第233話 天上の瞳
事情聴取を行っている俺、クルトンです。
星はパジェ、4歳の加護持ちの男の子。
ヘイ、ヘ~イ、ヘ~~イ、いい加減ゲロって楽になっちまえよ。
故郷のおふくろさんも泣いてるゼ。
「何言ってるんですか?」
「おかあしゃん・・・(グスッ)」
あ、ヤベッ。
パジェがグズりだした。
「ううううっ(グスッ)」
「大丈夫だよ、明日お母さんに今日の事を伝えようね」
アスキアさんがパジェをあやす。
後宮に母親も一緒にいるんですか?
「(あやしているんですから今は親御さんの話はしないでください!)」
本当にマジすみません。
子供を泣かせてしまった事に自己嫌悪、悪ふざけが過ぎた。
ここ最近で一番の反省。
ここでパジェの今までの経緯を聞く。
王都から馬車で3週間ほど離れた辺境の村の出身で、来訪者の加護持ちであることが発覚してから家族で王都に引っ越してきたそうだ。
王都にたどり着くまでの道中は騎士団の厳重な護衛が有ったとはいえ、乳幼児を抱えての長旅。
しかもその乳幼児は脆弱な『来訪者の加護持ち』だったので、それはそれは大変だったらしい。
そして到着後、体調管理や警護の関係で後宮に入れるのは基本加護持ちだけなので、現在は親御さんはパジェとは別で王都内で郵便配達の仕事をして生活しているらしい。
仕事のついででほゞ毎日パジェ当てに書いた手紙を自分達で王城に配達してきているそうだ。
パジェはお付きの侍女さんに毎日手紙を読んでもらうのが日課だそうな。
だからさっきアスキアさんがパジェに話しかけていた「お母さんに今日の事を伝えようね」と言うのは、少ない時間ではあるが手紙の配達に来た親御さんと面会するという事らしい。
寂しくはある様だが、離ればなれではあっても今のところ大きな問題は無いみたい。
俺の腕輪が有れば今後は一緒に暮らす事も出来るだろうから・・・、マジで頑張ろう。
それでパジェへの聞き取りの結果なんだが・・・
「多分だけど技能に目覚めてるんじゃないですか。『俯瞰視点』、ペットなんかとの『視点交換』、野鳥への『憑依』とかそんな感じのヤツ。
該当するような技能に心当たり有りません?」
リアルタイムでアスキアさんの行動を見ている感じもあるから、俺のマップ機能とは違うみたいだし。
自分のスキルについては幼少の頃から検証を繰り返して詳細を把握しているが、この世界の技能の種類、内容については正直あまり興味が無かったので必要が有るときに都度調べるくらいだったからイマイチ良く分かってない。
強力であればあるほど一般には秘匿される事が多いみたいだし。
「私もあまり詳しくないんですよね。
けどやっぱりそんな感じでしょうか、加護持ちで技能持ちとなると大事になる事間違いないでしょうから、これからの動きは慎重にならないと危険ですね。
今は腕輪も常時装着している事ですし誘拐でもされたら・・・ああ、恐ろしい」
明日両親に合えるとなって、それに気を取られていたパジェには「誘拐」の言葉は聞こえなかった様だ、ホッとした。
「(私もうっかりしてました、すみません)」
いやいや、聞こえていなかったみたいですから。
「とりあえずこの件は極秘扱いです、ソフィー様へ報告してきましょう」
今から行くんでしょう?
俺が護衛しましょう、王城内とは言え油断はできませんからね。
「・・・どこまでご存じで?」
いえ、何も。
ただ想像しただけです。王城内とは言えこれだけ人が居るのですから間者が紛れ込んでいてもおかしくないでしょう?
必要なら証拠を押さえてきましょうか?
「こちらの都合でお願いする事が有るかもしれませんが、それまでは泳がせておいてください」
はい、では俺は知らなかった事にしましょう。
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ツカツカツカ・・・。
ソフィー様の執務室に向かっている間、パジェと手を繋いでお話している。
身長の都合で俺はずっと中腰だ。
それでお空の散歩は楽しかった?
「うん!それでね、いっぱいいっぱいお空に昇って行ったんだ」
へ~、どの位高く飛べたのかな?
「うーん雲より上、クルトンしゃん知ってる?ずっとずーっと上に行くと夜になっちゃうんだよ」
・・・その時地面はどんな形していた?
「ムフー、真ん丸なの、後ろにはお月様も浮かんでてねー、とっても大きく見えたの」
・・・大気圏の外側?
それでいて、月の軌道の内側?どういうことだ。
この技能・・・と仮定して、能力の尖り具合があまりに極端すぎる気がする。以前の陛下の話を参考にすれば命を削っている可能性が有りそうだ、注意しないとマズイな。
しかし、技能の『視点交換』や『憑依』の線は消えたな。
大気圏中に生息している生物なんて聞いた事無い・・・古龍なんかはどうか分からんが。
『遠見』も違うだろう、あれは魔法だし発動させるのにアークメイジが複数人必要だって聞いた記憶がある。
もっと強力な技能だろうか、思い浮かばない・・・。
不意に繋いでいたパジェの手に力が籠ると、”ハッ”と俺の頭の中に甦る前世の記憶があった。
大気圏・・・。
!待て、この世界はどういった世界だ?
そう、『修復途中の世界』と以前陛下が言ってたじゃないか。
長い事お伽話、神話の話かと思っていたが、それを前提として検証する事で見えてくる何かが有るんじゃないか?
そうだ、太古の昔、大災害前の伝承では、
世界の修復前には古代人の世界が栄えていたと。
古代人は脆弱な身体で有りながら世界の理を操るまでに進歩した技術を持っていたと。
なら・・・、
『人工衛星』
有ってもおかしくないんじゃないか?
かつてこの星(世界)の上を数百機単位で巡っていたとしてもおかしくないんじゃないか?
超高性能な望遠鏡で地表を監視できる物であれば・・・それこそ赤外線感知式の物との併用であれば夜でも問題ないだろう。
前世の俺が生きていたその時代でも解像度15cm以上の超高性能望遠鏡を搭載した軍事衛星が有ったじゃないか。
未だ墜落することなくこの世界の空を巡っている物が有るとしたら・・・・。
人工衛星も含めた端末装置に指令を伝える為のインフラ設備、古代の通信網にアクセスできる能力、それがパジェの力だとしたらどうだろう?
動作はしていなくてもこの世界中に通信インフラが眠っているとしたら。
それが空(宇宙)にも及ぶ物だとしたら。
更に一時的にでも呼び覚まし、機能を発揮させる事が出来る能力だとしたら。
窓から見える空を見上げる。
日中の今は青い空とそこに浮かぶ白い雲だけが見える。
もし夜空に浮かんでいる今まで月と思っていた天体が、実は巨大な兵器だったら最悪だ。
そんな悪い考えも頭をよぎる。
そうでなくても戦略級都市攻撃用人工衛星なんてものが有ったとしたら、世界の命運を握るのはこの4歳の子供かもしれない。
今も其処にいるのか?
いや、有るのか・・・人工衛星。
当然その問いに答える者はいない、世界も沈黙したままだ。
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『天上の瞳(ヘヴンリーアイズ)』
それは太古の昔、数ある大災害の中で唯一全損を免れた兵器のペットネーム。
クルトンがそれを知るのは暫く先の事になる。
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