第270話 楯
窯に鋼をくべて温度の上昇を見極めている俺、クルトンです。
俺の炎の魔法を使い窯に火を入れインゴットに熱を加えている。備蓄している資材を俺の為に消費させる訳にもいかないし。
スキルを使えばこの工程も必要ないのだけどこっちの作り方の方がより高品質になるのであえて手間をかける。
丁度良い塩梅に鋼が熱を持ち、白くも見えるその素体をやっとこで引っ張り出すと、くべていたインゴット7個を全てを金床に置く。
スキルを使用しながら槌を振って別に用意したクロム等を添加、インゴット含め全てを一つにまとめ板状に伸ばしていく。
”トンカン、トンカン、トンカン、トンカン、トンカン、トンカン”
板厚を均一に、イメージした通りに伸ばして四隅の鋭角部をR状に面取りして幅50cm、高さ1m位の板状に形成、その後緩く蒲鉾状に湾曲させる。
前世と同じように防護楯の上部に除き窓も拵えて一応形は出来上がった。
追加で持ち手と腕への固定用バンド取り付けの為の金具を細工していく。
今日はここまで、明日は焼き入れ、焼き鈍しを行う。
楯は未だ熱を持った状態なのでここに置いておこう。
盗まれても所在が分かる様にマーカー付けて・・・『作業中、触るな byクルトン』と立札も置いてと。
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”ザワザワザワザワザワザワ”
ん?
昨日の続きを行う為に修理用設備が置いてある区画に行くと何人かが製作途中の盾の前で談笑している。
何だろう。
焼き鈍し用の代替品として買ってきた食用油の樽を肩に担いだまま近づく。
「ああ、クルトン。これって頼まれたって言ってた近衛のリメリル伯爵様のやつか?」
その中にいた1人が楯を指さし聞いてくる。
ピッケルさんですか、どうもどうもおはようございます。
ええ、そうです。総金属製の防護楯ですよ。
「すげえな、どん位重いんだコレ。こんなの使いこなせるなんて流石近衛だよなぁ」
どうでしょう、20kgは越えてるかと思いますけど・・・レイニーさんなら問題無いでしょうから超頑丈に作りましたよ。
これから付与術式も彫るつもりですけど、それが無くても問題ない強度にはするつもりです。
「ほーなるほどねー」
・・・分かってないですよね?
「うん、良く分かったな」
駄目だ、このままじゃ向こうのペースに乗せられそう。
話しはここまでだ。
窯に近づきもう一度炎を入れて全体が暖まるのを待つ。
そしてスキルが窯の温度が適温になった旨伝えてくると、楯を持ち窯の中に投入。
修繕用のそこそこ小さい窯なのでここまで大きい物になると全部入りきらない。
なので俺のスキルで楯に満遍なく熱が加わる様に調整しながら目指す温度になるまでこれまた暫く待つ。
矢避けの付与は施すつもりだがレイニーさんは防御力の他に継戦能力を高めたいと言っていた。
なので受けた衝撃を散らす機能、疲労を軽減する機能、集中力を持続する機能を付与するつもりだ。
そして軽微であれば自己修復する機能も。
凹みなんかは元の形に戻り、傷なんかは砂を均すように素材全体を整えるもの。
細かい話をすれば削れたような傷は僅かであってもそこに周りから素材が補完されるので次第に楯の板厚が薄くなっていく。
でも素材自体がクロムバナジウム鋼なので頑丈、板厚もタップリ持たせているから一生涯使っても影響は出ないと思うけど。
そうこうしているうちに盾に熱が通りスキルがタイミングを知らせる。
予め専用容器に溜め、準備していた油の温度を再度確認してから楯を取り出しつける。
”ジュワゥゥゥーーー”
うん、良い感じ。
この作業もスキルで代用できるんだがやっぱりちゃんと手順を追って作るとなんて言うのかな、魂が宿るというか・・・違うんだよね。
適温になった楯(それでも素手では触れない温度)を確認、油の槽から引き揚げ自然に冷ます。
今日はここまで、これだけの質量の金属が冷めるのは結構かかるから明日状況を確認してから付与に進もう。
昨日と同じく立札を置いて仕事場を後にした。
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”ザワザワザワザワザワザワ”
ん?
何だかまた人が居る。
翌日、楯の続きを行うために作業場に向かうと昨日より人が増えているでござる。
「よお、おはよう。これが依頼していた楯か。なかなかいかつい感じだな」
レイニーさんも居たでござる。
俺がレイニーさんからの仕事をしている最中だってのが耳に入ったんだろう。
それは良いんですけど、ここに居ても良いんですか?仕事大丈夫です?
「直ぐ持ち場に戻るよ、でも聞いてしまったら見たくなるってものだろう?」
ええ、その気持ちは分かります。
「なら、早々に仕上げまで頼むよ。後は付与だけなんだろうからな」
「じゃあな、頼むぞ!」、そう言って仕事に向かって行きました。
このタイミングで他の人達も自分の持ち場に向かって行きます。
はい、お勤めご苦労様です。
そんな騎士さん達を見て「俺も騎士なのにこんな事してて良いのかな?」とも思ったが「あ、大丈夫だったわ」と昨日の続きに入る。
後は付与のみ。
軽く表面を拭いてザックリ油を取り、次に脱脂の為の溶剤を振りかけながら磨くように油を取っていく。
このままでは普通に錆びるので前世の工具なんかは膜厚の厚いメッキか塗装を施すのだがこの世界は魔法が有るので予定していた付与術式と一緒の防錆の付与も施してしまう。
レーザー刻印機の魔法にいつもより魔力を注ぎ出力を上げ、深めに彫り込む。
当然彫る場所は内側、持ち手の方だ。
俺の銘も一緒に掘った後にバリなんかを革で磨いて滑らかにすると、持ち手用に寸法カットした革を巻いて固定用金具にバンドを通して一応完成。
良し、試してみよう。
持ち手を握り固定バンドを留めて・・・バックルもっと簡単に締めれるようにした方が良いな・・・まあ、今でも問題は無いけど改良しよう。
レイニーさんは右手に盾を持つスタイルだから、その仕様で留め具もつけている。
ちょっと慣れない手つきで楯を腕に固定すると立ち上がって前方に構える。
良く分からんな・・・、そう言えば俺この世界で楯使った事無いな。
成人前にスキル検証で試そうと思って、楯が無くてショルダータックルした事あった位だったか。
うーん、前世のMMORPGには楯、剣のスタイルで使用するスキル、武器レベルも最大まで上げていたから取扱いは出来るんだが・・・よし、修練場行って来よう。
以前確認しようとしたシールドバッシュをもう一度試そう、どんな感じになるんだろうか。
ゲームの感覚が甦ってきた様でなんだかワクワクしてきた。
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