第271話 付与限界
やって来ました修練場、日中でも今日はわりと兵士、騎士さん達がいます。
皆の邪魔をしない様に隅っこで準備を始める俺、クルトンです。
壁に近いところに土魔法で木偶人形を拵えます。
地面の土を利用し、出来るだけ圧縮かけてカッチカチにしたのを作りました。
楯を構え動きを確認しながらスキルを思い出します。
『シールドバッシュ』
確か俺がプレイしていたゲームでは、威力そのものは武器に劣るものの自分は防御しながら相手の防御値に関係なく一定のダメージを与えるスキル。
しかも相手の攻撃モーション中にカウンターで決めると相手が眩暈(一定時間行動不能)を起し後方へ一定距離吹っ飛ばされる。
これを利用すると崖など高所での戦闘時は武器やスキルで攻撃するよりも、シールドバッシュで突き落とした方が遥かにダメージ出せたりする。
地形によっては相手が即死することも有り、高低差のあるダンジョン攻略時に楯を持つガチタンクロールではDPS出す為に必須のスキルだったりした。
俺がプレイしていたキャラもタンクロールではあったが、オープンワールドを楽しむために探索メインだったので防御値は重視していたものの、やや万能型だった。
なので楯を装備するビルドは殆ど試した事無かった。
だって移動速度が遅くなるんだもの。
何かを得れば何かが代償になると言った当たり前のゲームバランス調整されていたから、防御値上げる→重装備になる→重量が重くなる→移動速度が鈍る・・・と言った具合に、サーバーの演算処理が重くならない様に重量計算はしないが、システム上重装備の装備数毎に一定割合で移動速度が犠牲になっていった。
一部の例外を除き防御値を上げる程に探索時の移動でストレス感じるようになるんだよな。
まあ、ボス戦、レイド前に装備変更すればいいと言った考えも有るけど、俺は面倒くさかった。
そうしてスキルに内包されている情報の確認も済んで準備が整うと、周りにいた人たちが集まってくる。
「今度は何やらかすんだ?」
ピッケルさんが声を掛けてくる。
楯の出来栄えを確認しようと思いまして。
なんでタイミング良くこの人ここに居るんだ?
いろんなところにいるんだよね、この人。
「へえ・・・相手してやろうか?」
暇なんですか?
「いいや、仕事中だけど?」
・・・良いんですか?
「今日は訓練の日だからな、大丈夫。で、その楯に打ち込めばいいのかな?」
腰に差していたハチェットをぬき、ジャグリングしながら聞いてきます。
そうですね、打ち込んでもらった方が技の確認し易いですね。
でも先にどんな感じか確認したいので木偶人形に試してからにしていいですか?
そう言ってさっき拵えた木偶人形に近づき右手に持った楯を構えるか。
シールドバッシュ、シールドバッシュ・・・念仏の様に唱えタイミングを見てスキルを発動させる。
”パンッ”
それなりにカチコチに圧縮させていた木偶人形の膝から下と肘から先、首から上を除いた胴体部分のみが綺麗に弾け飛んだ。
「痛てっ!」
「ゴッ!」
「痛てっ、痛てっ!痛てえな、オイッ!!」
周りに寄ってきてた人たちの殆どは兜を脱いでいたので、雹の様に土塊が周りの人達の顔を襲って・・・顔や頭を押さえて蹲ってる。
(´・ω・`)スマン。
でも俺の正面方向にわざわざ立ってた人は半分自己責任です。
それでは次にピッケルさん協力のもとに実践形式で・・・。
「あいつもういないぞ」
ん?
「血相変えて修練場から出ていった。ああいう所は判断早いよなぁ、アイツ」
損するタイプの危機管理能力の発揮の仕方ですね。
逃げるくらいなら最初から協力するなんて言わなければよかったのに。
「そうだよな、お前の事だからただで済むわけないのにな」
「はは、違いない」と皆が笑いながら自分たちの訓練を再開する為に散っていきました。
・・・声を掛けるタイミングを掴ませない見事な引きっぷり、どうやら協力してくれそうな人は居ないようです。
どうしようかな・・・よくよく思い出すとスキルを使用した場合、扱う武器が破損する事なかったんだよな。
木の枝で岩を砕く位だったし。
だからスキル使ってしまうと楯の性能なんて測れない。
うっかりさんの俺がまた顕現してしまった。
再度木偶人形を作成、準備を整え今度はしっかり俺の身体能力のみで防護楯を突き出す。
構えた右の肘を脇腹にくっつけ、ほゞゼロ距離から足長(踵からつま先までの長さ)程度踏み込むのと一緒に腰を左に回すと、踏み込み腰を回した分だけ盾が前方に突き出され俺の体重をしっかり乗せた体当たりが楯で発現される。
”パンッ”
「痛てっ!?」
「痛てっ!痛てえな、またかよ?!」
今度は素振りの為に比較的軽装の人達が顔と二の腕を押さえて蹲っていた。
(´・ω・`)マジでスマン。
一応スキルと遜色ない位の効果は確認出来た。
そしてこの楯がその衝撃にも耐えうる物である事も。
空気の摩擦で一瞬赤くなった表面も鈍色に戻り、少しこすれた様な傷も徐々に目立たなくなる。
付与もしっかり効いているようで、さほど時間も経たずに修復していった。
いや、矢避けの効果確認していないな、初めて施す付与ではないが直接命を守る装備だから確認しておいた方が良いだろう。
誰かいないかな弓扱える人・・・ぐるりと周りを見渡すと皆俺から目を逸らす。
仕方ないか・・・。
土で壁を作るとその前に今日三度目の木偶人形を拵える。
今回はその腕をハグしている様な形にし、そこへ上から楯をスルスルッと差し入れ、垂直に保持させてその場から離れる。
修練場に常備されている弓と鏃のついていない矢を借りて、それなりの距離をとって構えると楯に向かい矢を放つ。
1回、2回、3回、4回・・・・20回。
全て当たった・・・うん、知ってた。
そりゃそうさ、俺の弓はシステム上的を外さない仕様だもの!
何なら放たれた後に軌道を変えて的を狙っていくくらいだもの!!
そうだよ、矢避け付与の検証になんねえよ!
実は俺が施した付与より、俺が持つシステム、スキルの方が能力としての位階が上なんだよな。
そういや俺の馬車を拵えた時もコルネンの騎士団員さんに協力してもらったっけ。
矢はもったいないからと言って投石で。
因みにデデリさんやチェルナー姫様の馬車は俺の馬車に施して実績ができた付与術式をそのまま施したから検証はしていない。
俺が膝から崩れ落ち地面をバンバンして土ぼこりを立てていると、後ろから遠慮がちに声が掛かる。
「矢を射るだけなら俺やりましょうか?」
ん?ああああ、本当ですか?
お願いしますぅ、俺じゃ検証になんないんですぅ。
成人したばかりだろうか、かなり若く見える背の低い少年が俺の検証作業に付き合ってくれると申し出てくれた。
ありがてえ。
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