第212話 肩書

王都の旅も4日目を迎えました、順調に往路を進んでいる俺、クルトンです。


双子の兄妹テホアとイニマは馬車を引くムーシカ、ミーシカに跨りはしゃいでいる。

布で座布団状の簡単な鞍を作りそこから伸びる安全帯をしっかり体に括り付けて跨って。


前世のプロ仕様の安全帯を参考に、腿、腰、肩が繋がっている一体型の胴ベルトに安全帯を繋ぎ、着座時に一番短くなる様に紐の長さを調整しているのでそもそも落下させない構造。


本当はシート状の鞍を作って6点式シートベルトでも良かったんだろうけど時間が無かった。



護衛のどの馬より大きく高いムーシカ、ミーシカの鞍の上は、特に小さな子供からしたら相当高いが二人は怖がることも無く非常に楽しいアトラクションになった様だ。


ポムも子供たちのはしゃぎっぷりに感化されたのか、ムーシカ達の前を跳ねる様に走り先導している。



子供がはしゃぎ、笑い声をあげる事に護衛の方含め誰も嫌な顔をしない、それどころか皆目じりを下げてホッコリしている。


これだけで皆がこの世界の常識を身に着けている事が確認出来て、少なくともトラブルを起こすような輩が混じっていない事が分かる。


うん、往路の1週間だけとはいえ人間関係に悩まされないのはありがたい。



「クルトンさん、ハム食べたい」

「食べたい・・」

今日の昼もハムを集りに来ました。


もう、日課のようになっていますね。


昨日からパンと一緒にカップも持ってくるようになったのでハムと無花果ジャム風味の水を渡します。


「有難う!」

「ありがと・・・」


このやり取りも慣れました(笑)

俺のハムをとても気に入ってくれた様だったので昨日、母親にレシピを渡した。

村に戻ったら子供たちの為に作ってくれるでしょう。



"じっ・・・・"

ん、今日は親御さんの所に戻っていきませんね、まだ何か欲しいものが有るんでしょうか。


「クルトンさん、美味しい物いっぱい作れるって本当?」

兄のテホアがそう俺に問いかけます。


お、料理に興味があるのかな。

「ああ、いっぱい作れるよ、とっても美味しい物。コルネンではパン屋さんのお手伝いもしていたからね」



そう答えたところ

「そうなんだ!ねえねえ、コルネンでは『揚げパン』と『アイスクリーム』が食べられるんでしょう、食べた事ある?どんな味なの?

僕らは食べる暇が無かったんだぁ」


なるほど、甘味についてですか。

甘味は今のところ贅沢品、出回っている量にも限りがありますが大人、それこそ男性も好きな人が多い。


『揚げパン』と『アイスクリーム』のキーワードが出た途端、皆の顔がこちらに向きました。

因みに護衛の人と商隊の一部の人は『揚げパン』、『アイスクリーム』と俺の関係については知っています。


なので特に隠す事も無いでしょう。

「食べた事あるよ、揚げパンは油で揚げたパンに大豆の粉をまぶした物。優しい甘さで値段もお手ごろだしとても人気が有るんだ。

アイスクリームは牛乳と砂糖、卵で作った冷たいオヤツ。口に入れた途端溶けだして濃厚な甘さが口の中に広がってとっても美味しいお菓子だよ」


「美味しそう!!。食べたいなあ」

「これ、クルトンさんを困らせないの。すみません、子供たちの相手をして頂いて。ほら、あっちでご飯食べるわよ」


お母さんが寄って来て子供達をそう窘めると、お父さんの所まで子供達を連れていき食事を始めた。



旨いよね、甘味は。

俺も食べたくはあるが、さすがに甘味の材料を今は持ってきていない。

今回はしょうがないね。


「確かに美味かったですなぁ、アイスクリームは」

ん、商隊長さん食べに来てくれたんですか、叔父さんの店まで。


「ええ、いつもではありませんが可能な限り寄らせて頂いています。特にバニラを贅沢に使った物は絶品でしたなぁ・・・」

おやおや、バニラアイスは少々お高めなのですが。そうですか、気に入って頂けましたか。


因みにバニラアイスクリームにウィスキー、又はラム酒なんかかけて召し上がって頂くと甘味に深みが増してより美味しいそうですよ。

宰相閣下のお気に入りの食べ方だそうです。


「そのような情報・・・よろしいのですか?」


「いやいや、宰相閣下は王族で国の重鎮であらせられます。その方の好みを教えて頂くなど・・・これでも私は王都ではそれなりの大店の会頭ですから、王家の方々へお目通りいただく事もございますので、その・・・、何と言いますかこの情報だけでも宰相閣下とお話させて頂くネタになると言いますか・・・」


ああ、俺も脇が甘かった、なんかこの国に馴染んできたのかな。

他人に個人情報どうこう言える立場じゃないですね、反省。


「大丈夫ですよ会頭、インビジブルウルフ殿は自由騎士ですからね。

何かあってもどうにかしてくれますよ」


おや?護衛隊長さん、よくご存じで。

証明するものは何もないのですけども。


「以前の公開訓練の時は俺もその場で見てまして、あの立ち回りと陛下からのお言葉を聞けば、俺らみたいな生業の者ならピンときます」


「今の話で確証を得ました、予想通りでしたな」と笑っている。



・・・ん、周りが静かになっている。

「自由騎士だって(ヒソヒソ)」

「マジかよ、俺初めて見たぜ。どうすりゃ良い?握手とかしてもらえんのかな(ヒソヒソ)」

「なんでも『殺しのライセンス』を持っているらしい、言葉遣いには気を付けろ(ヒソヒソ)」

「俺、今までずっと『クルトン』とか呼び捨てしてたよ、どうしよう・・・(ヒソヒソ)」



いや、全部聞こえてるからね。

別に今まで通りで問題ないですからね。



「スゲー!クルトンさんって自由騎士なの!、悪い人いっぱい捕まえる騎士だよね!スゲー!」



子供達からちやほやされるのはむず痒くもあり嬉しくもあるが、あんまり大きな声で言わないでくれよぅ、恥ずかしいじゃないか。


ああ、ほらテホアとイニマの親御さんの顔が青くなってる。

あれは勘違いしちゃってるよ、絶対。

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