第265話 成竜

(・ω・)おっきな鳥だと思ったら翼竜(幼体)だったでござる。

ちょっと浮足立った心がようやく落ち着いてきた俺、クルトンです。


晩御飯に皆でさっき血抜きが完了した鹿のステーキを焼いてモリモリ食べながら、竜の話で盛り上がっていると突然重大な事に気が付く。



これが幼体なら成体もいるだろう。

嫌な予感がどんどん膨らみ心配になって暗くなった空を見上げ、首を暫く巡らせていると・・・ほら、来たよ。


『キュオーーーン!!』

ああ、なんかの技能だろうか、ハウジング内にいる俺たちに影響は無いが、未だ遠くにいてこの暗さで見えるはずもない・・・親翼竜だろう、咆哮に魔力が乗って空気を揺らすのと同時に夜の闇が歪む。


飛行速度は音速より少し遅い位の様で、咆哮が聞こえてから直ぐに俺たちの頭上に翼竜が到着、急停止してそのままホバリングしていた。


雰囲気は十分伝わるが焚火だけでは姿の全容がつかめないので、光の魔法で明るさを確保すると・・・流石成体、幼体よりはるかに大きい。

目視で二回り以上違う、よくこの大きさでこれだけ機敏に飛べるな。



そしてこの成体はハウジングの見えない外壁に衝突する様なヘマはしなかったようだ。

経験に裏打ちされた頭の良さ、でも良く分かったな流石成竜。


しかも何気にホバリングなんて高等技術を披露してくれている、ステキ!



「「ヒィーー!!」」

「でっかーい!!」

「でかーい」


翼竜に気付いた御両親は相変わらずビビり散らかしている、いやこれが普通の反応だな。

テホアとイニマが怖いもの知らずなだけだ。



親翼竜の声に気が付いたのか幼翼竜も目を覚まし上を見上げる。

「キュオ?」


首を声が聞こえた方向に向けると親竜が迎えに来たのを理解したんだろう、体を起こし翼を広げバッサバッサしだした。



もったいないような気もするが、このまま帰ってくれるならそれでも良いか。

今は騎乗動物として捕獲できなくても問題は無いだろう。

一応この翼竜にはマーカーを付けたからマップと連動して後追いは出来るし、あの成体の翼竜の飛行速度を考えれば捕獲したところでパイロットが務まる人材はいないだろうし、今のところは。


そもそも翼竜なんて生態が分かっていないんだから飼育できるかも分からん、最悪弱って死んでしまったら本末転倒だ。



幼竜を待っているのかいまだにホバリング状態の翼竜へ「ほらよ、土産だ」と残っている解体前の鹿の肉を足を目掛けハンマー投げの様に”ブン!”と投げる。

それだけでこちらの意図を理解したのかガシッと鹿をキャッチすると、幼竜を見下ろしながら真上に飛び上がってゆく。


「キュ、キュオ?!」

翼を羽ばたかせていた幼体の翼竜は慌てた様に更に翼に力を籠めようやく体を浮かせると、親竜に置いて行かれない様にダバダバ飛び立って行った。



・・・達者でな。





しかしデデリさんの話では通常翼竜はグリフォンの飛行高度より上空を縄張りにしているそうな。


狩りをしているところを見たと言う記録は無いが、デデリさんの数少ない目撃情報から(隼の様に)飛行中の鳥なんかを襲っているんじゃないかと学者さんが考察しているみたい。


もしかしたら空中ではグリフォンも獲物になるかもしれない。


ならなんであの竜はこんな地表まで降りてきたんだろう。

俺たち、獲物としてはテホアとイニマを狙ったのかもしれないがそれでも地表に近づきすぎのように感じる。


元々地上の獣も狩りで狙う習性が有るならもっと目撃情報が有ってもよさそうだし。


幼竜だったから好奇心に負けたのか?

地表の俺達以外の何かを狙って来たのか?

ただの気まぐれか?


答えは出ない。

少なくともハウジング内で俺と紐づけされた後の幼竜に敵意や怯えの感情は無かった。

まあ、単純に俺たちを獲物と見なしての事であれば『敵意』すら抱かないんだけど、餌相手に敵意は抱かない。


それでも・・・何を狙っての行動だったのか。




中断していた食事を済ませ、後片付けを終えると早々に就寝する。

やろうと思っていた訓練は出来なかったが、翼竜との邂逅という訓練以上の事を体験出来たから実質プラスだ。


俺は寝る前にテント内で魔法で光を灯し、忘れないうちに今日の出来事を出来るだけ詳細に報告書にまとめる。

確認できた事象を映像に起こせるくらいの文字量で事細かく。


おそらく今まで翼竜に対して人がこれだけアプローチできた例は記録に無いだろう。

王城の資料室にですら竜に関連する論文が殆ど無かったし。


故に俺が残す報告書はつたない出来栄えと批判されたとしても、学術的に非常に貴重な物になるはずだ。

俺はこの分野は全くの門外漢、だからこそ事象その物を私見を排除し文字に残し専門家へ研究を任せる。


そう遠くない未来、翼竜への理解が進み騎乗動物として、俺たちの相棒として共存して行ける事を期待して。



暫く後、この翼竜は自らクルトンのもとを訪れ騎乗動物として登録される。


しかしクルトンが騎乗する事は一度も無く、後に自らの技能を完全に制御する事に成功し、身体能力も問題ないまでに成長したテホアとイニマが12歳の時に譲り受ける事となる。


この世界では空に近づけば近付くほど魔素が薄くなり、それを素とする魔力を確保するのが難しい。

しかしこの翼竜へテホアとイニマが騎乗する事により少ない魔素をかき集め、魔力に変換、翼竜に受け渡す事が可能となり、種族特性の技能『高速飛行』へ通常より多くの魔力が供給され、バフにも似た効果を発揮する事が出来るようになった。


これによりテホアとイニマ現役中にはこの翼竜に速度で叶う騎乗動物は現れず、(理論上では)無補給、且つ単独で大陸横断できる初の騎乗動物として歴史に記録される。

しかし、同時に深淵の魔獣の生息域を上空から直接観察できる唯一の手段であった為に国家の重要機密事項として秘匿され、その存在が公にされるのはテホアとイニマがパイロットを引退した後だった。

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