第348話 本質

とにもかくにも今日中に大仕事の始末が付いてホッと一息の俺、クルトンです。



取りあえずテヒニカさん達の新居も完成し一応の体裁は整った。

これ以上は村に迎え入れてからでも遅くはないだろう。


テヒニカさん達にも家畜は必要になるだろうから希望を聞いてから側に厩舎も立てようか。



内覧会も今日の畑の仕事も完了して夕食、とうとう明日の朝にはコルネンに出発しないといけない。

仕方ない事とは言え面倒くさい。


「なら早く始末をつけてきなさい、くれぐれも向こうの方達に迷惑かけないようにね」

「アイザック伯父さんにもちゃんとお礼をしてくるんだぞ、2年もお世話になったんだから」


うん、その辺は問題無いよ。

諸々の引継ぎやお礼はもう済んでいるんだ。


残っているのは使用人(お貴族様達)の職業教育。

どの位かかるかなぁ、仕事の依頼が舞い込んだ時に俺へのメッセンジャー、その情報の整理、記録と各資産の帳簿管理だからルーチンワークで済む事ではある。

自分達で決断、判断する仕事は一切無いし、その決裁権は持たせないから何か有れば責任は全て俺に来るという正直彼らにとっても気楽な仕事のはず。


ただし地味だし面倒くさい仕事になるだろうから毎日コツコツ処理していかないと後で泣く事になるんだけどな。

事務仕事なんてそんなもんよ。



「兄さん、結局兄さんの資産てどの位なの?」

「そうそう、私も知りたい」


妹たちが興味津々に聞いてくるが正直俺も分かっていない。


「それはそれでどうなのよ」

パメラ嬢からもツッコミが入る。



「まあいいじゃないか、馬2頭の話をしても”問題無い”とか言う位だ。

それだけで十分な稼ぎだろう?」

父さんからは俺へのフォローが入る、やっぱり優しい。


「「ええー、気になるぅー」」



「まあ、現金以外で言えば王族以上の資産持ちでしょうけどね」


「「え!姫様どういう事?」」



「お母様のネックレス、あれはクルトンが作った物でしょう?

あれの価値は想像つく?」


「そうよねぇ、かなりの物よねぇ・・・王都にお城の様な豪邸が立つんじゃないかしら」

母さんも話に参加してきた。


「そんなに!?」

「凄い、と言うか恐ろしいわ!」



「何か・・・勘違いしてるわね」

パリメーラ嬢が割と真剣な顔で話を続ける。


「価値は付けれないと思うわ。

例えばクルトンが拵えてフォークレン伯爵家に譲渡した”レッドダイヤ”は1個で小国が買えると言われているくらいよ。

ダイヤ単体の価値はレッドダイヤには及ばないけど大きさと良い、品質と良い・・・しかもあの数でしょう?正気じゃないわ。台座も魔銀って言ってたじゃない。

正直、ここまでになると”悪魔が宿る”って誰も欲しがらないと思う。

現実的じゃないのよ、だから価値を付けれない。私はそう判断するわ」



うーん、そうなのかぁ。

かなり気合いを入れて拵えた物も一周回って無価値と同じ扱いになるのか、ちょっと悲しい。

いや、かなり悲しい。


どうしよう、これなんか結構頑張って拵えたからかなりいい出来だと思ったんだけどなあ・・・価値付かないのかなぁ。


いつでも自慢できるように死蔵していたはずの木の箱を取り出す為にバッグを漁り、「あったあった、これこれ」とテーブルに置く。

そしてパカッと蓋を開けて中身を取り出し皆に見せる。



俺の勝手な思い込みである事は承知のうえでだが、これを俺の未来のお嫁さんに贈ったら喜んでくれると思ったんだけど、気合い入れて拵えたんだけどなぁ。



「な、なんなのよおおーー!その腕時計はああああーーーー!!!!」


パリメーラ姫様が両手でテーブルを打ちながら発した怒号で”ビクッ”とした俺が落っことしそうになる『それ』は、

以前カサンドラ工房でスキルの上達具合を確認する為に当時の全身全霊を込めて拵えた物。



俺にとっては宝飾品の一つの頂点、


『総ダイヤモンド製の腕時計』


それに付与されている魔法の動力で回る秒針が、相変わらず光を無作為に振りまき、

今、この室内を照らした。



「良かったね兄さん、これなら適当に作っても大金持ちじゃん。

将来、力が衰えてしまっても収入が約束されている様なもんだよ。

本当に凄いよ、お金の心配しなくていいんだから」


物は言いようだな、でもクレスの言う事ももっともだ、安心した。

これからどうなるか分からないんだから、食いっぱぐれない事がほぼ確約されているって事として考えれば、精神衛生上かなり宜しい事で御座いますですよ。

マジで。




「クルトン、ごめんなさい。

言い方が悪かったわ、価値が無いなんて意味じゃ無いのよ。

その逆で、価値に見合う対価を用意できる人は居ないって事、国家レベルになると思うっていう私見よ。気にしないで頂戴」


大丈夫、もう全然気にしてないですよ。

考えてみれば元の材料は薪ですからね、何なら役に立たなくなれば炭にでもすれば燃料にもなるんだから。


「やめて・・・」

パメラ嬢が泣きそうでござる。


いや、確かにダイヤの価値を考えればもったいなくも感じるが、先に言ったように薪からなんぼでも作れる。

マジチート。


それにこの世界じゃ水や食料の方が遥かに貴重な場面が結構あるからな。

冗談抜きで。


宝石が価値が変動し難い安全な資産だとしても、時と場合、場所によるからね。



本質を見失ってはならぬのでございますよ。



「それで、もう少しその腕時計見せてほしいのだけど・・・ダメ?」



構いませんよ、俺の自慢の逸品ですからね。

それこそ自慢させてください、さあさあ。



それからも皆で夜の一時を楽しんで、テホア達がお眠になった頃合でお風呂に入ってすぐに就寝した。


明日は早い、ムーシカ達を馬車に繋がないといけないし少ないながら荷物の積み込みも有る。


ああ、大蛇の革は屋根に載せないとな。



しかし短い帰省である事は分かっていたが本当にあっという間だったな。

ここで気を抜かず頑張ろう。



もう少し、もうひと踏ん張りだ。

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