第272話 【軌跡】狼の足跡1
ポロローーーン・・・。
”ヒュー!!”
”パチパチパチパチ”
”パチパチパチパチパチパチ”
有難うごさいます、有難うごさいます。
盛大な拍手、本当に有難う御座います。
・
・
・
”コトン”
「今日は大盛況だ、有難うネイソルさん。これは俺のおごりだ」
私は吟遊詩人のネイソル。
一昨日からここ王都の得意先の酒場を巡り、音楽を披露して報酬を頂戴している。
今日は居酒屋魔の巣(タイフェスネスト)にお邪魔して今日のノルマの4曲が終わりマスターからエールを奢ってもらったところ。
「前に来てもらった時より抜群に美味くなったエールだから期待しな」
そうマスターが言ってきます。
前からここの店で出すエールは水で薄めることなく、料理もマスターが手を抜かない事で巷では評判でした。
以前も美味しく戴いていましたがどれどれ・・・おや、カップが冷たいですね。
「(ニヤ)」
では、いただきます。
・・・・冷たい!香りは常温の方が強いんでしょうがなんですか?キレのあるこの苦みと・・・ングングングング、プハー・・・冷やした事で感じるこののど越しの爽快感!
控えめに言っても美味い!
「そうだろう(笑)。まあ、エールとは言ったが本当はラガーと言うらしい、酒の保管庫を改造してから仕入れ始めたんだ。
苦みの決め手になる材料を追加するから厳密にはエールとは違う酒なんだがな」
はー、初めてですよこの爽快感、本当に美味い。
「でだ、これもお前さんは知らんだろう。今のここの看板メニューだ」
報酬は酒を除いた晩の食事も含まれます。
なので目の前に出された料理、パンと根菜とベーコンのスープ、そして・・・。
「鶏ももの唐辛子揚げだ。今日はお前さんが来るから付け合わせはタルタルソースを準備した」
おお、タルタルソースですか!大好物です。
唐揚げと一緒に食べるタルタルソースはもはや悪魔的ですね。
初めてコルネンで食べた時はタルタルソースの曲を作ろうと思ったくらいです。
「ああ、そうか、食った事あったか。でもこの鶏もも揚げと合わせたヤツも絶品だ、うちのは他より少し辛めの味付けだけどな。だからこそ・・・まあ食ってみろ、手づかみでガブリとやるのが一番美味いぞ」
ほう、鶏ももの唐辛子揚げ・・・ですか?
気になります、唐辛子揚げはコルネンにもなかったはずです。
鶏肉・・・タルタルソースにも抜群に合う事は間違いないでしょうが。
え?唐辛子を粉にしてそれを衣に混ぜて揚げてあるんですか、それだけでも手間が掛かっていますね。
ではタルタルソースをたっぷりかけて・・・。
(ムグムグムグ)旨い!・・・(ムグムグムグ)旨い!!・・・いや?!。
これは・・・。
”コトン”
「ほらよ、2杯目からはお代を頂戴するぜ」
・・・いただきます。
ングングングング、カーーーー!旨い!!
「ははは。どうだい、これも『悪魔的』だろう?」
・・・辛味とタルタルソースのコクがエール、いやラガーの消費を加速させる。
悔しいが『悪魔的』に美味い。
「揚げる料理を追加したからな、炭が消えるまでは油は落とさないからこれも合間に揚げるんだ。今回はサービスだ、ホラ」
出された皿にはウェッジカットされた皮付きのジャガイモが盛られている。
これも油で揚げたものですか。
「とりあえず味付けは塩だけ、話によると自分の好きに味付けして良いそうなんだけどよ。
それこそタルタルソースでも美味いぞ」
心惹かれたが唐辛子揚げのタルタルソースが無くなってしまうといけないのでそのまま塩味の芋を口に放り込む。
ほう!これも・・・ングングングング!
ラガーに合う。
しかも憎たらしい事に指で摘まめて一口大で食べ易い、幾らでも食えると舌も腹も錯覚してしまいそうだ。
「どうだ、やかましいのは相変わらずだけど俺の店も小洒落てきたろう?。
そのお陰か客層もちょっとだけ(笑)上品になってきたし、常連は前より静かに楽しむ様になった。
喧嘩で店の物を壊される事もなくなったし、何が気に食わねえのか料理を床にぶちまける様な問題起す輩は常連連中が締め出し(出禁)てくれる。
有難い事だよ、彼のお陰さ」
マスターは店のカウンター奥の一席に目をやる。
満席のこの店で唯一そこは空席になっていて『狼の予約席』の文字が彫られた予約プレートが置いてあった。
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