第398話 otto gambe(八本脚)
明日にはコルネンに到着するだろうと言う所まで進み、旅の無事を今から喜んでいる俺、クルトンです。
今回の復路ではスレイプニル18頭の捕獲に魔獣1頭分の素材を手に入れる事が出来た。
だからだろう、あの日からカンダル侯爵様とフォネルさんを含む騎士団員さんの笑いが止まらない。
「インビジブルウルフ卿、あのスレイプニルを譲り受ける条件は何でしょうか?」
「おい、そんな話、卿も答えに困るだろう。
そもそもあれは一度王都に運ばれるんだ。それから調教すませて配備されるんだからうちの団に来ると決まった訳じゃないぞ」
「しかし多少は贔屓してもらえるんじゃないでしょうか。カンダル侯爵領で捕獲されたわけですし、しかもあの数ですし」
騎士さん達はぜひ自分のスレイプニルを手に入れたくて何か方法が無いか休憩の度に相談していたりする。
俺が事業として行うのは騎乗動物の捕獲と調教、そして繁殖。
まあ、本来なら俺の移動手段としての運搬業が本業なんだけど。
けど申し訳ないが俺に配備に関係する裁量権は無いんだよ、なので口利き位しかできない。
「え、クルトンさんが口利きして戴けるので!?」
「ならば2頭、いや3頭は配備されるかもしれんぞ!」
「いやいや、配備されてもどうする?
スレイプニルともなれば生半可な鍛え方では乗りこなせんぞ?」
「訓練の量を増やさねばならんだろうなぁ、うん負けてはおれん!」
面倒な事言っちまったか?
静かにテンションが上がっている騎士さん達の力の入れようが凄い、無意識に身体強化が発動している様で体が一回り大きくなったように感じる。
まあ、配備されたら争奪戦でも行うんだろうから、今の内に鍛えておけば良いんじゃないかな。
スレイプニルと言う目標が有れば力の入れようも変わってくるだろうし。
しかしムーシカがリーダーとして統率しているにしてもやけにおとなしいスレイプニル達だな。
一番元気なのは無邪気にステップしながら歩く子供のスレイプニルくらいなもので本当におとなしい。
コルネンや後に運ばれる王都でもこの調子なら楽なんだけどな。
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はい、無事にコルネンへ到着しました。
予想していたこととはいえスレイプニルがこれだけ居ると少々騒ぎになった。
騎士団と一緒なので途中で捕獲したんだろうと見当は付いているんだろうが、所々で歓声が上がりそれは騎士団事務所に到着するまで続いた。
シンシアはセリシャール君と一緒に侯爵邸に直行、フォネルさんも打ち合わせの為に付いて行っている。
俺たちは騎士団修練場に入って荷物を降ろし、諸々の引継ぎやら残務処理を済ませ夕方にようやく解散となる。
その始末をつけている間にテホア達の御両親、テヒニカさんとステスティさんが迎えに来て先にテホアとイニマを自宅に連れて行った。
両親の下へ駆け寄るテホア達はとても嬉しそうで、今回の王都の話を一生懸命伝えている。
あ、荷物は明日でも持って行きますよ。
ええ、大丈夫です。ではまた明日。
捕獲したスレイプニルは厩舎に入りきらないので修練場で囲っておくことになった。そこそこ高い壁も入口の門もそれなりに頑丈だから逃げ出す事は出来ないだろうけど、念の為に騎士さん達が交代で見張りをするとの事。
「いつまででも眺めていたい」
ボソリとそう呟く騎士さんもいた位スレイプニルは人気だったので、見張りを断る人は居なかったみたい。
俺はその後ムーシカ、ミーシカを騎士団厩舎に預け狼達と下宿先であるマルケパン工房へ向かう。
持ってきたお土産は背負子に括り付けて俺が背負っている。
因みにペスとオベラは今回もシンシアに付いて行ってるよ。
「おかえり、今回も大したものね。
あんなの想像もつかないわよ」
おっと、パメラ嬢だ。
修練場出口に向かっている最中に呼び止められた。
「スレイプニルをあんなに、暫くここ(修練場)での訓練は無理ね」
あ、すみません。
事情が有って連れて来る選択肢しか無かったんですよ。
怪我もしてたし。
「ふふ、責めている訳ではなくてよ。
けど曾爺様がこれを見たら歓喜して泣いてしまうでしょうね、貴方が来るまでは自分専用の馬さえなかったのだから。
私もマーシカが居なければ同じ様になっていたでしょうし・・・今更だけど感謝しているわ」
いえいえ、喜んでいただけたのであれば問題ありません。
マーシカもパメラ嬢と一緒に居る時はとても楽しそうですし。
「ええ、そうね。・・・本当に有難う」
どういたしまして。
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年齢が正確に把握できたスレイプニルはインビジブルウルフ騎士爵が捕獲したムーシカ達の子、マーシカが初めてである。
それまでは捕獲も難しく、捕獲した時点での年齢も憶測でしかなかった事からスレイプニルの生態も含め寿命についての研究が進むことはほぼ無かった。
しかし生まれた年が正確に記録されているマーシカは、定期的な身体測定をパリメーラ姫が行っていた事で幼体から成体、老体への成長の過程、発情期や身体能力がピークになる時期等を含めあらゆるデータが記録され、それはこれからのスレイプニル飼育の為の礎になっていった。
この事からタリシニセリアン国がスレイプニルの一大産地となった要因はマーシカの貢献が大きく、没後は王都とコルネンそれぞれにムーシカ、ミーシカと仲良く並ぶ銅像が建てられ、その功績は長く語り継がれた。
享年108歳。
彼はその人生のほぼ全てをパリメーラ姫と共に歩んだ。
そして、後に具現化する思念体はこの世界の過去と未来を駆け抜けて行く事になるのである。
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