第57話 王たる印

これまた興奮が抑えきれません。

鼻息の荒い俺、クルトンです。


そいつは空の王者でも気取るかのようにゆっくりと舞い降りてきた。

鹿よりも一回り大きい体躯で、翼も含めればさらに巨大に見えます。


蛇に睨まれたカエルと言う表現がぴったりな様に2匹の鹿はピクリとも動きません。

何かのスキルだろうか?だったら厄介だが千載一遇のチャンス、これを逃す俺ではない。


認識阻害そのままにグリフォンに歩いて行きその真正面に立ちます。

そして認識阻害を解除。


今まさに鹿に襲い掛かろうとしていたグリフォンの目が見開かれ、羽をひと仰ぎすると”ブワッ”という風が巻き起こると共に宙に浮かび上がります。

それに合わせて鹿も逃げ出しました。


この世界の肉食の野生動物は他の動物を同格としてみる事はありません。

自分が格上ならば相手は餌、格下ならば自分が餌。

つまり俺が格上という事を知らしめないといけないという事。


完全に飛び上がってしまう前にグリフォンの脚をつかみ地面に引きずり倒します。

見た目は”ビターン”って感じになってるはず。


激しく翼を動かし嘴を俺に向けてきますが、脚を持ったままもう一度腕を振り地面にたたきつけます。


これを何回か繰り返すと動かなくなりました、ピクピクはしてるので気絶してる様。

しかし翼は折れてしまっている。


今のうちに逃げられない様に革で編んだ俺謹製のベルトを俺の腕とグリフォンの脚につなげます。


そして治癒魔法で折れた翼を羽を含め治療する。

ちゃんと治る様にしっかり時間をかけて。


1時間程経っただろうか、グリフォンが目覚め、また暴れ出した。


そしてビターンビターン、気絶、治療、休憩→ビターンビターン、気絶、治療、休憩

・・・のサイクルを繰り返す。


丸1日間、睡眠もとらずにそれを繰り返しグリフォンも治療後目を覚ますと「グエッ」みたいな声を出すようになった。

悪い夢でも見たんだと思ったら現実だった・・・って感覚なんだろう。


でも、君たちの流儀にこっちが合わせてやっているんだから恨みっこはなしだ。

死なないだけでも幸せと思ってほしい。


そしてようやく俺に伏せの体勢をとるようになった。

ティム(物理)成功!


ここで最後の仕上げ、革のベルトを外す。

案の定、すぐに宙に浮かび上がり逃げの体勢になるグリフォン。

しかしスキルの威圧をくらわすと空中でバランスを崩して失速。

すかさずグリフォンの目の前までジャンプ、右拳を脳天から地面に向かって振りぬくと『ドゴン』と言う音と共に地面に叩きつけられた。


また気絶したので治療、目を覚ますのを待った。

次に目を覚ますと、もうそれで観念したのか大人しく俺の後をついてくるようになった。




グリフォンは狩りの最中だったこともあり腹がすいている様で索敵で近場にいる兎を4羽仕留め与えてやる。

まだ足りなさそうだったので移動中索敵に引っかかったものを仕留め随時与えていき石切り場まで戻ってきた。


「「「「「・・・・」」」」」

静かですね。大丈夫です、すぐコルネンへ帰りますので皆さんどうぞいつも通りで。


「「「「「お、おう」」」」」

お騒がせして申し訳ございません。


直ぐに石切り場を通過、俺はスレイプニルに乗馬、グリフォンはその後をゆったり飛んでついています。

狩りをしながら往路と同じく2日間でコルネンへ到着しました。





コルネン関所が見えてきましたが、当然このまま進むと大事となるでしょう。

スレイプニルから降りて王都の時と同じように遠くから声を掛けます。

「クルトンでーーーーす、デデリさん呼んできて下さーーーーい」


関所からの伝令が街の中に走って行きます。



そうしますとさほど待たないうちにデデリさんが爆走してきました。

俺の15Mくらい前で止まると呆然としています。


らしくないなと思いながら今度は俺の方からデデリさんに近づいていくと

「「おお、おおお」」

と声を発するデデリさん・・・と、やっと追いついてきたフォネル副隊長も。



スレイプニルを見つけることはできませんでしたが十分代わりになると思います、グリフォン。

どうです?


「おおおお」

ゆっくりグリフォンに近づき首やら羽やらを撫でるデデリさん。

滂沱の涙を流しています。



さっきから「おおおお」しか言いません、壊れたのかな。


「クルトン、ちょっとこれは、どうよ。ホントどうよ」

フォネルさん。

とても珍しいのは分かりますし、注目を浴びるのも承知していますがデデリさんクラスの猛者になら問題無いのでは。


「いや、国王陛下の紋章だよ、グリフォンって」

・・・そういやそうでしたね、失念してました。

まずいですか?


「まずいというか・・・陛下に献上しないといけないんじゃないかな、グリフォン」

えー、せっかく捕獲したのに。

まだ気づいてないけど、それ聞いたらデデリさんガッカリしますよう。


「献上の後にどうにか大隊長に下賜して頂くしかないが・・・グリフォンだからなぁ」


どうなるにしても乗りこなせるとしたら加護持ちのデデリさんくらいだと思うんですよ。

俺が乗ろうとしたらなんかビビッてしまってちゃんと飛ばないんですよコイツ。


あ、鞍もついてないのにデデリさんがグリフォンの背に跨った。

って飛んで行った。

スゲー俺と全然違う、自由自在じゃないか。

精霊の加護持ちってハンパねえな。


「いや、グリフォンがビビるお前の方が・・・って魔獣単独討伐してたんだっけか、そうなるか」



そうして暫くの間

グリフォンに乗って空を自在に舞う、それはそれは楽しそうで・・・

その最中ずっと泣いているデデリさんを眺めていた。

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