一般生活に馴染むための訓練の意味合いもあるから極力俺は手を貸さないつもりではあるけれども。
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細々した事をこなしていき、4日目になると馬車の試乗会の日が決まったと連絡が来た。
ほゞ準備は済んでいるがムーシカ達のブラッシングと問題を抱えていないか馬躰のチェック含めた確認、道中の飲み物、つまみを用意して試乗当日を迎える。
基本俺の馬車と同じ仕様なので前回の試乗と特に変わることは無いが、初めて乗った陛下とパストフ王子、コヌバリンカ妃殿下はかなり感動してくれた様で同じ馬車を追加発注する旨の話が出たが取り合えず思いとどまってもらう。
他にもやる事あるから、俺。
手が回らないし、他の馬車職人に睨まれたくない。
何よりもスレイプニルの捕獲が面倒くさい。
申し訳ないが腕輪の件を最優先にしなければならないので、手を付けれる時期になったらお知らせするという事で落ち着いた。
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今回の腕輪の件、検証作業については出来るだけ多くの協力者をお願いしたところ、チェルナー姫様と先の2名の他に8名が名乗り出てくれたそうだ。
参加人数を知らされたスケジュールがカツカツだったのでウリアムさんの工房を急遽間借りして特急で腕輪を拵えた。
量産試作2ロット目で現状最新の合金を使用し、先に検証してもらっている2個の腕輪のデータも解析、反映している。
・・・実際は母材となる銅の手持ちが足りずに慌てて手配、精錬して何とか間に合わせた。
いや、思ったより協力者がいたもんだから油断していたよ。
しかし最年少は4歳の男の子で最年長は92歳のお婆さん。
この世界の人類は地球人と比べると長命で、事故や病気にでもならなければ120歳くらいまでは普通に生きる。
ただし加護持ちの寿命は一般に90歳くらいで長くても100歳程度。
その事を踏まえると今回の人選は大変ありがたい。
幅広い年齢層からの検証データはさらに腕輪の完成度を加速させる事だろう。
この事業の立ち上げで俺が携わる仕事も終盤になって来た。
最後の最後で足下を救われない様に、加護持ちの方達の協力を無駄にしない為にも油断無く事を進めよう。
多分、将来も含めて俺の仕事の最大の功績になるだろうから。
正直今から誇らしい。
そう、きっとこれは歴史に残る事業になる。
緩やかではあっても間違いなく人類の出生率を上げる為の直接的な対策になるはずなのだ。
後の歴史家に変な事を書かれて子孫たちに迷惑をかけたくないってのもあるが、もう一度気合いを入れて仕事に向かおう。
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準備が整い俺の馬車と騎士団の馬車で検証会場に向かっている。
今回は特別に近衛騎士団も護衛で帯同している。
つまりレイニーさんもいる。
向かう前に今回協力頂く加護持ちの方には予め腕輪を配り取扱い方法と今回の実験、検証の趣旨を改めて説明した。
つまり移動の際には既に腕輪の効果の恩恵を受けた状態であって・・・
「クルトンしゃん!あれ何?あの白くて耳が長いの」
御者の俺の横には今回の協力者、加護持ち最年少男子のパジェが座っている。
物心着いてからほゞ初めての外界にさっきからはしゃぎっぱなしのパジェはさっきから間を置かず俺に「あれは何?」と聞いてくる。
子供が出来たらこんな感じなんだろうなと、想像を膨らませながら指さす方を見ると俺の膝丈位の藪に紛れて兎がいた。
1匹。
良く見つけたな・・・、けどこの季節にこの場所で白い兎はなんか違和感あるな。
藪の丈を少し超えた体高からココからでも中型犬位大きさが有る事が分かる。
どれどれ、ちょっと狩ってみよう。
お昼ご飯の材料は持ってきているが、おかずも増える事だし無駄な殺生にはならない。
馬車の制御は完全にムーシカに任せ、俺は手綱から手を放し座席後ろの隙間に置いていた弓を手に取った。
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