第232話 交わる流れ

早々に湯船から出ると王城内へ逆戻り。

役所の窓口業務を代行している部署に連れていかれている俺、クルトンです。


贅沢品には税金が掛かる、まあ理解はできる。

でもどの位払わないといけないのだろう。

場合によっては事業化しないと税金払えないとかなるかもしれない。


「多分そこまでではないわよ、心配しないで」


正直なところ多少税金が高くても埋め戻すつもりは無い。

温泉好きだし、作業員の皆さんも気に入ってくれてたし。




「はい、湯船の大きさは・・・はい、大人8人用に該当しますね。

じゃあ、年間金貨8枚(約16万円)です、今ここで支払います?今月中ならいつでもいいですけど」

窓口のお姉さんがそう告げてきます。


バッグを漁り大金貨を1枚渡し、納税証明書とお釣りを受け取る。

納税証明には支払った今日の日付と『1年間有効』のスタンプが押してある。


「コレは1年間無くさないようにしてくださいね、無くしてしまっても再発行できませんから」


そう聞いてバッグの内側ポケットに大事にしまう。




「今度から何かする時には広報部の誰にでもいいから問題無いか事前に聞きなさい、いちいち面倒な事に成るんだから」

はい、今回は大変お手数おかけしました。



「まあ、貴方の事だから仕方ないとは思うけれども。

しかし、温泉を掘るだなんて、そんなに簡単にできる物なのね」


ハウジングの機能を使えばですけどね。

領域を狭く、深く調整すれば。


本来ならかなり大掛かりな掘削設備が必要で、温泉掘り当てるのも運任せですから博打の様なもんなんですよ。



「王家の後宮にも有った方が良いでしょうねぇ。

私も聞いた事しかないけど『湯治』とか体に良いのでしょう?協力してもらえないかしら」


『王家の後宮』、ここでの意味は陛下の奥さんたちが生活しているテリトリーの事だけではなくて、来訪者の加護持ちを含めた国家、王家が養っている人たちの生活空間全般の事。


多分だけど一般市民と比べて後宮に居る彼ら、彼女らにとって入浴はさほど珍しい事ではないのだろうが、温かいお湯以上の様々な効能を持った温泉はまた格別だろう。


開拓村での温泉はその匂いから硫黄泉なのはすぐ分かったが、ここのは特に香りはしなかった。

どんな効能なんだろう、今更ながら気になる。


・・・でも効能が強すぎてもな。




「掘るのは構いませんけど騎士の職務外だと思うので対価を頂きたいです!」


「もっともな事ね、報酬の件は問題無いと思います。

一度陛下と検討してからになりますけど、良い返事を期待してもらって構いませんよ」


おお!本当に期待しちゃいますよ。


「貴方以外が行えば、空振りする事も視野に入れて予算を組まねばならなかったでしょうからね。

余計な負担を掛けずに行えるなんて逆に有難いわ」



一度場所の調査を行ってからになるので、どこに湯船を置いた方が良いかも教えてください。

其処を中心に源泉確認する必要あると思うので。

下手するとその確認作業の方が時間かかります。


それに俺の場合、どっちかと言うと掘る作業そのものよりその周りの施設を整える方が大変ですから。




「今から楽しみだわ!」

年甲斐も無くソフィー様が浮かれておられる。



その後、保養施設から戻って来たムーシカ達に会いに行き一頻りスキンシップを取ると再び王城の部屋で解析、腕輪の改良作業に取り掛かる。


今回の検証は老若男女様々な人たちのログを採取する事が出来た事で、今まで表面化していなかった致命的ではないにしろ細かい不備が結構見つかった。


そこから各々の状態に合わせた調整は必須になりそうだ。

特に妊婦さんには通常版と併せて専用腕輪を追加で装着してもらった方が良いかもしれない。


術式も出来るだけシンプルにまとめたいが、付与その物の効力を大きくするよりも、複雑に連携し合う各々の術式を正確に動作させる為の制御術式の改良に注力した方が完成度が上がりそうだ。


よし、もうちょっと頑張ろう。



”コンコン、コンコン”


「ハイどうぞ~」


扉がノックされ返事をするとアスキアさんとパジェが入って来た。


「お忙しいところすみません。

少々気になる事が有ったものですから、ちょっと話を聞いてもらいたくて」


はい、なんでしょう。

ようやく術式の改善方法に目途がついて設計図も仕上がったところ。


休憩しましょうか、お茶でも入れましょう。



テーブルに促し椅子に座ってもらうとティーポットに茶葉を入れ、俺の魔法で直接お湯を注ぐ。


「相変わらず見事な魔法ですね」

パジェも「おおう、おおう!」と目を見張り声を上げている。


指から流れ出るお湯が珍しい様だ。



カップにお湯を注ぎ、パジェにはハチミツを垂らして甘さを追加。

はい、どうぞ。


「有難う御座います」

「いただきます!!」


熱いから気を付けてな、それで気になる事とは?


「実はですね・・・」

「クルトンしゃんにも教えてあげるね!パジェね、空を飛べるんだよ」


アスキアさんの話にパジェが被せてくる。



「はは、そうなんだね。

で、パジェはこう言ってるんですが・・・」

アスキアさんがパジェの頭を優しくなでながら事情を説明してくれる。


最初はパジェの思い込みかと生暖かく見守っていたそうだが、大まかではあるがアスキアさんがその日に立ち寄った場所を、知らないはずのパジェが指摘してきた事で「何かおかしい」と調べたそうだ。



腕輪の検証作業が終了してから数日でこの様な事を言いだしたそうだが、色々調べてもどうも要領を得ないので俺に相談しに来たと。


なぜに俺?


「いや、なんとなくですけども。

なんとかなりそうな気がしてですね、それでどうでしょうか?」


まあ、聞いてみましょうか。

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