第273話 矢避け

楯の検証の説明を丁寧に伝えている俺、クルトンです。



検証に協力を申し出てくれたのは国軍弓兵のアルケロさん。

驚いた事に既婚者で2歳になる息子さんがいるそうだ。

羨ましい。


小柄で少年の様だが年は26歳との事、何でも小さい頃からお母さんそっくりだったそうで15歳くらいまでは女性と間違われる事もしばしばあったそうだ。


「王都に上京した時は成人してるのに皆やけに優しいし、街の人に軍の厩舎の場所を尋ねて『弓兵になる』と話したら聞く人皆から引き留められるし大変でしたよ」

苦笑交じりにそんな話をしてくれる、多分今まで何度も披露した彼お決まりのネタなんだろう。




内容の説明が終わり早速矢を射ってもらう。

故郷に居た時から狩人として訓練受けていたそうで、成人した18歳で直ぐに弓兵にスカウトされた事を自慢するくらい弓の腕には自信が有るらしい。


体格の問題で弓力の強い弓を射るのは辛いらしく、長射程の弓は扱えないがその分命中率と連射の速度は結構なものだそうな。


狩人なら小柄な体も有利に働く、獲物に気取られ難くなるだろうし。

俺?認識阻害に頼りっきりでしたよ。




「この距離であれだけデカい的なら外しませんよ」

真剣な目で的の盾を見つめそう言い放つアルケロさん。

かなりの自信がうかがえる。



その言葉、頼もしい。

でも説明した通りあの楯には矢避けの付与施しているので一応しっかり狙ってくださいね。



そのまま弓を構えつがえた矢を引くと一瞬の間も置かず弦を弾き矢が飛んでいく。


ほう、一連の動作に無駄、淀みが無く狙いを定めて放つまでが凄く早い。

獲物は鳥が多かったのかな。


”ジャッ”

放った矢は盾に当たる少し手前でかなり大きく軌道を変え、後ろの土壁に刺さる。


よし、ちゃんと付与効いてる。


”ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ”

・・・もういいです、終わりです!付与の動作確認できましたから!!


合計で1、2、3・・・12射したところでようやく止まったアルケロさん、かなり集中してたんですかね。



「コレ・・・俺たち弓兵の存在意義が無くなりません?自信無くなるんですけど」

ああ、そう感じますか、そんな事無いですよ。


王城内の近衛騎士以外の通常の騎士は魔獣、兵士さんは野盗とか犯罪者からの防衛が主な任務でしょう?


魔獣は言わずもがな、犯罪者にこの付与術式を扱うことは出来ませんよ。


「それはなぜでしょう?」


付与内容は厳重に偽装施していることも有りますが、俺の矢避けの付与術式は『起動』させるのにそれなりの魔力量が必要なんです。

一度起動させると暫く持つんですけどね。

騎士なら問題ない量でも一般人がそれを成そうとしたら魔力欠乏症一歩手前になるでしょうね。


仮にこの付与を難なく起動できるだけの魔力量を内包している犯罪者が居たら、それこそ騎士かメイジクラスの人材です。

指名手配どころかこの国最強の武力集団である騎士団が速攻討伐に向かいますよ。


「なるほど、そうなんですね。でも・・・さっきの説明だとこの楯は近衛騎士のリメリル伯爵様に納品するんでしょう?

王城内での飛び道具の対処とか、無駄ではないでしょうけど近衛騎士は投げナイフ位なら気配だけで余裕で躱すバケモノ揃いじゃないですか。

距離さえあれば矢でも手で弾きますし、そもそも王城内でこんな大きな楯使わないでしょう。

魔獣相手ならなおさら飛び道具使ってくる事ありませんし・・・必要ですか、この付与?」


王城内では使わないでしょうね。

「ですよねぇ」


でも魔獣戦はいついかなる時に遭遇するか分かりません、特に俺なんか2年経ってないですけど4回以上遭遇しました。

聞いたところこれはかなりの遭遇率みたいですよ。


「ですね、でもさっき言った通り魔獣は飛び道具に相当する攻撃なんかしてきませんけど・・・」

味方が打ってくるじゃないですか、それこそ雨あられの様に。


「ん?どういう事です」

俺がこの楯に施した矢避けの付与は使用者を包み込む様に効果範囲を指定しています。

その為に起動に必要な魔力量もそれなりなんですけどね。


なので後ろから味方が打ってくる矢を気にしないで前線で魔獣と交戦できます。

繰り返しになりますが矢は当たりませんから。


「リメリル伯爵様を一番槍で特攻させる事前提の付与・・・ですか」



ちょっと違う。

ゲーム感覚で申し訳ないがフレンドリーファイアが有ると行動がかなり制限されるんだ。

現実世界ではフレンドリーファイアが当然の『仕様』なんだけど。


飛び道具限定ではあるが、その影響を無視できるとなれば魔獣と対峙する時に複数人の弓兵で放つ『矢の弾幕に守られた騎士』で対処できる事になる。

今はレイニーさんだけでも、これが騎士の標準装備になれば接敵前の遠距離攻撃だけじゃなく乱戦時にも弓兵が活躍し続け、騎士は常に矢のアシストを受ける事が出来る。


こうなれば後は矢が尽きない様に十分な量を備蓄する事と、矢の補充時に出来るだけスキを作らない様にする為に弓兵への矢のスムーズな補充方法の確立、それができれば魔獣との戦闘において騎士の生存率は格段に上がるだろう。


矢避け、前世のゲームスキルでは遠距離攻撃からの一定確率の回避、ダメージ軽減をもたらすスキルだったが、この世界で俺が付与術式で実現させた事で『俺が』施せば(万が一当たった時のダメージが軽減されるかは不明だが)今のところ回避率は100%。


かなり有用な付与となり、且つ魔獣討伐戦であれば大規模になればなる程、敵味方が入り乱れる程に効果が実感できるだろう、そんな機能。


当初は面倒な野盗対策の一つとして設計した術式だが、仕様が単純だと使い方の応用を利かせやすい。

我ながら良い付与だと思う。




「リメリル伯爵はその為の人柱ですか・・・」


言い方あぁ!

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