第12話 【回想】家族の思い2
泣いてしまったのは最初にこの子に会った時の1回だけ。
それからの日々は泣いてる暇さえなかったわ。
とにかく食欲旺盛なクルトンは家の山羊のミルクでは足りなくて、村のみんなにお願いしてミルクを分けてもらったの。
ふふっ、お陰で冬の為のチーズが暫く作れなかったのよ。
私はおっぱい出ないから、小さな子供がいるお母さん達にも協力してもらった。
歩き出すのも話し始めるのも遅かったけどその分ハイハイの期間は長かった。
しかもネズミかと思う程すばしっこく動くの、ハイハイで。
そんな大きな家でもないのに何度も見失って慌てて探したわ。
そしてクルトンを見つけると私を見ていつもニッコリ笑うのよ。
そんな顔を見たら、とても叱れなかったわ。
3歳の時、弟のクレスが生まれたの。
ああ、ヘラクレスって名前にしたの。
なんでも大昔の英雄の名前なんだって。
あまりに強くて神様から嫉妬されちゃって空の星座にされてしまった大英雄らしいわ。
クルトンがつけてくれたのよ、なんでそんなお話し知ってるのかは不思議だったけど素敵な名前を有難う。
12歳での初めての狩り。
帰ってきて夫のレビンが私にこう言ったの。
「クルトンは来訪者の血を引いてるかもしれない」
ドキリとした。
来訪者の一団は大昔の暗黒の時代をもたらした大災害の直後、突如現れ何もかも失った私たちの祖先に文明の種をもたらした。
神の使いとも言われた彼らは凡そ100年の間様々な技術、文化を世界に広め、そして我々に自由に生きろと伝えて忽然と消えたの。
現れた時と同じ様に。
その一団はこの世界の理を無視した技を使い、当時捕食者側だった魔物の数を減らして、それへの対処法も人類に伝えてくれた。
クルトンが使った弓の技は世の理を超えたものの様だったって。
極々稀にこの様な子が生まれる時があるって。
獲物を追いかける矢なんてお伽話でも聞いたことが無かった。
しかも山鳩をしとめた時は1羽目を矢が貫いて2羽目に向かっていったって。
とても信じられなかった。
でも信じるしかなかった。
魔法を教えてほしいと言ってきた時の事よ。
初めて魔法を使った時は本当にがっかりしてたわ。
確かにクルトンの思い描いていた魔法ではなかった様だったけど、
炎を、青白い炎を同時にあんな数・・・20個は越えていたわ、そんな数をいっぺんに出せる魔法使いなんて聞いたことがない。
王都のアークメイジでも不可能じゃないかしら。
この大陸に30人もいないはずよ、アークメイジの称号を持つ魔法使いって。
だから『来訪者の末裔』って思ったのかもしれない。
18歳になり妹たちの結婚資金を稼ぐためにと交易都市コルネンに出稼ぎに出る日。
クルトンを見送っていた時に流した二度目の涙の理由は、
あの子が『来訪者』みたいに突然いなくなる事を心配したからかしら。
大丈夫よ、2年後には必ず帰ってくるって約束したもの。
待ってるわ、優しいクルトン。
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