第46話 肉体言語
スレイプニルをヘッドロックしている俺、クルトンです。
どうしてこうなった。
正直ちょっと高を括っていた。
前世でプレイしていたMMORPGでは騎乗動物は一定条件をクリア、または金銭で手に入れることができてその時点で既に有効な移動手段としてすぐに騎乗することができた。
その感覚があったし王都まで来る時の馬車馬や村での山羊の世話も問題なくこなせたもんだから、すんなり行くか最悪逃げられてまた探す羽目になるかのどちらかだと思ったんだが・・・
どうどう、どうどう
襲い掛かられて今この状態。
ガッチリ頭を固定して首を極め押さえ込んでる。
変則袈裟固めみたいになってる。
そしてもう一頭はというと
ガシガシ、ガシガシ
俺の頭をガシガシ噛んでます。
ちょっと痛い。
そしてヨダレで目を開けるのが辛い。
さっきからずっとこの状態で、押さえ込まれて疲れたのか徐々に動きが鈍くなってきてはいるが目は死んでいない。
その証拠に時折り激しく体を跳ねさせる、何がそうさせるのか。
逃げればよかったろうに。
敵意がない事は最初に俺へ体当たりした時に分かってるはずだ。
一切抵抗しなかったし、跳ね飛ばされた後も俺から近付いていかなかったから。
もうしばらく続くかと長期戦も覚悟した頃、俺の頭を噛んでいた一頭の様子が変わった。
噛むのをやめ、急に動きが鈍くなってふらついたかと思うと股から水が流れ出してきた。
!破水か
妊娠していたのか、それでこいつは番いを守る為に・・・そういう事か!
急いでヘッドロックを解きメスのスレイプニルに近づく。
『ドン!』
牡馬からまた吹っ飛ばされた。
うん、気持ちは分かる。
でも信用してくれ。
言葉が通じないのは百も承知、牡馬を無視して治癒魔法を可視化される様にわざわざ身体に纏い光らせた後、牝馬に近づき体に触れる。
今まで使ってなかったエフェクト機能の意味有ったよ。
牡馬もビビって一瞬動きが止まったからね。
牝馬はそんな事気にする余裕も無い様で、横になりうめき出した。
しかしすぐに魔法の効果が現れ痛みが和らいだのか、さほど時間も経たずに仔馬の前足が出てきたのでそれを掴み一気に引き出す。
慎重に、しかし澱みなく丁寧に。
そして治癒魔法のお陰だろう、お産と言うには実にすんなりと無事に仔馬が産まれ牝馬の様態も安定している。
だが試練はまだ終わっていない。
さっきから索敵に引っかかっていた気配、
全部で5匹、体長5m程(体高ではない)の大蜥蜴が俺たちを囲んでいた。
そりゃあれだけ血の匂いすれば寄ってくるよな。
スレイプニルの牡馬は俺との我慢比べが堪えたのか未だにちょっとグロッキー。
しかし家族を守る為だろう、懸命に威嚇している。
俺はというと・・・
(肉は美味いし皮は防具やバッグの材料になるから売れそう、ラッキー)
と思って右半身に構えた。
弓矢はスレイプニルの前に姿を現した時に小川の向こうに置いてきたから、面倒だが一体づつ相手にしていこう。。
魔獣をも倒す俺にとって弓は無くとも大蜥蜴はただの的、認識阻害を併用して流れ作業の様に獲物の側頭部を爪先で蹴り抜く。
低い位置に頭があるから拳ではなく今回は蹴り。
あんまり得意じゃ無いんだけど。
全て一発で仕留めるとナイフで血抜き、常備しているロープで数珠繋ぎの様に獲物を縛って一丁上がり。
そのわずかな間で、生まれたばかりの仔馬は立ち上がり、既に立っていた母馬の乳を飲み始めた。
・
・
・
お前、さっきと態度が違いすぎないか?
「ブフリュウウ」
牡馬が俺を仔馬の側から離さない様にがっちり脇についている。
俺が自分たちに危害を加えない事、そして敵になりうる動物たちから守ってくれる事を理解している・・・やっぱり頭いいなお前たち。
母馬もそれを止める訳でも無く仔馬に乳を飲ませている。
でも、王都に戻るからそろそろ移動を始めないとな・・・どうしよう仔馬もいるし付いて来てくれるだろうか。
この時はまだスレイプニルの捕獲が成功するかどうか分からなかった。
今、俺は草原をジョギングしている。
限界速度には程遠いが脇にはスレイプニルの仔馬も併走している。
元気なもんだ。
「生まれてすぐにこれか、大したもんだなぁ」
小川を渡り、弓と食料を回収した後に森の外に向けて歩き出すと3頭そろって俺についてきた。
付いて来てくれるのか?
返事は無かったが森を抜けてもずっとついてきたので早歩きから小走り、ジョギングの速度まで徐々にスピードを上げるとまだ付いて来る。
今は仔馬の為に俺を用心棒代わりに利用する気なんだろうな。
それでもかまいはしないが、いずれこの馬たちは俺を主人と認めその背に乗せてくれるだろうか。
鞍や鐙に慣れる事も含め調教を受けてくれるか心配ではあったが3頭も連れてこれたんだ、まずは上出来とこの成果に満足しよう。
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