第368話 メンツ

上空をゆっくり旋回しながら、

遊ぶように飛んでいるクウネルを眺めている俺、クルトンです。



はい、王都へ向かう街道を進んでいます、出発から1日経過しました。


今回はフォネル副団長を始めとした騎士団に領主様とセリシャール君、シンシアとテホア、イニマと一緒に移動しています。


テホアとイニマだが、寝ている時以外はチェルナー鋼製のペンダント無しでも能力の制御ができる様になってきた。

なので今はペンダントを外した状態で昼を過ごす訓練をしている。


この調子だと故郷に戻ってすぐに訓練が終了、俺の全国行脚の旅が始められるかもしれない。



これだけの大所帯になるとやはり警護のお零れを期待して小さな商隊や行商人たちがチラホラ合流して来る。


隊列に混じる訳ではないが、20~50m程間を空けて後ろをゾロゾロついてくる感じ。



街道の安全を考えればこれは当然の事なので邪魔さえしなければ此方から何か咎めることはしない、むしろここは領主様が余裕を見せないといけない場面だ。


特に今回はフォネルさんが駆るグリフォンも居るから余計集まってきた感じだ。

いつも人気だよね、グリフォン。


だから商隊、行商人たちは事ある毎に空を見上げ悠々と飛ぶグリフォンを羨望のまなざしで見ていた。


そりゃそうか。

俺も羨ましいもん。



今回は特に魔獣の襲来や何らかのアクシデントに見舞われる事も無く無事5日目を終了した。

しかし本当なら明日に王都に着くつもりだった旅程が1日延びている。



「ここまで大きくなるとは・・・しかもここ数日で誰かから聞いたのかセリシャールの婚約の事も既に知っている様じゃないか。

商隊の責任者が『祝いの品』とか言ってこれを持ってきたよ」


「受け取らないわけにはいかない、・・・とは言え、いやはや参った」とカンダル侯爵様がセリシャール君と一緒に”その物”を持って相談しに来た。



今や帯同している商隊や行商人の数は「グリフォンが護衛してくれる」と、間違いではないが、それでも大げさな話が広まった事で増え続け、エライ事になっている。


流石騎士さん達の働きで規律は保たれているので、街道の往来に支障をきたすような事は無いけども。


ただこれだけの大所帯になると単純に移動速度は遅くなる。

俺らは気にせず進んでも問題にはならないが、諸々のしがらみと言うか貴族の懐の深さを示す為にワザと皆の足に合わせているんだとか。



だからという事も有るのだろう、今回の帯同を許してもらっているお礼と、先のセリシャール君の婚約の話を聞きつけてこの中で一番の大店の商隊、そのお偉いさん(結構有名な人らしい)がお祝いの品を持ってきたそうだ。



そしてそれが俺の目の前にある。



「香木・・・ですか?」


「ほう!良く分かったね。

市井の者なら枯れ木と何ら変わらんと興味など持たないもんだが、流石だ」



うん、俺も良く知らない。

ただ木工スキルの材料欄のデータに載っていたから話に出しただけ。

ただ前世では金より高い物も有るとは聞いた事が有る。


これがどの程度のランクの品物か知らないが侯爵様に献上する位だ、今持ち合わせている物で最上級の物を持ってきたんだと思う。

しかしこんなのを扱っている大店って流石にすげえな。



実際幾ら位なんですかね?


「多分・・・だけどコルネン中心部に一軒家が経つだろうね」



ブフォ!!

マジかよ!この手のひらに乗るくらいの見た目ただの流木が!


まあ、焚かずにこのままでもとっても良い香りはするけどな。




「これ程の物を受け取ってしまってはね、何か返さないといけない。

何か良い案は無いかな」



そこいらの炊き付け用の薪でダイヤを作りましょうか?


「ちょっとは考えてよ、それはいくら何でもやりすぎだよ」

「そうです、流石に不自然すぎます」


二人からダメ出しを喰らいションボリするふりをする俺。



「向こうが受け取って負担に思わない程度の物にしないとダメだよ」

難しいですね、何なら黄金色のお菓子で良いじゃないですか?


「直接金貨では品が無さすぎます」

「普段はあまり気にしないのだが、祝いの品への返礼品だからね。それなりのメンツもあるし」

また二人からのダメ出し。


なら何が良いのさ、代替案の無い否定は建設的じゃないですよ、全く。


「オルゴールとか?」

「懐中時計。腕時計とか?」

「付与魔法付きの髪飾りとか?」

「付与付きなら指輪でも良いかもしれません」


いやいや、出来るよ。それこそ依頼を頂ければちゃんと作りますよ。

仕様を決めてください、仕様を。


「うーん、どれでもいいと思うんだよね」

「クルトンさんが拵えるとやりすぎるじゃないですか、ですからいやが応にも向こうの自尊心は満たされると思うんですよ」


煮え切らない・・・。

宝石関連は確かに値崩れも怖いから言ってる事は理解できる。

かといって付与魔法付きの者は王都の博物館での話もある、今更だが機密事項に引っかりそうなものが市井に出回ったら事だ。何か相手の自尊心を満足させる物・・・うーん。



「本当に、本当に宜しいのですか!?」


「はい、カンダル侯爵様はそちらからの祝いの気持ちに対しいたく感謝しておられます。

その証との事で御座いますのでお納めください」






カンダル侯爵の使いで騎士が運んできた物、それはこの国ではチェルナー姫、ソフィー・クロムエル女公爵、そして開拓村に居るクルトンの母ラーシャに次いで4個目になる特大の『姿見』。


この世界ではかなり稀有な明るく歪みの無い、それでいて等身全てを映し出す大型の鏡。



この度、商隊を組織しカンダル侯爵の隊へ帯同させてもらっていた大店の会頭は、

この鏡を受け取った後、王都の自分の店に運び込むと真っ先に4人の妻と3人の娘を呼び寄せ自慢したという。


そして会頭が亡くなった後には、この鏡の相続問題が原因で大店が4つに別れる事態となったそうだ。


因果な事にこの姿見を4等分する為に呼ばれた職人が、クルトンの宝飾技術のうちの一つ、ガラス細工の技を受け継いだ職人、

カサンドラ工房、時計製造部門のガラス職人だった。


仕事とはいえこの事をずっと後悔し続けたこの職人は、後にクルトンの姿見を特別な技能に頼らず再現する製造技術をあみ出し、ガラスを使った鏡の大量生産の基礎を築く事になる。

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