第211話 手を繋いで

今回も馬車で移動している俺、クルトンです。


しかし今俺が操縦しているのは王家から依頼された姫様専用馬車。

そうです、現在王都へ向かっています。




今回は気ままな一人旅・・・って訳ではなくてコルネン駐屯騎士団からの紹介で商隊の護衛に加わってます。


行商人、大店が集まったそこそこ大きな商隊で護衛もしっかり揃ってましたが訳ありな為、騎士団に護衛の打診がきていたそうです。

団内でそのメンバー選考中に俺が「そろそろ王都に納品行ってきます」と声かけたもんだから

「クルトンが同行すれば1人で済むんじゃね?」

って話になって今に至る。


解せぬ。


あ、一応狼は1頭だけポムとは一緒です。





そして今は出発して2日目の昼、お昼ご飯の準備をしている最中です。


「クルトンさん、ハム食べたい」

「食べたい・・」


訳アリの元凶・・と言ったらかわいそうですね。

7歳になったばかりの双子の兄妹がパンを持って俺にハムを集りに来ます。


昨日の昼におすそ分けしたハムが大そう気に入った様です。


俺はハムの原木から4枚スライスして2枚づつパンに挟んでやると、酸味を少し利かせたドレッシングをかけて渡す。


「有難う!」

「ありがと・・・」


そうお礼を言うと両親のもとに戻っていった。

向こうでは親御さんが申し訳なさそうに俺に何度も頭を下げている。


うむ、俺のハムは美味かろうて。

沢山食って大きく育つのだぞ。




それから俺の分をハムの原木から厚めに切り分け、ニンニクと脂身を炒め馴染ませていたフライパンでじっくり焼いていく。


旨そうな匂いが一気に立ち昇り表面がカリっとしたところで一口大に切り分け塩とハーブで味を調える。

ハムのサイコロステーキみたいな感じだ。


パンとハムを交互に口に放り込み、無花果のジャムで香りつけした水を飲む。


簡単な食事だが旨い、今日は天気も良く外で食ってるからなおさら旨い。



"じーーーー"

「・・・・・・」


"じーーーー"

「・・・・水、飲むか?」


"コクコク"

「ならコップ持っておいで」


2人のコップに魔法の水を満たし、無花果のジャムを少し多めに溶かしてやるとニコニコしながら二人一緒に美味しそうに飲んでいた。



「インビジブルウルフ卿に同行頂いて本当に助かりました」

護衛の隊長さんから感謝を受けました。


俺としてはいつも通りの旅程なんですけどね。


「噂は色々聞き及んでおりましたがそれに違わぬ御仁でおられる。

昨晩の結界の魔法などはもう・・・次の仕事では夜番の際に弱音を吐いてしまいそうです(笑)」


ハウジングの事は広めの『結界魔法』と説明しています。

結界魔法は珍しくは有りますが見た事、体感したことは無くてもお伽話にも出てくる有名な魔法なので、奇異な目で見られる事もありませんでした。



「あの二人の件も本当に有難う御座います」

いえいえ、どういたしまして。



今回の訳ありの件、出発前日に事情の説明を受けた。


対象となる人物は双子の兄妹、兄の名前がテホア、妹がイニマ。

生まれた際は、とても元気で尚且つ双子だったものだから大そう皆に喜ばれ、祝福されたそうだ。


当初は別段何ともなかったそうだが、その後成長するにしたがって周りの人たちに異変が現われだした。


結果から言うとその異変とは『魔力酔い』。

アルコールでも早々泥酔する事が殆ど無いこの世界の人間でも、強い魔力に侵されると酩酊状態となってしまう。


2人がお互い近づけば近づくほどその周りの魔素を積極的に体内に取り込み魔力に変換、強力に放出してしまうらしい。


そうすると近くにいる人が魔力酔いになってしまい正常な生活を過ごすことが難しくなってきたとの事。


この事でとても仲の良い兄妹ではあったが必要以上に近づく事は許されず、まだ小さいのに寂しい日々を過ごしていたそうだ。



今回の王都行もこの兄妹の問題を何とかできないか治癒魔法師に相談するつもりでいたらしい。


財産的に十分余裕のある家族ではないそうだが、この双子の体質がかなり珍しく『魔力酔い』の研究に有用と思われた事から、この話を聞きつけた治癒魔法協会から「被検体として協力してもらえれば十分な報酬を払う」との誘いが有り王都行を決断したそうな。



護衛初日の晩、子供達が寝た後に両親ふまえ事情を確認している時、

「研究するとは言ってるけど、多分原因の究明はするんだろうけど結果が出るにしても何年もかかるだろうし・・・そもそも協会は問題の"解決"するとは言ってないよね?」

俺がそう呟くと皆「えっ!?」って顔になった。


特にご両親は「え、嘘、そんな・・・でも・・・」と、なんか混乱して「どうすれば、どうすれば」と出口の見えない思考の沼に嵌まっていく。


その姿は悲壮感が漂い、俺を含む周りの人達もなんだかいたたまれなくなって皆で今後の対策を相談しだした。



この世界ではごくごく限られた例外を除き子供の命は何よりも優先される。

この世界の常識であり、人類に対しての呪いと言ってもいい位の強い思想で信条だ。


故に護衛や一緒に商隊組んでいる商人の方たちの中には誤解を招き、子供を軽視する様な協会のやり方に憤慨する人も居たが、それはそれ。

今はこの子達にとって何が最良か考えましょうと皆真剣に意見を交わす。


とは言ってもここに居るのは商人、護衛、一般市民。

解決に向かっての専門的なアプローチなんかが思い付く訳でも無く、次第に黙り込む間隔が長くなる。



原因の解消はしなくても日常生活を不自由なく過ごせれば問題ないんですよね?



俺が親御さんにそう問いかけると「え、ええ。そうです、それで問題ないです」との言質を取る。



なら何とかなると思います。



双子の兄妹の胸には狼をあしらった青銅製のペンダントが光っている。


漂う魔力を吸い取り魔素へ還元する付与術式が刻んである俺の作品、革の紐を通したそのペンダントを首にかけている。


そして二人は仲良く手を繋いで今日も俺にこう言ってくる。


「「クルトンさん、ハム食べたい!」」

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