第231話 心への負荷

ようやく腕輪の解析作業に取り掛かる事が出来て貫徹3日目の俺、クルトンです。



本当にこの身体は丈夫だ。

前にも思ったが俺がプレイしていたMMORPGの仕様でもある「昼夜構わず休憩なしで活動できる」状態がこの現実世界で再現されている様だ。


こんな時は大変ありがたい。

周りに心配されるけど。



お陰で吸い取ったログの中身は大体確認できた。

お産の最中、どうやら麻酔の付与術式は動作しようとはしていたらしい。

麻酔の効果を発揮させるために何度も起動を掛けていたが最初の起動の為に必要な魔力が確保できなかったみたいだ。


最初の起動の為の一発だけ、その一瞬だけ魔法陣に流す魔力が通常動作時の量の3倍程度必要なのだが、あの時点で腕輪に付与した幾つもの魔法陣が重複して起動していたもんだから必要な量を確保できなかった。


動いているにも拘らず、動作状態を監視する魔法陣が認識できない位高速でON/OFF作動していた魔法陣を未動作と誤認識して、その魔法陣へ追加でガンガン魔力を流していたってのもあったし・・・つまり無駄に消費されていた魔力もあったりして。


最初はレシプロエンジンのチョーク機能に似た付与を追加する必要があると思ったが、動作検出のタイミングを増やし誤動作を減らし最適化、起動の為のエネルギーである魔力を瞬間的に一定量確保できるようにして、もっと余裕を持った術式形態にリスタイルしなければならないだろう。


姫様の腕時計の様にオリハルコンを使い、平時に予め十分な魔力を充填させていれば露呈しなかった内容ではあるが、量産を視野に入れたこの腕輪では無理な話し。



細かなバグに似たこの問題も見つからないままだっただろうし、不幸中の幸いとして今回の成果の一つと前向きに考えよう。



昼になり、部屋から出る。

食事とトイレ以外はずっと解析作業だったから立ち上がるのも毎回久しぶりに感じる。


そう言えば風呂に入りたいな。

庭園のどこかを間借りしてハウジング使わせてもらえれば何とでもなるから頼んでみよう。

いや・・・誰に頼めば、許可貰えばいいんだ?


「ちょっとだけ庭貸して」なんて、そんな事想定していないだろうから当然窓口なんてある訳ないよな。




王都外の原っぱにでも行って、そこでハウジングを展開するか。

馬車じゃなく久々にムーシカ達にも跨ってみたいしな。


じゃあ、まずは厩舎に行こう。






あれ?居ない。


「おや、クルトンさん。久方ぶりに見た気がしますね。どうしました?」

厩務員のおっちゃんが俺に気付き声を掛けてくる。


こんにちは、ムーシカとミーシカはどこに行ったんでしょう?



「ああ、彼らなら今日は保養施設に連れて行きましたよ。だいぶ頑張ってくれてたんでしょう?体中の筋肉が強張っていましたから」


マジですか!

そんなに辛い事させたつもりは無かったんですけど・・・。

なんか悪い事したなぁ。


「はは、体の疲労って言うより気疲れなんじゃないですかね。ストレス溜るとあんな強張り方するんですよ、普通の馬だと」


ストレス・・・ですか。

優しくしてたつもりなんですけどねぇ。


「なら、クルトンさん自身に何か辛い事有ったんじゃないですか?

馬はデリケートですから繋がりが強い程、主人が受けたのと同じストレス感じるって言いますよ」


そうなんですね。

そうか・・・そうなのか、うん、有ったかもな。

辛いというか強い憤りに心を乱された事が。



「心当たりありますか(笑)

でもそんなに深刻になる事ありませんよ、主人が元気になればあいつらも一緒に元気になりますから」


そんなに心配する事無いって事でしょうか。

ベテラン厩務員さんが言ってるなら大丈夫なんだろう。




ところで保養施設って何するところなんですか?

「簡単に言ってしまえば入浴。風呂ですな、人が入っても丁度良い温度ですよ」


なんて羨ましい!!

こうしちゃおれん、俺も風呂入りに行こう。



やって来ました俺の厩舎建設予定地。

測量が終わって段々工事も着工しているところ。


王都内で俺が自由にできる土地が有った事すっかり忘れていた。

またまた俺、うっかりさん。



工事の邪魔にならない場所を選定、将来の拡張時にも影響でない様に・・・この辺かな。

ハウジング展開、制限はあるが取りあえず地中深く、可能な限り楽が出来る様に領域を下へ下へ向けていく。


この辺かな?では「ほい!」


”ドゥン!”


直径30cm程の穴が地を穿ち、合わせてパイプ状に穴の内壁を強固に補強する。

うん、良いんじゃない。


なんか・・・来たよ、来たよ、ほら!!


”ドゥシュワーーーー”

熱っ!熱っっっ!



5m程の高さまで間欠泉の様に吹き上がる熱湯。

ハウジングのお陰で今回は簡単に掘れたよ、温泉。


やっと温泉に入れる、早速湯船と囲い作らないと。

今からワクワクが止まらない。



「そう言えば貴方の実家にも温泉掘ったって報告有ったわね」


工事をしている作業員の方達にも声を掛け、広く拵えた湯船に一緒につかって談笑していたらソフィー様がいらっしゃった。


ちょっと、ちょっと、ここ男湯ですよ。

女湯作ってないけど。


「・・・あら、それはごめんなさい。

でも予め連絡が欲しいのよ、一応ここは貴方の土地だけど国の事業、騎乗動物の繁殖場の役割も担う場所なのだから」


井戸で使う地下水脈には影響でない位まで深く掘ってますから大丈夫ですよ。


「そういう話じゃないわ、ここ王都でも『入浴』が贅沢な事だってのは知ってるでしょう?

ああ、まどろっこしいわね、単刀直入に言うと王都内での入浴施設には税金が掛かるのよ」


なんと!

申し訳ございません、知りませんでした。

どうしたら良いでしょうかね、簡易にではありますがもう建屋も作ってしまったんですけど。



「とりあえず手続きが必要だから早く風呂から上がって付いてきなさい、さっさと行くわよ!」

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