第171話 工房の確保
昼過ぎ、宝飾ギルド本部へ向かっています。
設備借用の件、良い返事が有りますようにと朝日に向かい手を合わせた俺、クルトンです。
今日もシンシア、狼、狸と一緒です。
当然護衛の騎士さんも。
途中甘い香りに誘われて屋台でチョロスみたいな菓子パンを購入、皆で食べながら向かっています。
なんだ、この国にも揚げパン有るじゃん、そう思っていたら屋台のおっちゃん曰く交易都市コルネンで食べた揚げパンを参考にしたとか。
おおう、良いじゃないですか。
パクリと言われるかもしれないがちゃんと自分のオリジナリティーが有るし、何よりマルケパン工房、そして揚げパンへのリスペクトが感じられる。
しきりに「あそこの揚げパンは美味かった!、アイスクリームなんか大槌で頭を殴られた様な衝撃だったね!」と「うんうん」頷きながらそう話す。
こうして食文化が広がり生活が豊かになっていくんですよ。
「私、そのマルケパン工房で働いているの!」
そうシンシアが言うと「本当か!で、どうだこの味は?」とか話が膨らみ最終的にお代が半分になった。
口数多いわけでもないのにコミュ力お化けのシンシア、恐ろしい子!!
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「はい、コレお土産です。皆で食べてください」
宝飾ギルド本部に着き、受付に居たサリス女史に揚げパン(10個)を渡す。
「有難う御座います!これ本当に美味しいんですよね・・・って、本部長に知らせてきますので少々お待ちください」
真面目な顔での受け答えだったが明らかに軽い足取りで事務所奥に向かって行った。
いつも通り本部長室に通されいつものお茶と茶菓子を頂く。
「今日は設備借用の件だったね」
はい、如何でしょう?
シズネル本部長に工房との調整の結果教えてほしいと促します。
「うん、1件二つ返事でOK出してくれたところが有ったよ、そこにお願いしてある。規模は中堅だけど老舗でね、設備は古いが一通り揃っているから十分だと思うよ。
宝飾品なら多分なんでもできる工房だよ」
おお、大変助かります。
本当に有難う御座います。
俺のスキルはちゃんとした素材、設備が無くても結果を具現化させることが可能だ。
しかし予め高品質の素材、しっかりした設備を準備、使用すれば消費する魔力量は極少量で済むし、何より更に高品質の物が出来上がる。
素人と職人(玄人)の違いは経験と道具とは良く言ったものだ。
取りあえず第一関門突破と言った感じ。
ではいつ頃紹介いただけますか?
「今からでも構わないよ、どう?」
では早速お願いします。
「じゃあ、行こうか。サリス君、これからウリアムさんの工房に行ってくるから、今日は直帰するね」
「承知しました」
そんな時間かかるんですか?
「多分ね、あのお祖父ちゃんおしゃべり好きだから。話のスキが無さすぎてビックリするよ(笑)」
ちょっと苦手なタイプかもしれない。
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「それでこの設備はな、一番最初の段取りでこの出っ張りを起点に調整しないと精度があまくなる、爺さんの代から使ってるがこの手間さえかければまだまだ現役で・・・」
本当に終わらない、ウリアムさんの話。
挨拶の後、奥さんがお茶を出してくれたのだがそれを飲むスキさえも無く工房の歴史に始まり最近手掛けた大きな仕事、自身の失敗談、そして今は設備の仕様、使用方法を一から説明してくる。
マジ終わんねぇ。
シズネル本部長は「言った通りでしょう?」ってな目を俺に向け苦笑い。
まあ、無駄ではないので付き合いますが夕飯までには終わってほしい。
「もうそろそろ話を聞いてあげたら?」
見かねた奥さんが助け舟を出してくれる。
有難う御座います!
「!済まないな。まあ、茶でも飲んでくれ、それで話ってのは設備を借りたいって事で良いんだよな?」
頷きながらすっかり冷めたお茶を飲む。
すかさず奥さんが新しいお茶を注いでくれた。
因みにシンシア達はさっきまで奥さんと一緒にペット談議に花を咲かせていたみたい。
ええ、付与付きの腕輪制作の仕事を受けたものですから、試作の納期も2ヶ月無いので。
「へえ、あんた付与も出来るのかい?そりゃー大したもんだな、一人でそれだけの・・・」
「いい加減にしておくれよ、話が進まないじゃないか」
すかさず止めに入る奥さん、重ねて有難う御座います。
ではこちらから、話は1点だけです、場所と設備を貸してください。
「良いよ、料金は日割りにするかい、一定期間まとめてにするかい?」
念の為休みを除いて2ヶ月間、使用日数は40日でお願いします。
「ならそうだな設備使用に制限つけないとして1日金貨2枚・・・40日だと大金貨8枚(約160万円)ってとこかな」
承知しました、ではそれで。
シズネル本部長同席のもとだから適正金額を提示してると思う。
奥さんも何も言ってこないしね。
俺の感覚としては立地が王都内で作業場と設備代、しかも設備の使用制限無しと考えると結構な安さじゃないかと思う。
単純比較はできないけど、前世で俺が知ってるUSA某テクノロジー関連企業の本国技術者の時間工賃は確か2万円程度だった記憶が有る。
それと比べたらなおさら安く感じる。
「前金ならそこから1割引くぞ」
マジですか!
では後程お金持ってきます。
お客様(国)に見積もり出してからになるので1週間ほど待ってください。
正式注文書受け取り次第お金持ってきますから。
「おう、そんな急がなくても良いぞ」
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一通り設備が使えるって事は試作段階で腕輪の完成度を高めるって事だけじゃなく、腕輪専用の工作機械も作れそうだ。
これも試作だけど。
専用の工作機械も腕輪の試作段階で目途が付けば大幅にその後のスケジュールに余裕ができる。
つまり検証作業に使える時間をより多く確保できる、もしくは16ヶ月より早く初ロットの輸出ができる。
見えてきた光がより強く輝きだした感じがする。
早速見積もり作って宰相閣下に持って行こう。
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