第165話 見通しを付けよう

新生元老院の長たる議長、ソフィー様の執務室に来ています。

さっきシズネル本部長から話が有った内容を早速相談しているところです。


「なるほど、そうね・・・厄介そうね。でも良くそんな話ばかり貴方に集まってくるわね、力の代償として呪われてるんじゃないのかしら?」


冗談じゃなくなりますからフラグを立てないでください。

慌ててフラグをへし折る俺、クルトンです。



「しかしその案件の対処方法はこれから検討するとして、仕事の優先順位を今のうちに決めてしまいましょう。無計画に進めていると全部共倒れして挽回するのにかなりの労力を割かねばならなくなります」


おっしゃる通りでございます。

特に腕輪の案件なんかはある意味二国の未来を背負っているとも言える仕事ですし。



内容を理解していなくても勘が鋭いシンシアも含めてソフィー様と検討します。

因みにアスキアさんはチェルナー姫様のお供で今日はここに居ません。



取り合えず俺が抱えている仕事を洗い出しサクッと優先順位を付けました。


1.腕輪(補助具)の試作完成。

2.王笏の製作。

3.騎乗動物の捕獲。

4.セロウゼ伯爵の息子さんへの義手の製作と製作用資料の整備。

5.セロウゼ伯爵の息子さんの腕の治療

6.デデリさんの馬車製作。


こんなもんだろうか?

抜けてるものないかな。



王笏は2番目だが今は陛下のデザイン判断待ち。

騎乗動物の捕獲は3番目にはなっているが、明確な納期が決められている訳ではないのでそれ以外の案件の合間を見て進めるつもり。

デデリさんの馬車は製作に取り掛かれば見通しつくので一番下にした。


という事は腕輪が最初で次は義手の製作か。

ザックリ計画表を作成し時系列を確かめると優先案件は思いのほか時間が無い。

義手の件が割り込んでくると腕輪の件は2ヶ月と言わず早急に片づけないといけない感じだ。


そうなるとコルネンへの帰路の移動時間が惜しいな、王都で始末をつけるしかなさそうだ。

アイザック叔父さんとフォネルさんには手紙で滞在期間が延長されることを知らせないと。


それとシズネル本部長に設備を借りれる工房を紹介してもらわなければ。



「とりあえずこれで良いかしら?じゃあ、セロウゼ伯爵の件なのだけど・・・」

はい、その件は裏の事情が有ったとしても俺が知ったところでどうにもならないでしょうから事情はあえて無視します。

純粋に義手の製作と腕の治療、この2件を片付けます。

それ以上でも以下でもありません。


「・・・そうね、貴方には枷が有ろうが無かろうが関係なかったわね。では面倒事は元老院が処理します、計画通りに仕事を熟す事に注力なさい」

御意!


相談して良かった、思考がスッキリしたら心も軽い。


「ふふ(笑)」

ああ、シンシアも付き合ってくれて有難うな。



翌日の早朝、フンボルト将軍と修練の為に王都郊外に向かおうとコッソリ厩舎を出た途端、ムーシカに跨っているところを特使さん3人に見つかった。

なんてタイミングだ。


昨日はバタバタして結局集合時間を聞かれなかったから気付かないふりをして出発しようとしてたんだが・・・陽が昇る前だしね、今。



「「「おお、おおお、おおおおお!!!」」」

髪を振り乱し爆走してくるよ、いや、ちょっと引くわ。


「おお!これがスレイプニル!この艶、まるで黒曜石のようですな!」


やいのやいのハイテンションでムーシカとフンボルト将軍が跨っているミーシカの周りをまわって足やら首やらペタペタ触ってムフームフーと鼻息が荒い3人。

何気に真後ろに回り込まないのはさすがだな。


一頻り騒いで落ち着いたところで

「(当然)我々も連れて行っていただけるのでしょう?」とサイレン王子が聞いてくるが・・・、

うーん、もう出発するところですから今日はご遠慮いただきたいです。

明日じゃダメでしょうか?


「そうですね・・・今から準備する事になりますしご無理を言う訳にもいきません、では明日は必ずこの時間に参りますので」


はい、ではこれで。

こうしてやっと郊外へ走り出した。



「良いのう、良いのうスレイプニル良いのう・・・」

さっきからミーシカに跨るフンボルトさんの独り言が多いです。


フンボルト将軍はスレイプニルには初めて乗る様で今朝はウッキウキで厩舎に来た。

辺りが暗いのに遠目で見ても浮ついていたのがはっきり分かる位。


鞍の装着から始まり一頻り俺からのレクチャーを受け出発、特使さん達の件もあったが無事郊外に出ると早速駆け出す。


速度はムーシカ達に任せ、向かう方向だけ知らせてやるとスレイプニル特有の上下運動の無い乗り心地で文字通り滑るように進んでいく。


「儂も欲しいのう、どうにかならんかのう」

こうして練習できそうな場所を見つけるまでフンボルト将軍の独り言はずっと続いた。



この辺でいいでしょう。

見通しのいい草原、森も遠くに見えるから魔獣に出くわす事も無いだろう。



本気で動くと胴着は役に立たないのでパンツ一丁になりました。

勿論靴も脱いで裸足です。


早速練習を始めます。


「儂はスレイプニル眺めてて良いかのう」


良いですよ、邪魔だけはしないでくださいね。

俺の返事を聞く前にミーシカにスリスリしだしたフンボルト将軍がムーシカから吹っ飛ばされている。


・・・放っておこう。

取りあえず空手の型の稽古をする。


今回は周りの事は考えずに思いっきり力を注いでブチかます。

多少型が崩れても気にしない、今日はそういった練習だから全力だ。

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