第369話 明日という未来

昨晩の内に一仕事完了し、王都での遊行費を確保できてホクホクの俺、クルトンです。




街道を外れ、近くの川から砂を確保、そこからガラスを作って鏡に仕立て上げる。

金に限らず他の貴金属と一緒に指輪2個分くらいは常時カバンに入れて持ち歩いているから今回はその中から銀と銅を利用した。

今回は貨幣を鋳つぶすような事はしない。


お祝いの品の返礼品として作ったのは姿見。

今まで作った物と同じ大きさ、品質なのでこの国には今のところ3つしかなかったものだ。

4辺の縁もしっかり意匠を凝らして彫刻している自信作。



領主様が今朝ほど使いを出し、大店のお偉いさんに渡したところすこぶる好評だったそうな、良かった。


でも割らない様に気を付けてほしい。

ちゃんと梱包箱も木製とは言え内張も設えた本格的な物で、気合いを入れて作ったから大丈夫だろうけど。



そして領主様はその料金を即金で払ってくれた。

大金貨10枚(約200万円)、鏡にこれだけの価値を付けてくれるの有難いけどおかしいんじゃね?

って思っていたら、めでたい事に関する出費には色を付けるもんなんだって。


マジ感謝。

今回の臨時収入は無駄遣いはしない、税金分を引いても結構な金額だから生きたお金の使い方を考えよう。


お世話になった人たちを食事会に招待するとか良いんじゃない?

うん、色々考えてみよう。



無事王都に到着した。

到着前に先ぶれを走らせていた事もあって既に近衛騎士団が出迎えに門まで来てくれている。




貴族専用の門から入り、隊のすべてが門をくぐったのを確認して馬車から領主様が降りてきた。


ここで迎えに来た近衛騎士と挨拶を交わすそうで、陛下へ冠婚葬祭関連のお目通りをお願いする際のお約束、礼儀と言うかしきたりみたいなもんなんだって。

話す内容は自分の名前(家名)、要件なんだけど、要件によって伝える内容も色々変わるらしい。


何でもその要件に対して近衛騎士と話し、問答をしていく事で極稀に「やっべ!アレ持ってくんの忘れてた」とか言うのを思い出すお貴族様が居るそうで、陛下の前で不敬にならない様に、門に入った時点で持ち物とか諸々の準備を確認する為に行うそうな。


面倒臭いけどそれなりに意味がある事なんだね。


この挨拶も問題無く終了し、近衛騎士たちの先導で王城に引率される。

既にこの隊列はカンダル侯爵家嫡男の婚約報告の為の物だと住民たちも知っている様で、沢山の人が領主様、セリシャール君、シンシアの乗る紋章入り馬車に向かって手を振っている。


なんと、窓からペスとオベラも顔を出してやがる。


テホアとイニマも俺の馬車の中から久しぶりの王都をみてテンションかなり上がっておりまする。

俺はというと認識阻害全開で最後尾に馬車を移動、殿の位置から馬車外に居るポム、プルと一緒についていく。



意外とこんな時が危ないからね、認識阻害の他にも索敵とマップ機能も全開で不審な物、人が居ないか警戒を行いながら進む。



そうしていると・・・お、珍しい。

パルトさんが街道から手を振ってる、居酒屋『魔の巣』のマスターも。

店からそこそこ距離が有るのに来てくれたんだな、素直に嬉しい。



王家の『草』の皆さんもポツリポツリ見かける。

ポツリポツリ・・・と言うか何処を向いても俺の視界に必ず一人は居るの凄くね?

ムラなく、満遍なく王都に散らばってるって事だろ、コレ。

皆が能動的に動き回っているのに人員の密度が偏らない、流石だ。



警戒を怠らず進み城門に到着、そのまま近衛騎士団の案内で王城敷地内に入り、馬車を降りて手続きの為に一旦王城内の控室に通される。



ここで先ぶれで王城に一足先に到着していたフォネルさんと合流した。


ここ、控室とは言っても前世のホテルのスイートルームの様な広さ、豪華さで少し落ち着かない。


ソワソワしていると「どこでもいいから座ってなよ(笑)」と領主様から促され、窓の近く、「そんなとこに居たら狙撃されるだろう」って位に無防備な場所に椅子を移動し日向ぼっこをする。


うん、やっぱり陽の光は良い。

体の芯が暖まる。


特に疲れていた訳でもないはずなのに珍しくウトウトしてしまった俺は、念の為にこの部屋へハウジングを展開させてから仮眠を取った。



「・・・ン・・、ク・・ンさん、・ルトンさん、クルトンさん」


肩をゆすられ目を覚ます。

ああ、思っていたより深い眠りだったみたい、でもお陰でスッキリ目が覚めた。


「クルトンさん、やっとお目覚めですか」

折角パッチリ開いた目を細めてしまう位に眩しい金髪と笑顔を見せ、俺に話しかけてくるイケメン。


ああ、おはようございます。



そのイケメン事アスキアさんが寝起きの俺に話しかけてくる。

「こんにちは。どうですか、久しぶりの王城は?」



ええ、快適ですね。

特にこの窓際はとても心地良いですよ。


椅子に座ったまま周りを見ると、俺の足元で狼3頭とオベラがまだ寝ている。



「それは良かった。

この窓はクルトンさんが施した腕時計の付与術式を改良して、光と温度を1日中最適に保てるように作った特注品です。

早速お役に立てたようで」


そう微笑むアスキアさん、ホント眩しいよ。



しかし、そうか。

俺が残した腕時計の設計図、技術資料がもうすでに研究され、実用化の為に色々動き出しているのか。


何か俺の仕事が認められたような、報われた様な気がして嬉しい。



「腕輪の件も順調に生産が続き、ほぼ目標とした数の量産体制が整いました。

これだけ短期間に、これだけの規模の事業が立ち上がるのは稀な事ですよ。

これによりタリシニセリアンの新しい時代が始まるでしょう、改めてインビジブルウルフ卿に感謝を」


それを聞いて改めてホッとする。



そんなアスキアさんとのおしゃべり、

目が覚めているのにまだ日向ぼっこの微睡まどろみから抜け出せていない非現実的な感覚が続いている様で、

微睡まどろみの中、全ての人類が・・・この世界から見捨てられる事が無い、そんな未来が窓の向こうに広がっている様な気がした。

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