第164話 二者択一の罠
ピッグテイルのパスタは絶品だな。
なんで皆は酒の肴しか頼まないんだろう?それも美味いんだけども。
「本当、美味しかった!」
シンシアもカルボナーラ風パスタを気に入ってくれた様で良かった。
また食べに来ようとシンシアと約束をしてホッコリしている俺、クルトンです。
腹も膨らみゆっくり歩きながら今日のメインイベントになるであろう宝飾ギルド本部に向かいます。
そしてギルド本部に到着しました、扉をそっと開け中に入ります。
護衛の騎士さん3人は外で待機、これも意味有る事なんだって。
建屋内で何かあれば一緒に入った2名の騎士さんが屋外まで誘導、殿を務め、屋外で待機してる3名が逃走経路を先行して確保、殿を交代して追手のかく乱とかするんだってさ。
だから外で待機している騎士さんの内一人は索敵技能持ちなんだって。
外からでも護衛対象の大体の位置と、屋外の人の流れに違和感が有れば把握できるらしい。
凄いよな、騎士の警護って壁役だけじゃないんだ。
一応ポムとプルも屋外の建屋前で待機。
俺とシンシア、騎士さん2人と狸、ぺスが建屋の中に入り受付に行く。
「!クルトンさん、今日は賑やかですね・・・」
丁度サリス女史が受付に入っていて直ぐに俺達に気付く。
早速王都に付いたことを報告。
すみません、王都に到着したので遅ればせながらその報告にと。
「承知しました。本部長に取次ぎますので少々お待ちください」
いや、お忙しいでしょうから良いですよぅ。王都に着いた旨を知らせに来ただけですから。
あとで呼び出してもらえればまた来ますよぅ。
「伝えてまいりますので(ニッコリ)」
ああ、長くなりそうだ。
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「久しぶりだね、今回も大活躍だったそうじゃないか」
・・・
「どうしたんだい?」
何でしょう、何もありませんでしたけど?
シズネル本部長がカマをかけてきますが引っかかりませんよ。
「5日前だったかな、君が王都に入った旨は報告貰っているよ。早々にあの教団と揉めた事も」
そうですか、でも何もありませんでしたけど?
「ええ~、あれでかい?」
あれとは?
「目が泳いでるよ?まあ、いいだろう。藪をつついて蛇が出たら怪我どころじゃすまないからね」
ここでサリス女史がお茶と茶菓子を出してきました。
相変わらず美味いよな、このお茶。
「それはどうも、早速だけど手紙に書いた合わせたい人ってのはセロウゼ伯爵なんだ」
すみません、早速すぎます。
それだけだと「あ、そうですか」としか言えません、もう少し詳しい経緯をお願いします。
「うん、そうだね。
彼は私の学生時代の友人でね、王都の宝飾工房の上客でもある重要人物だ。
2人目の息子さんが騎士なんだが2年前に魔獣討伐で利き腕を・・・右腕だね・・・魔獣に噛まれて肘から先を持ってかれたんだよ」
あら、まあ・・・。
「討伐隊は引退して今は騎士団内の兵站担当で相応の働きはしているんだけど親からしたらやっぱり不憫に思っている様でね。彼の剣の腕はかなりのものだったらしいから」
なるほど、ならそうでしょうね。
「そこで義手を作れる腕の良い職人が居ないか相談が有ってね、君を紹介しようと思ったってワケ、どうかな?」
作れる・・・と思いますが・・・。
「なんか乗り気じゃない?」
ちょっと考えさせてもらえませんでしょうか、4日、いや2日待ってほしいのですけど。
「そうだね、即答は難しいだろうからそれでいいよ。2日後、できればいい回答が欲しいな」
それから少々世間話をしてギルド本部を後にした。
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どうしたら良いだろう。
義手は多分作れる、問題ない。
魔素、魔力が有るこの世界なら、指の一本まで自在に操れるスター〇ォーズのルーク・〇カイウォーカーの義手並みの物を作れそうだ、主に鍛冶、宝飾、皮革のそして何故か楽器制作のクラフトスキルが俺の中でそう告げている。
そしてこれを作る意味も大きい。
一度設計図を引いて生産加工内容を資料として整え俺が見本を作れば量産も可能になるだろう。
俺以外の人間が作れるようになる意味はかなり大きい。
各個人への調整は必要だろうが、四肢の欠損に対してハンデを抱えながら生活する人をサポートできる。
サポートどころか以前と同じ様な生活を遜色なく過ごせるだろう。
良い事づくめの様に思えるがそもそもこの世界はどんな世界だ?
そう、四肢欠損を修復できる『治癒魔法』が有る世界だ。
治癒魔法師なら誰でもできると言う訳ではないだろうが、少なくとも俺は四肢欠損を治せる。
だから今までセロウゼ伯爵が治癒魔法師にそれを依頼しなかったはずがない。
例え治療費が高額であったとしても伯爵なら問題ないはずだ。
なぜ治っていないんだ?治せないのか?
俺とこの世界の治癒魔法師が使う魔法に効果の違いが有るのか?
貴族相手だと治癒魔法協会が積極的に治療しないのか?
「貴族なら腕などなくても生活に困窮する事は無いだろう」と言った具合に?
だから治さない、後回しにされるのか?
どういう事だ、どうしたら良い?どうしたら・・・。
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「義手を作って怪我も治してあげればいいと思うの。クルトンさんなら出来るの」
いつになく考え込んでいた俺に理由を聞いてきたシンシア。
出来るだけ深刻にならない様に要点をかいつまんで話すとこう返事が来た。
そうだよな、考えたところで分からないんだから。
治癒魔法協会やセロウゼ伯爵にこの件を問い合わせたところで事の当事者にたどり着かない限り何も分からないし、本当の事を言わないかもしれない。
どうせ分からないならそこに思考のリソースを裂くのは俺の性分に合わない。
シンシアの言う通り両方やってしまおう。
誰も不幸になる話じゃない、何か有っても押し通す。
その為に使うと決めた『力』じゃないか。
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