第139話 遠征準備

王笏のデザインを清書し必要な材料、その使用料などを計算、見積もりと仕様書を作成等々・・打ち合わせの準備がやっと出来て一息ついている俺、クルトンです。



「こんなもんでいいだろう」

そうですね、これ以上の検討は時間がもったいないです。

十分な時間をかけて協議を重ねましたからね。


ええ、俺も親方も面倒くさくなったのが本音です。




「で、いつ王都に行くんだ?」

1週間後にでも、今回はシンシアも連れて行って本格的な野営の訓練もしようと。


「そうか、そうか。治癒魔法師様とはいえ騎士団に所属するなら一通りは自分で出来る様になんねえとな」

そう言う事です、そうなんですけどねぇ・・・。


「なんか歯切れが悪いな、なんかあるのか」

騎士団が付いてくるとか言い出して、選抜隊ですから5名程度ですけど。


「まあ、普通はそうか。治癒魔法師の護衛ならなあ」

いや、でも気合いの入れようがちょっと異常でしてね、明日から選抜隊メンバーになる為のトーナメント開催する様なんですよ。

怪我なんかしたら本末転倒なのに・・・いや、シンシアが治療するから大丈夫か。


「トーナメント?」

護衛を決める為の・・・壁役、戦闘能力の確認?


「なんで『?』なんだよ」

選定基準が良く分からんのです。

俺は護衛の訓練受けた事ないので偉そうな事言えないんですけど、こういったのってバランスが大事だと思うんですよね。

壁役の騎士は当然必要ですけど危険を事前に察知、回避する索敵能力だってとても重要ですし遊撃なんかも相手を混乱させたり味方のサポートに有効だと。


「いやいや、それだと5人じゃ済まんだろう。私見だが壁役以外は全部お前に任せるんじゃないか?壁役の騎士の出番の前にお前が片付けちまうんだろう?奴らは多分万が一の為に着いてくんだと思うぜ」

ああ!なるほど。


「お前、自分の事良く分かってねえだろう・・・」

分かってますよ、出来る事と出来ない事の境界線ははっきり認識しています。

油断と過信は命を危険にさらします、護衛なんてのは臆病なくらいが丁度いいんです。


うん、俺良い事言った。



「あの馬車とその護衛なら何ともねえだろうよ」

いや、魔獣の危険は考えておかないと。

なんたってここ1年くらいで3回遭遇してますからね、俺。


「お前が原因じゃねえよな、それ」

たまたまだと思うんですけど・・・。


「でも深層の魔獣以外は瞬殺だったそうじゃねえか」

それは結果論です。

どこかで何かの歯車が狂ってしまえば、どういった未来訪れたか予想が付きません。


「備えはしておくこったな」

ええ、やれることはすべてやります。


「王笏の打ち合わせは面倒くさくてほっぽり投げたがな(笑)」

それは親方もでしょう!

議論は尽くされましたよ、多分。



さて、王都に行く準備は滞りなく進んでいるが国王陛下にお目通りいただくにあたりシンシアも紹介しようと思う。

なのでそれなりの服を準備しないとな。

クラフトスキルでチャチャっと出来るんだが好みを聞いておかないと。




「空色のこれが良い」

よしよし、では早速仕立てよう。


ドレスのデザイン画をシンシアに見せて好みを聞いたところ迷うことなくサクッと選びましたよ。

もうちょっと迷うとか、遠慮するとか有るかなって予想していたが意外。


選んだドレスは胸から裾にかけて青から空色にグラデーションになっているイブニングドレスってやつ。


着心地重視にはするが防御力はそれなりに盛るつもりだ。

丸腰に見えてもフルプレートメイル並みにはしたい。


刺繍には各種付与効果を施し『死なない事』を目的として仕立てていこう。


生成りの生地と糸を購入、俺用の裁縫道具でサイズ通りに製作する。

サイズはちゃんと叔母さん達に確認お願いしましたよ、女の子ですからね。


木工スキルで作ったマネキンに着せて最後の仕上げ、着色を施す。


染めてからやろうとしたら色を合わせる為に生地の歩留まりが無茶苦茶悪くなるので縫製完了してからスキル頼みでゴリ押しする事にした。




魔力に物言わせて着色を施すとうっすらだが魔力を帯びたドレスが仕上がる。


・・・なんだか最近品質の向上を意識しながらクラフトスキルを行使するとこんな感じで作品に魔力が帯びてしまう事がままある。


規則性は無いのでいつ起こるか分からない。

悪い事ではない様なので気にしないが。


このまま目立たない箇所に刺繍で付与を施すと魔力を帯びているせいか何だか付与の馴染みがいいような気がする。

いや、明らかに良いな。



目立たない場所とはいえ調子に乗っていろいろ付与を盛りすぎた。

だって付与同士が干渉しないんだもん。


なのに付与の相乗効果は発揮されている。

ヤバいんじゃないかこのドレス。

精神干渉魔法のレジストの為に襟もとへ青銀製のビーズを散らしたところから「おや?」って思っていたが止められなかったよ。


止めてしまうと今度いつ試せるか分からなかったから。


まあ、先にも言ったが悪い事ではない。

鑑定の技能持ちが見ないと多分どんな物かは分からないだろうから知らないふりをしておこう。

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