第163話 王都観光

あの後始末書を書きあげ城内に戻りシンシアと一緒に朝食を取っています。

あんな事の後でも飯はとても美味い。


しょんぼりした気分がちょっと上向いてきた俺、クルトンです。


内謁も終わったのでロミネリア教団の騒動のせいで後回しになっていた挨拶周りに今日は出かけようと思います。


「楽しみ」

シンシアもさっきから頬が緩んでホットミルクをゴクゴク飲んでる。


先日は中断してしまったので色々王都観光しながら回ってこよう。

当然護衛の騎士さん達も一緒だ。


取りあえず宝飾ギルド本部には必ず行って今更だけど王都に到着した連絡。

会わせたい人が居るって手紙に有ったからね、一応王都にいるって事は伝えないと。


後はポックリさん、これは香辛料関係の注文。

何気にって言っては失礼かもしれないけど、お願いした物はいつも最高品質の物を揃えてくれる。

交易都市程の流通量は無いけど高品質の物が厳選されてここ王都に運ばれてくるらしい。


プリセイラ皮革工房のセイラ工房長にも顔を出してこれからの騎乗動物の繁殖事業についての説明をする予定。

騎乗動物関連の事業だからそのうちに馬具も必要になるだろうし。


昼はピッグテイルで食べて・・・あそこのカルボナーラみたいなパスタは美味いんだよな、付け合わせのパンも良い小麦使ってる。

ぜひシンシアにも教えてあげたい。


騎士さん達も一緒だけどフロアは意外と雑多な感じだから大人数でも問題ないだろう。


あと何気にここで生産している宝飾品の品質を確認したい。

コルネン以外での宝飾品の質がどれほどなのかこの目で確認したい、国王陛下のお膝元だからさぞ良い腕の職人が集まっているんだろう。


それとここ王都に有る治癒魔法協会本部に挨拶行こうとしたんだがコルネンからの護衛の騎士さん達に強力に止められた。

「せめてクルトンさんからの免状をシンシア君が取得してからにしてください」

「あいつら絶対囲い込みに来ますから、優秀であればなおさらです」


でも勧誘有っても断れば良いんじゃないですか?

「簡単にそれが出来れば苦労はしないんです!」

「公平な組織だからこそすこぶる融通が利かないんですよ、あそこは!」

「シンシア嬢が協会に所属したら特に若手は条件の悪い僻地に赴任させたりする可能性も十分あり得るんです。そういった土地は医療関連に困窮している事は理解しますが経験が少ない若手は住民との交流がうまくいかず精神を病んでしまう者もいる程です」


・・・なんか大変だな、『公平』と言った正論でガッチガチに管理される治癒魔法師も。

前世で言えば左遷で出向させられる感じなのかな。


「多分ですけど『自由騎士インビジブルウルフの弟子』だから向こうも迂闊に接触してこないんだと思いますよ、だからわざわざこちらから出向く必要はありません。のっぴきならなくなれば黙っていても向こうから『勝手に』来ます」


ならいいか。


コルネンは結構な規模の交易都市だから人口も結構いてお金の流通も活発だ。

そんな場所柄だからなんだろう、薬師はそれなりにいるそうだ。


逆に条件の悪い地域、薬師もなかなか居ない土地があるから、そこへ優先的に協会が治癒魔法師を赴任させるって事なのかな。


公平性を考えれば正解に思えるが魔獣と直接事を構える騎士団にとって即効性の治療を行使できる治癒魔法師は必須だろう。

戦場の野戦病院内で致命傷の回復を行う事は薬師では無理だから。


特にコルネンなんかはグリフォンを駆るデデリさんがいるから担当する区域も広くなった様だし出撃頻度も、頼られることも多いだろうし。


・・・ベテランの薬師に補助金でも出して地方に赴任させ、治癒魔法師は騎士団へ割り振る方が現実的な気がする。

程度の問題はあるけど。


そういった提案は今までなかったのか、実施してみたが上手くいかなかったのか・・・はたまた別の思惑で治癒魔法師の人事を掌握、コントロールしている誰かが居るのか。


考えすぎか。


「何とも言えませんが歴代の協会長は王都以外の騎士団に厳しい様には感じますね、あくまでも私の感想ですけど」



想像でしかないので下手な事も言えませんしね。健全な組織とは聞いていますが今は近づかない様にしましょう。

こっちの都合が優先です。



「あら、済まないねぇ。家の旦那は行商中でまた商隊に便乗して行っちゃったんだよ」

あらら、ポックリさんへの挨拶は空振りでした。

けど奥さんが代わりに対応してくれるから問題ないんだけど。


「はいよ、いつものやつね。今回もとびっきりの物を準備するから期待しておいてね!」

よろしくお願いします。

そうですね、7日後にまた来ますので一応前払いしておきますね。


「悪いねぇ、いっつも頼りないのにこんな上客捕まえる家の旦那は商人の才能有るのかね(笑)」

行商で王都に店を構えているだけでも大したもんじゃないですか。

自分の工房を持った事ない俺からしたら相当なものですよ。


ほんと何気に凄いよな、あの人。

あの様な人は何かあっても必ず生き延びるんだよな。



「あら、久しぶり。魔獣殺しの英雄殿がまた来てくれるなんてね(笑)。ムーシカ達は元気?今日は一緒じゃないみたいだけど」

ええ、今日は弟子と王都観光でして。


「あら!弟子を取る様になったのね、そのお嬢さん?鍛冶と同じで宝飾品は金属の毒が怖いから作業は慎重にね」

あ、いや宝飾ではなくてですね、治癒魔法師の方なのです。


「治癒魔法師!あなた治癒魔法も使えたの?」

ええ、まあ。


「『ええ、まあ』じゃないわよ・・・王都で思いのほかあなたの話題が噂されないから不思議だったのだけどそれが理由で箝口令でも出てるんでしょうね、納得いったわ」

勘違いしているようだが訂正はしない。

実際はもっと面倒くさい理由だから。


その後も話題が膨らんでいって話が進まないので、強引にこれから騎乗動物の繁殖事業を行う事を説明し、見通しが付いたらここプリセイラ皮革工房に馬具の発注を依頼したいと伝える。


セイラ工房長からは「願っても無い事だわ、ぜひお願い」との返事を頂きここもミッション達成。



次はピッグテイルで昼食を取ったら宝飾ギルド本部に行こう。

王都に着いた旨の連絡だけなんだけど・・・多分、ここが一番時間かかりそうなんだよなあ。

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