第119話 狩りの腕前

新居完成から1日がかりで家具を運び、模様替え宜しくそれをどこに置くか女性陣があーだこーだ相談し、延べ2日かけてようやく始末が付いた。

ぐったりしている俺、クルトンです。



俺だけでもない、父さんもクレスもぐったりだ。


さて、目安ではあるが村への滞在期間が残り5日くらいになってしまった。

新居を準備できた事で俺の目的は達成されたので後はのんびり畑仕事でもしようと思ったところで父さんが話を切り出す。


「東の草原に狩りに行こう」


東?兎でも狩るんだろうか。


「いや、クルトンの馬車を使えば・・・半日くらいかな?水牛の縄張りまで行けると思うんだよ、久々に大物を仕留めようじゃないか」


へー、それは知らなんだ。

「まあ、そうだろうな。父さんも2回しか言った事ないからな。狩った後ここまで持ってくるのも大変だし、そもそも群れを見つけられるかも博打みたいなもんだ」


なるほど、獲物は大きくても、それでも労力に見合わないのか。

でも超頑丈な俺の馬車で行けばその問題も解決されるだろう・・・のった!行こう。


「僕も連れて行ってくれるよね」

おう、クレスも一緒だ。


「やった!」


うんうん、3人での狩り、久しぶりだ。


俺が新居を建てていたとはいえ畑も手伝っていたから仕事は1週間以上前倒ししている。

ちょっとくらい狩りで留守にしていても問題ないだろう。



それから村長さんに水牛狩りに行く旨を連絡。

こういったのは狩りすぎてもダメなので最大何頭まで狩るかを打ち合わせる。

可食部で余った所は基本干し肉、革は鞣して日用品に、骨は砕いて肥料、この世界の水牛の角は薬の材料、又は試薬の触媒になるから売れるらしい。

余っても無駄にはならないだろうが俺が村に居れる時間に限度が有る。

坊主になる事が多いそうだが、念の為に引き際を確認しておく。


矢は出来るだけ多く持って行く。

俺はスキルで何とでもなるが父さん、クレスはそうもいかない。

大物になればなおさら一矢で仕留める事は不可能だから倒れるまで矢を射続けなければならない。

革がズタズタになるけどそこは仕方ないと割り切る。


1頭くらいは俺のヒヒイロカネの弓で仕留めるつもりだから革はそいつを当てにしよう。


狼達は・・・妹たちに甘やかされている。

野生どこ行った、今回は置いていくか。





さて、狩りへの出発の日、その日の昼のお弁当を母さんから作ってもらい馬車に乗り込む、俺は御者席だ。


客室に乗ったクレスは興味津々でちっとも座っていない。

父さんもキョロキョロしている。


そのまま出発すると今度は流れる様に移り変わっていく景色を夢中になって窓から眺めていた。


やっぱりこの馬車で旅行をしてみたいな。

皆で。





半日程走ると父さんが御者席にいる俺に話しかける。

「この辺だ、いったん止めてくれ」


ムーシカを操作しゆっくり速度を落としやがて止まると客室から皆が降りてくる。


遠くをじっと眺める父さん。

「いないな、クルトン分かるか?」


これは俺に「見つけられるか?」と聞いてくる父さんのいつもの言い回し。


ちょっと待ってと魔力を索敵魔法につぎ込み徐々に範囲を広げていくと多分あれだろう、そこそこ大きな反応が複数・・・20、いや30を超える反応が有る。


そちらに指をさし30頭はいる様だと伝えると父さんは頷いて「進もう」と告げる。


ここからはゆっくり進み30分もしないうちに水牛だろう、黒い牛が群れを成して草を食んでいる。


ここで一旦立ち止まる。

直線距離で2km程度だろうか。

此方が認識できるという事は野生動物の水牛は既に俺達に気付いているだろう。

次第に1頭1頭の間隔が狭くなって群れの密度が上がり、遠目で見える群れの黒の色が濃さを増す。


スレイプニル、馬車ではこの辺が限界だろう。

俺達は馬車を降りて姿勢を低くし、更にゆっくり群れに近づく。



正直言えば俺の認識阻害を使えばなんの苦労も無く近づき、ナイフで簡単に首を刈れる。

しかしクレスはそういった技量を持っていない。

だからこそ、俺とは違う正統な方法で狩りを成功させてこそ、クレスの実力に磨きがかかるというもの。




凡そ500m位まで近づいただろうか、見張り役の水牛がじっとこちらを見ている。

「ここが限界か、ここから狙えるか?」

父さんがクレスに聞く。


「多分大丈夫、でも矢が当たっても逃げられるかも」

そうだね、ちょっとその弓で狙うには遠すぎる、前世ならスナイパーライフルで狙う距離だ。


矢を飛ばすだけなら何とかなるが、幾らこの世界の人達の身体能力が高くても水牛を仕留めるには無理な距離。

むしろ当てれることを否定しないクレスが凄まじい。


さてどうしたものか・・・



そう思案しているとクレスが立ち上がり弓を引くと”シッ”という音を鳴らして矢を放った。


「えっ」と、俺が呆気にとられていると矢は緩い弧を描き、見張り役の水牛の目に吸い込まれるように突き刺さる。

すると一瞬”ブルッ”と体を痙攣させ、そのまま横に倒れた。


目に刺さった矢が脳に達したんだろう。

ここしかないってところに的確に当てるクレス・・・恐ろしい子!


俺が思っているよりクレスの腕前は高い、ものすごく。



1頭倒れるとパニックになったかの様に騒がしくなった水牛たちは、それでも統制を乱さずさらに東へ走り去って行った。


俺達は仕留めた獲物に近づき首を裂いて血抜きをする。

次に腹を裂いて内臓を取り出し、持ってきた桶に移すと多めの塩で揉む。

その後魔法で出した水で洗い流しザクザク切り分け串に刺して晩御飯の準備。


内臓を取った水牛は例のごとく腹に氷をギチギチに詰めて馬車の屋根、荷台部分に上げてしばりつけたら上に帆布で作ったシートをかぶせておく。



串に刺した内臓は俺の魔法で灯した焚火でよく炙り、出来上がった串肉を3人で分けて晩御飯を食べながら今日の狩りについて感想を語り合った。

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