第56話 帰還早々の・・・

ようやくコルネンに到着しました。

感無量の俺、クルトンです。


予想していた事とはいえ、スレイプニル3頭はやはり刺激が強かったらしく、関所から俺たちが見えた時点で騎士団の訓練施設に併設している兵舎に行った様です。


なんで分かるかって?

デデリさんが土煙あげて爆走してくるのが見えるからです。


そのままスレイプニルの牡馬に近づくと牡馬の体当たりで吹っ飛ばされました。

が、倒れる事なく"ザザー"っと後方に滑る様に移動して踏ん張った後にまた近づいてきます。


そして牡馬とデデリさん、どちらも緊張した面持ちでジリジリ間合いを詰めていきます。



「いい加減にしてください」

追いついた副隊長のフォネルさんがデデリさんに足払いをかけてすっ転ばしました。


「・・・いいじゃないか、スレイプニルだぞ」

首はね起きで立ち上がったデデリさんがそう言う。


「分からんでもないですが、まずはクルトンに許可を取ってからでしょう」

隊長じゃなければ大怪我してましたよ、とフォネルさん。


ですよねー。


デデリさんは過去に何度もスレイプニルの捕獲作戦を行ったのだがどうしても見つけられなかったそうだ。

スレイプニルが危険を察知した様で全く姿を見せなかったらしい。


そりゃ見つからなければ捕獲もできんわな。


魔獣とは遭遇するが、ついぞ拝むことは叶わず諦めていたところにやってきたスレイプニル。

しかも3頭。


スレイプニルの情報は俺の到着より随分前に届いて、何日も前からずっとソワソワしていて集中できずに修練場のカカシを何体もダメにしてしまったらしい。


・・・なんかすみません、鉱山寄ってたもんで。


「それで触っても構わんか、構わんか?」

なんか子供みたいですね、ちょっと待ってください。


関所の道半分を塞いでいる状態なのでもう少し端に寄せて牡馬に声を掛けます。

大丈夫そうなのでデデリさんにOK出すとすぐ飛んできた。


「おお、おおおお・・・」

泣いている、牡馬の首を抱いてデデリさんが泣いている。

それほどの事なのか?

いや、確かにスレイプニルは珍しいしこの牡馬は特に馬体が立派だけれども。


「式典では大隊長も馬に乗りますが、それだけなのです」

なんでもデデリさんが乗れる馬に限りがあり、その上長時間の乗馬は馬が参ってしまうために諦めているとか。

体重の問題もあるけど『精霊の加護』の持ち主の存在は家畜には結構なストレスの様で神経の図太いロバでもデデリさんの近くに長時間いるのは駄目なんだとか。

もうね禿げるらしいよ、体毛が。

家畜可哀そう。


「大隊長は馬に限らず動物大好きなのですが、そう言った事でなかなか触れ合えないのです」

動物好きな人に悪い人は少ないよね、俺そう思う。


「もう一頭探してきましょうか?」

と、油断していた俺の口からそうこぼれてしまった。


気付いた時にはデデリさんに両肩をつかまれ

「二言は無いな?」

と睨まれる俺。


・・・デデリさんのスレイプニルではないですよ?需要が有りそうなのでどうかなと思っただけで。


途端にシュンとなるデデリさん。

10歳位老けた感じになりました。


意地悪したいわけではなくて、意図せず言質を取られそうになったのでとっさにそう言ってしまったのだけど、さすがに可哀そうになった。


フォネルさんもちょっと困った顔です。

悪い人ではない・・・ってか団員には信頼されている立派な上司だそうです、デデリさん。


何気に侯爵だってのもさっき聞いたし、それだと馬車用ではなく自分専用の馬一頭も無いと格好もつかないか。

そんな事気にするような人ではないだろうけど動物好きだって言ってるしな。


なんとか探してみるか・・・。



アイザック叔父さん達へ戻ってきた旨伝えて翌朝に慌ただしくまた出発しました。

一応パンをいっぱい焼いてもらいバッグに詰める。

お金はちゃんと払います。


と、いう事でコルネンからスレイプニルで2日程、やってまいりました石山。

ここはポンデ石切り場と言う所で、切り出した石材をすぐ側を流れている川を利用しコルネンと王都の中間付近の石置き場に石材を運んでいます。

各都市内やその付近の街道はここから切り出した石材を使用して石畳を敷いています。


巨大な岩の山であるここポンデ石切り場ですが、その山のさらに奥にはドラゴンが生息している言い伝えが有るそうな。

実際いるかは確認されていないが何故かその付近の野生動物は巨大になる傾向が有る。

話を聞くとネズミでも小型犬位、鹿に至っては地球のアフリカ象位あるみたいです。


ここならそこそこの動物でもデデリさんの巨体に耐えられる騎乗動物捕獲できるのではないかと思って。


事前にスレイプニルの馬具には3頭共に気配遮断の魔法陣を刻みました、その効果で出来るだけ他の動物に気づかれない様に移動します。




森の中で3日が過ぎました。

持ってきたパンとハムをモッシャモッシャ食べて食事を済ませます。

火は使いません、出来るだけ野生動物に気づかれないようにするため。


ネズミ、兎、狼は何度か見ました。

しかしどれもデデリさんの騎乗動物にはならない大きさ。

狼なんかはもっと大きくても良いように思いましたが馬よりちょっと小さい程度。


今も20M位でしょうか、向こうに鹿がいます。

親子連れで成体の方はなかなかの大きさで角含めないでも体高3M位ありそうですが角が邪魔でその背には乗れそうにありません。

ちょと残念、見栄えはとてもいいのですけど。


狩りの為に山に入ったわけではないのでここはじっとして鹿が去るのを待ちます。



ん?上から何か大きな気配が近づいてきます。

少しするとスレイプニルも気が付いた様で縮こまって伏せの体勢になりました。

・・・という事は大型の肉食の鳥でも来たのかもしれません、念のため認識阻害をスレイプニルを覆うように俺の周り一帯に広げます。


そしてその正体が空から現れました。

そいつは鹿に向かい急降下するでもなく、その前にゆっくり舞い降りました。


グリフォンです。

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